男共と角突き合わせて話し合い3 バレた

 熱に浮かされたかのような支部長さんの表情が、少ししたら急に焦点が定まったように引き締まる。私はそれに反比例するように、多分情けない顔をしていたと思う。



 「あぁ、勘違いしないで欲しい。先程も話した通り、私はベルトゥーラ様に誓いを立てたし、いまだその誓いは私を支えてくれている。


 私の妻は、未だに亡き別れになったあいつだけだ。


 ……本来なら、この話も私の胸の内に納めておくつもりだった。」



 そう言うと、支部長さんはお茶を飲みたそうな表情をして、元赤や院長先生をちらりと見やる。院長先生は相変わらず耳を塞いではいたけど、そうは言っても全く聞こえないわけじゃないだろうから、支部長さんの言葉に反応して目を開けたし、元赤に至っては元から話を避けるつもりは無いようだ。



 「意識が朦朧とした私が見た妄想が、命を救ってくれた君の姿と重なって、記憶を塗り替えてしまった可能性も高いが、まずは確認しておかなくてはならない。


 事は私の個人的な事情だけではないからな。そうであれば、ただ想うだけで良かったのだが。」



 「その大地の精霊と私の関係、ですか?」



 「あぁ、そうだな。だが、私の勘で言わせてもらうなら、もう一歩踏み込ませてもらおうか。あの自称大地の精霊は貴女ではないかな。」



 風が一瞬、テントの外幕を強くたたく。



 彼の表情から察するに、リーメイトさんなりの確信を持っているのだろう。ここで言葉に詰まったら白状しているのと変わらない。第一、大地の精霊それ分霊わたしであって個体わたしではない。



 「はぁ、そんな存在と同一視されるのは光栄な事ですけど、危険な事でもありますよ?私は私自身が厄介事に巻き込まれるのを望みませんし、私の周囲の人達を私の事情に巻き込むつもりもありません。


 ましてや関係の無い事まで私との関連を疑われても困りますけど、妄想以外になにか根拠でもあるのでしょうか。」



 貴方達が今まで何度も指摘してきた「神の事情」に突っ込んでくるな、という牽制とアンタが経験したことは私の抱える「神の事情」とは関係ないですよってちゃんと伝わったかな?



 「根拠、か。君のその反応だけでも十分なのだがな。まぁ、上にあげる報告は君の言葉のままでもいいか。むしろその方が無難ではある、か。」



 支部長さん、あっさりと私の言葉の裏を看破してくる。え?私何か間違ったのかな。動揺していなかったし、ちゃんと誤魔化せていたはず、なんだけど。ってか、やっぱりこの人たち怖いやん。支部長さん、色ボケでもしてるんかなって思ったけど、表面の雰囲気が変わっただけで本質は変わってなかった。



 「ははっ、エリーは自分でわかっていないのかもしれないけどな、君はわかりやすい。図星を指された際の誤魔化し方一つで、人物がわかるというものだが、君の場合はわかりやすすぎる。


 ムキになって根拠を求める辺り、な。それでは何で分かった?と聞き返しているようなものだよ。」



 元赤がそう言うと、リッポ、と院長先生に声を掛ける。



 「どうやら自覚が無い様だがエリー君、この所流れる幾つかの君の噂について、耳にしたことは無いかな。」



 噂って、そう言えば私自身、私の噂をあんまり耳にしないな。てっきり乙女的に不名誉な噂が独り歩きしていると思っていたんだけど。まぁ、簡単に面と向かってそんな噂を本人に話す訳ないだろうけどさ。



 「化け物とか不死身とか、そんな感じの噂が流れでもしていたりしますか?院長先生。」



 「あぁ、確かにそんな噂も流れてい入るけどね。そんな話が口の端にでも上がったらその瞬間に、君の信者に殴り飛ばされるだろうな。」



 その不吉な単語に眉を顰める。



 「信者?」



 「あぁ、君に命を救われた者やその家族たちが中心になっていてな。どうも本当に君の耳には入ってい無い様だね。


 いま巷では君の噂でもちきりなんだよ。


 曰く、死者を甦らせる女神である、とね。」



 思わず頭を抱えてしまった。最初に頭に浮かんだのは、分霊わたしが言っていたオーガクラッシャーなおっちゃんが生死の境をさまよったって言っていた話。分霊わたしはだんまりだし、何かあったに違いないけど、何かあったのだとしたら噂の内容を考えれば文句も言えない訳で。



 おっちゃんを見殺しにされるよりはましだしね。ただ本当にどうしようか、この状況。



 「無自覚だったようだね。君に救われた者たちも、その周りにいた者たちも積極的に噂を流している訳では無い様だが、それでもどうしてもこの手の噂は広がってしまうものだ。


 私も、生き埋めになり、息が止まってしまった死者を君が蘇らせた際には内心頭を抱えたものさ。驚けばいいのか、注意すべきか、ね。


 ただただ感謝すべき事ではあるが、君自身の迂闊が引き起こした事でもある。その辺りを鑑みて、ご容赦願いたいものだが。」



 あぁ!生き埋めになった人そっちでしたか……。余計な事、言わなくてよかった。って言うか完全に個体わたしがやらかしただけやん、駄目じゃん。


 というか容赦ってなにさ、私が口封じか鬱憤晴らしに何かをするって事ですか?


