里帰り 6 離れにて 父、大回転

 未成年の魔法使いは皆無という訳では無い。魔法使いになる為には長い時間の修業が必要で、魔法使いとして活躍を始めるのは大抵成人を過ぎてからだ。


 ただ、早いうちから才能を見出され、優秀な師に師事し未成年の内に魔法使いを名乗れるようになる者も稀にいる。そういう未成年の魔法使いを家族、特に家長から守る為の方法はいくつかある。



 基本的に未成年はその家の家長、つまりは父親の意思一つでどうとでもなってしまう財産のような扱いになっている。ただ、未成年で魔法を使えるようになった人材を、家長だからの一事で自由にされてはたまったものではない。


 だからギルドや国はそういう未成年を守る為に、横から口を出せるように法を定めている。一つはギルドに正式に登録してしまう事。一つは軍に強制募集してしまう事、そしてもう一つは後見人が付いた上でその未成年を家長にしてしまう事。


 2つ目の軍隊への強制募集に関しては、家長に対しての強制であって、大抵は本人がそれを望まない限り魔法使いの強制募集など行わない。


 力ある者を敵に回すような事は避けるべきであるから。それだけ魔法使いは恐れられているのだ。



 まぁ、私が父にやらかした件を見ても、わかるよね。普通の人から見たら、見えない凶器を持って歩いているようなもんだし。怖いよね。この世界の魔法、特に杖は必要ないから余計に。




 1つ目の方法は私が目指した方法で、ギルドで正式に登録する。


 そうする事で自分の命に、自分で責任を持つことのできる成人であると認定してもらえる。このギルドって私は先入観があって冒険者ギルドが念頭にあったけど、大きな意味のギルドをいっているようで、商業、職人、魔法等色々な組合ギルドを指している。


 とは言っても、何の伝手もない人間が簡単に登録できるのは冒険者ギルドの仮登録しかないから、結局は変わらないんだけどね。



 最後、三つ目の方法がちょっと変わった方法で、ギルドへの登録も軍隊にもいきたくない未成年を守る方法。家長がその家の未成年を如何様にも扱ってよろしいのであれば、保護対象を家長に据えてしまえば問題ないでしょうと言う事だ。


 実力的には、未成年であろうが魔法を使える時点で、既に一般人がどうこう出来るような存在ではなくなっているから、実力に応じて権力を持つという事だね。


 これら3つの方法は、未成年の魔法使いを守るというより、勘違いした家族が、未成年の魔法使いを好きに扱おうとして害されることを防ぐ面もある。



 騎士爵さんが言っていた、「法がどちらを守っているのか」という言葉はこれを指した言葉だよ。



 今回はこの3つ目を利用した横押し車だね。ややこしくて仕方ないけど今回はありがたい。



 最初に私がギルドに正式に登録された書類が一つ、これで私は成人です。


 次に偉い人、この場合は辺境伯様が私の後ろ盾になり、我が家の家長を私こと、エリーちゃんに決定する書類が一つ。これで私が家族で一番偉くなりました。私の言う事は父より偉い。因みにこの辺境伯「様」ってワザと言っているよ?色々理由はあるけど、今は置いておく。



 最後にエリーちゃんが家長になった家の、シリルを除く全ての人を現在彼らが持っている家財と共に放逐する書類が一つ。私はシリルがいれば後は要らんから、あんた達は勝手にしたらいいでしょって事ね。



 そうなると私が家長で家族がシリルの二人きりの家族と、父が家長で今まで通り家と畑で暮らせる家族、二組が出来上がりましたっていう、ややこしい手続き。



 へんてこなやり方だけど、この書類に領主様からサインと印章をいただいた時点で、父が何を言おうと、私とシリルは彼らとは別の家になったという事になるわけなのですよ、奥さん。



 正直、長男を除く兄二人は14歳、13歳と年が近い事もあって仲も良かったし、引き取れるものなら引き取っても良かったけど、男の子だからねぇ。


 妹に家長として口を出されるのもプライドがあるだろうし、自分でやりたい事があるかもしれない。土地はあるのだから自分で開墾したいと思っているかもしれない。


 話してみないと何も分からないけど、シリルとは違って希望を聞いたことは無いからなぁ。



 万が一、兄二人が私の助力を願うのなら、今回はもう遅いけど、後でなにがしか力を貸す事はあるかな。別に嫌いなわけじゃないし、嫌な事された事無いし。結構可愛い兄二人だし。ちょっと生意気だけど。


