男共と角突き合わせて話し合い4 いけに……なんだって?

 精霊は素養の無い者には声も姿も見ることは出来ない、なんて事をぶちまけた直後に、私に向かって恩義の有る精霊さんと言うあたり、少なくとも個体わたしがただの人類種ではない事を理解しているというサイン。


 というか、さっきぶっちゃけちゃっているからね。彼らは確実に私が神か邪神の類であることを確信している。



 「あら、残念ですけど、契約の無い者には精霊の姿が見えないんじゃなかったかしら?気のせいか、今まで会話も成立しているように思うのですけど。」



 「それ以上は言わぬが花だろう。さっきも言った通り、”そう”だと分かれば、それ以上は必要ない。貴女はエステーザ南支部所属の冒険者、エリー殿であり、それ以外の者ではない。


 そうあるべきなら、我々はそうあるよう努めるさ。」



 藪をつつく必要があったから蛇が出てくるリスクを負っても突いた。知らぬ間に逆鱗に触れるような事態に陥る位なら、触れたくないものでも自ら触れてリスクをコントロールしなくてはいけない立場の人達、という事なんだろうけど。



 「私には皆さんが何を言っているのか判らないし、無責任な噂が広がるのも少し困りますよね。」



 「あぁ、そこは何とかなるかもしれんな。リッポ、先程の蘇生に関する知識や技術をある程度纏めたら他の治療院や魔法治療士、それと意味があるかどうかはわからんが奇跡の担い手たちに流すんだ。


 それと同時に、以前から研究していた蘇生法を南支部の治療院が実践した事とその結果を関係者に通達しろ。殊更うわさを否定するような言動は控えろよ?


 自分たちが知りたがっている答えがその辺に転がっていれば、後は勝手に噂が広がる。」



 元赤がそう言い切った後に何かに気が付いたように支部長さんの方を向いた。



 「っと、これでいいかなリーメイト。」



 「あぁ、問題ないだろうね。ただ、情報を纏めるのを待つ必要は無いさ。事情を知っている側のうちの治療院の職員たちに噂を流せばいいだけだ。


 以前から極秘で蘇生技術について研究していたとね。


 その後からわかりやすくまとめた情報を各治療院に流せばいい。その頃には良い具合に下地も出来上がっていて、楽に浸透するだろうさ。」



 おぃ、私が否定した部分にちゃんと反応して肯定してもらいたいんだけど……、スルーですか、そうですか。


 つーか本当に彼らとお話すると疲れるんだけど。


 もうお家に帰りたいよ。喉乾いたし……。



 そんな私の内心に気が付かない男共は自分たちで何か話し合った後、まだ話す事があるのか、真剣な表情をして私に向き直る。



 「まだ幾つか確認したい事があるのだが。」



 と、私の表情に気が付かないふりをして、話を進める支部長さん。あんたら位に鋭い人なら、そろそろ私が疲れてウンザリしているのは気が付いているだろうに、華麗にスルーする辺り、後で覚えていろよ?


 どこか苦笑いを浮かべながら元赤が支部長さんに代わって話を進めてきた。あ、うん。なんかあんたとはこんな感じの「なれ合いバイオレンス」的なやり取りを延々と繰り返してきているから、心理的抵抗感がないのかもね。



 「エリーも疲れてきているようだしな、腹の探り合いは止めて、手早く話を進めようか。いいかな、リーメイト。」



 「そうだな。私もそろそろ疲れてきた。まるでマッドトータスの甲羅の上でダンスを踊っているような気分だったよ。


 貴方の方が適任だろう。それと、良いのだろう?ジル。」



 ん?おお!?元赤さんに支部長さんがジルって声を掛けた!?元赤さんってジルって言うの?なんか女の人の名前みたいだなぁ。



 「あぁ、その辺りはもう少し後で話すさ。それとリッポ、希望するならここで席を立っても良いが?」



 「今更ですな。一番面倒な部分に関わってしまったのだから、後は変わらんだろうに。大体、今から話す部分で厄介な部分なぞほとんど無かろう?