 ま、そう言う事なんだろうけど。と、言う事は彼らにとって私は神か邪神の様なそういう存在であると認識されているって事なのかな。



 「まぁ、そういう噂が独り歩きをしても困るしな。だから貴女に色々と確認する必要があった訳だ。あぁ、これ以上の否定も、そして肯定も必要ないよ。私達はただ確証を得たかっただけだ。傍で関わることの多い私達は知っておく必要があった。


 君が何者のなのか、ね。


 私達は色々な者に責任を持つ立場なのだから、危機意識は常に持っていなくてはならない。



 辺境伯には君の言葉通りを伝えておこう。途中を省いて、ね。


 おそらく、伯もそれで私達と同じように勝手に判断するだろう。噂については私達では打つ手はないがね。」



 このままだと分霊・個体わたしが神か邪神か大地の精霊にされてしまう。その中で一番共通項で括られる可能性が高いのは邪神だけど、勘弁してほしい。



 「いや、違いますって、あれは死者の復活ではありません。蘇生ではありますがこれはちゃんとした医療技術や魔法、それに類するものであって、決して死者を蘇らせる様な神の奇跡と言う訳では無いんです。」



 私のその必死な言い方に、皆の視線が集まる。これだけ鋭い人たちだからか、私の言葉に誤魔化しの要素以外の、真実の匂いを敏感に感じ取ったのだろう、院長先生がそれはどういうものかと質問してきた。



 だんまりを貫き通している分霊わたしは放っておいて、私は必死で心肺蘇生の知識や技術を説明した。治療魔法の知識が影響しているのか、分霊わたしが一時的に変な干渉をやめたのか、幸いな事にこのあたりの医療知識が問題なく利用できたのは助かった。


 仮死状態や瀕死の状態について、中々理解してもらえなかったけど、戦場では一度息が止まった者が息を吹き返した実例があるという話が支部長さんから出てきた。


 そこに魔法技術が加わると、心臓が止まって暫く経った者でも蘇生が可能な事、魔法を使わずとも蘇生できた要救命者もいた事、蘇生術が間に合わなくて本当に死んでしまった人もいる事も話して、常に側に居た元赤にも確認を取った。



 長々と説明を続けて漸く皆の理解を得られた時には、話し続け過ぎて喉がカラカラになっていた。お茶じゃなくても良いからお水欲しいです。



 「なるほどな。どうやら、貴女の言葉に嘘は無い様だし、私の戦場での経験とも違わない。リッポ、医療技術の秘儀であると判断するがどうだ。」



 「あぁ、私も聞いたことの無い知識だし技術だが、私の医者としての経験とも違和感がないな。魔法についての蘇生はわからんが。


 これが世に広まるだけでも、救われる命は数えきれないほどだろう。」



 「エリー、この知識と技術を世に広めても?」



 そんな事、聞かれなくてもオーケーに決まってるじゃない。



 「ええ、別に隠しておく情報では無いし、こんなので私への変な疑惑や噂が否定できるなら、喜んで提供するわよ。」



 「そうか、この件一つでも君に感謝の言葉以外の何かで報いる必要があるな。」



 そんなの良いから。勘違いをやめてもらえるだけで十分だから。勘違いじゃないけど。


 そんな私の内心を、この所の付き合いで読んだのか元赤がニヤリと笑って告げた。



 「前線都市にはな、色々と情報や知識が集まるものなのさ。そんな場所の治療院の院長が知らなかった医療の知識と技術。


 つまりは”この世界には”今まで存在しなかった知識である可能性が高いって事だな。」



 思わず顔をこわばらせる私。続く支部長さん。



 「因みに言っておくとだな、”この世界”の精霊は素養の在る者でなければ声を聞くことは出来ないし、契約者以外に姿を見せる事もできない。


 たとえ精霊側が望んだとしてもな。


 そして私には精霊魔法に関する一切の素養は無い。」



 え?支部長さん達、精霊について知識がないんじゃなかったっけ?えっ?ええ!?



 「これでも前線都市で責任ある立場にいるのでな。共に戦うもの達が使う魔法についての一般的な知識なら当然持っている。エルフ達が使う精霊魔法や精霊についてもな。


 ただ、恩義ある精霊殿をだますような真似をしたことは素直に謝罪させてもらおう。」



 そう言うと軽くウインクする支部長さん。なにやらドギマギしている分霊わたし。いや、そんな場合じゃないでしょうに。



 あかん、最初から嵌められてるやん。

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