 長男は無理。もうあれはミニ父だね。次期家長である事を鼻にかけて、父には従順なのに母にも他の兄妹達にも自分の姉ちゃん達にもガキの頃から次期家長風吹かせてたから、好きじゃないんだよね。


 母も父の言いなりだし、私を領主様に売りに出すときも、むしろ賛成していたから嫌い。


 母には母の考えとか気持ちがあったのかもしれないけど。跡継ぎの産まれない騎士爵家へ、妾としてもらわれる娘にどんな幸せを頭に浮かべたのか。多産系のお腹一つ持ってバンバン騎士爵さんの跡継ぎを産めば、私が幸せになれると考えたのかもね。


 話し合ってみないと分からないけど、今はまだ母を受け入れる気にはなれない。



 シリルはね……。家を出る前に、彼女が欲しがっていた私の宝物のリボンを渡した時、私が逃げなきゃいけない理由を話して、必ず迎えに来るってリボンに約束したから。それまで待っててねって。


 シリルも泣きながら待っていてくれるって約束してくれた。だから何年経っても絶対に迎えに行かなくちゃいけなかったのよ。


 まさか三か月経たずに迎えに来れるとは思いもしなかったけど。



 と、まぁそんな色々を村長さんと騎士爵さんが物分かりの悪い父に、かみ砕くように説明してくれた。


 途中、「馬鹿な」とか「そんな事ありえん」とか言葉が漏れていたけど。特に私が魔法使いである事がまだ納得できていなかったみたい。椅子から立ち上がって口汚く、私の後ろからシュリーさんが魔法を使ったんじゃないかって疑っていたから、今度はわかりやすく、私が口に呪文を出して父を吹っ飛ばして上げた。





 いや、死んじゃいないよ?「小爆破」の魔法をアレンジして、平手打ち程度の威力に抑えて、衝撃波を父の顔面に叩きつけてみた。コントロールミスったら普通に爆散していたかもしれないけど。



 父の頭が。



 バン!と破裂音が部屋の中に響いて張り倒される父。浮くように角度を付けたせいで後ろ側に大回転をかまして前のめりに倒れ伏す父。


 あちゃぁという顔をする周りの方々。リロイさん達含む。


 兎に角その一件で、ようやく私が魔法使いだと理解してからは話が早かった。床に粗相してしまった父は最早プライドも何も残っていない様で、その場に座り込みとにかく村長さんと騎士爵さん、そしてシュリーさんの言う事をうんうんとただ頷き返す。その様はまるで、昔からお土産なんかでよくある赤べこの様で少し笑った。



 わかるかな、赤べこ。分からなかったら調べてみてね。



 私が笑ったら父が怯えていた。解せん。父の書類へのサインは特に必要は無いのだけど、シリルが私の家族になって家を出る事を了承した旨、村長に文字を教えてもらいながらサインしてくれた。一文字一文字びくびくしながら教わっていたよ。


 エ、ソ、ンって書いてくれて終了。後は騎士爵さんとサヨナラして、シリルの待つ2の村の元実家へと馬車で向かう。一応2頭引きの大きな馬車だし、村長さんと粗相さん、いや父を乗せても余裕があったから端っこに乗ってもらって今回の旅の最終目的地へと向かう。



 そう言えばさ、騎士爵さん。今までずっと頑張っていたのに4人しか子供が出来なかったって事は、余程タイミングが悪かったのか、頑張ったつもりだけど実は世間的にはタンパクで月に一度くらいしか頑張れなかったのか。もしくは種が薄かったのかのどれかだと思うんだけど、よく急に全員ご懐妊となったもんだよね。


 多分、ご懐妊騒ぎが無ければ、私への追手ももっと早く出そうって話になってたかもしれないし、今回のように奇麗?には終わらなかったかもしれないよね。



 と、考えていたら分霊わたしがとんでもないカミングアウトをしてくれた。


 まだ家出をするとか妾がどうとかいう話が出るちょっと前の事。


 私から度々離れて、周囲を警戒していた分霊わたしは、事が起きる前に大体の状況を把握していて、後々の面倒を先に片付けておこうと考えた。


 つまり、子供が出来れば文句ないでしょ?と。そして私の様子を騎士爵さんが見に来たタイミングで薄い種の体質を治療したという事みたい。



 そうとは知らずに、いつものように励むご婦人たちのお腹には揃って天使が訪れた、と。



 それならそうとさ、先に個体わたしに教えてくれれば良かったのに。駄目?なんだ……。つまらないから?そうなんだ……。


 何度目か。思わずため息が漏れた。

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