 お前さんの事情は知っとるし、一番知りたくなかった部分は知ってしまったしな。」

 


 何かを諦めたかのような表情で話す院長先生。なんかごめんよ?大丈夫だよ、院長先生を虐めたりはしないから。支部長と元赤はわからんけど。



 「私については、もう今更だからな。だから私をエリーの護衛に回したのだろう?リーメイト。」



 「その件については今は関係ないだろうに。」



 この会話が本当だとしたら、随分と前から私は少なくとも二人の男達に正体を勘付かれていたって事になるんだけど。その場合は今回の事は単なるきっかけでしかなかったって事か。



 「私は独り身だし、一人きりだ。君もそんなだからな、後顧に憂いは無いだろう?リッポは大家族持ちだが彼女の直属の上司でもある。どのみち知らないではいられないさ。」



 軽く頭を振る元赤。


 今後の参考に何が駄目だったのかを知っておきたいけど、それを聞くという事は完全に白状したも同然だから、流石に聞けないかな。たとえ茶番だとしても。



 「あぁ、まず確認しておきたいのは君の腕を吹き飛ばした男の事と、その後に出現したジャイアントの事。


 どうも彼と君は旧知の仲の様だったからね。


 君と知り合いだった男があのジャイアントを召喚した。無視できるような事じゃないからな。」



 ほぅ、他の男と知り合いだったのが気になる、と。あの男とはどういう関係なんだってか。いや、冗談だから頭の中で笑わないでよ。しかも失笑ってどういう事よ。



 「単にエステーザに初めて来るときに道中で偶然に一緒になっただけよ。そう言うと、色々と勘繰りたくなるだろうけどさ。そんなたまたま知り合った男に右腕を吹っ飛ばされる事になったのは、我ながら奇縁だとは思うけど、単なる偶然よ。


 それとジャイアントの事は話に聞いたことのある普通のジャイアントよりも大きいって事以外はわからないわ。恥ずかしながら、あの時少し気を失っていたみたいで、あんまり覚えていないのよね。」



 あの男が、女かも知れないという点は伝えずにおく。もしかしたら私の勘違いの可能性もあるし、性別なぞ話の本筋には関係ないだろうし。



 「それなら、私も恥ずかしながら、だな。咄嗟に動こうとしたが、気が付いたら仰向けに倒れていた。そこは了解した。重大事ではあるが、簡単に答えに辿り着けるものでもない、か。


 正直、あれ程のジャイアントをああも気軽に呼ばれては、たまったのものではないからな。対策を立てられるのなら立てておきたかったのだが、何もかもエリーに頼るわけにもいくまいな。



 ではあと一つ、確か以前、貴族のお嬢さんの治療の際に君が話していた、時間をかけてどんな深手でも病でも治す魔法、使ったのだろう?あの少年に。」



 わぁ、バレテーラ。てか元赤、ジル程の人ならあの背中を切られた男の子が半身不随になるほどの怪我だってことはお見通しだったって事だね。これに関しては、この場にいる人達なら隠すつもりは、もうないから情報の開示くらいはしてもいいかも。



 「ええ、まぁ。」



 でも咄嗟に言葉を濁す私。



 「そうか、経過は良好のようだしな。後日、辺境伯関連で頼みごとをするかもしれない。不快でなければ受けてほしい。


 おそらく、彼らも私達と同様の結論に達するだろうから、余計な干渉は生じないはずだ。」



 そっか、そう言う事か。


 この世界、普通に神様仏様邪神様がいるから、ちょっとした切っ掛けで直ぐに彼らのような存在と結びついちゃうのか。いや、仏様はしらんが。


 普通なら、神様や悪魔なんて存在するはずがない、とか、めったに出てくる存在じゃないって信じているからちょっとくらいガバやらかしてもバレないけど、この世界は意外と頻繁に彼らと遭遇する訳だから、直ぐに勘違いされてしまう。



 「相応の報酬さえもらえれば考えるわ。」



 少し苦い顔をするジルさんとリーメイトさん。



 「あぁ、その件もあったな。」



 苦笑いを浮かべながら、元赤ジルは懐から何やら紋章の入ったナイフと徽章を取り出した後、私に見えるように掲げる。



 「まずは身の証を立てておこう。私の名はジラード・イル・ハザール。ルーデンの神の槍の生贄、上台の贄、ルーデンの第4王子だ。ジルはまぁ、愛称だな。」



 ちょっと待ってほしい。いけに……なんだって?

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