エステーザ防衛戦8 ジャイアント……?
ジャイアント、巨人族。一口で巨人族と言っても色々と種類がある。平均的な人間と比べても背が高いなと言える程度、2メートル前後の小型な巨人族もいれば、平均身長10メートルを超える種族もいる。ギガントと呼ばれる、神族に連なる巨人たちに至っては小型な物でも20メートルはある。
彼らは総じて、高い耐久力と、魔法に対する強い耐性を持ち、その巨体から繰り出される一撃は大地を揺るがす。そして種族によっては強力な魔法使いも兼ねているという、敵に回すと厄介極まりない種族である。
んで、私達の目の前にいる40メートル級のジャイアントは、おそらくギガントの上位個体、に、見える。
単眼ではなく双眼。一方は筋肉質でもう一方は女性体の様に見える。肌の色は薄い緑色で女性体の方は髪が長い。まるでその辺の人間種を肌の色を変えてそのまま大きくしたような雰囲気。
「なんだってこんな所にこいつらが来やがったんだ。」
守備隊か冒険者か。だれかの呟きが戦場に妙に響いた。先程のリンと呼ばれた男が発動させた魔法陣はここら一帯の混沌勢を一瞬で転移させたようで、先程迄あちこちで起きていた戦闘は現在行われていない。
一瞬、レーダーに目をやると南門周辺の混沌勢は全て先程の魔法陣で撤退したようで、今現在戦闘が続いているのは東門付近だけのようね。
巨人族は本来、秩序、混沌の両勢力に所属せず、戦争に関わってくることも滅多に無い。ギガントクラスになると神や邪神と同等とみなされる事もある。そして彼ら自身の勢力を築いており、特別な事が無い限りは大抵は自分たちの領域から出てくることは無い。
全く無い事も無いんだけど。ジャイアント全体としては極稀に幾つかの事情で戦闘に関わる事もある。借りを返す為だったり、個体の事情により傭兵として参戦したりと色々だ。
ただ、ギガントの、それも上位個体が領域から出てくることも、戦争に参加する事も滅多に耳にしたことは無い、筈よね。
私が耳にしたのは神話時代のおとぎ話でギガントが出てくるくらいだ。少なくとも今取得した「人類種の知識2」、「人類種の知識3」にギガントが載ってなくて「神話の時代1」、「神話の時代2」で初めてギガントについての記述が出てきたくらいには希少な種族で、滅多に無い事態であることは確かね。
ただ、取得したばかりの知識に照らし合わせると、目の前のギガントには違和感がある。それが何かは今の
召喚されたのか、それとも別の何かなのか。目の前に出現した巨人2体は自分たちの状況が理解できていないかのように、棒立ちで周辺をキョロキョロと見まわしている。
戦場は、少なくとも治療院周辺と南門方面のギガントを直視している者たちは誰一人余計な音を立てようとしないで静まり返ってしまっている。
当然だよね。どんな奴でも自分から彼らの注目を引いて最初の犠牲者になりたいと考える愚か者はいないでしょう。誰もが目の前のギガントから発せられる圧倒的な生物としての格の違い、エネルギーの違いを感じて動けなくなっているのだ。
人外レベルの元冒険者であるオーガクラッシャーのおっちゃんも、姐さんを背に庇って彼らから身を隠している。
そのせいで、東門辺りの剣戟や戦闘音が此方まで響いてきているが、やがてそちら側の戦闘音もなくなりつつあった。壁外の建物などそれほど高い物は無いのだし、東門もそれほど離れていないのだから、40メートルのギガントがボチボチ目に入り始めて、あちらも動けなくなっているのだと思う。
普通に恐怖だよね。
こちらに攻めてきていたリン達と東門の方の混沌勢は別口だったのか、いきなり現れたギガントに混沌勢が混乱しているのがレーダーでも確認できる。当然、こちら側の部隊も混乱しているけど。
ギガントは2体とも武装はしておらず、その巨体には防具の類は一切ない。いや、女性体の右手には、彼らの手のひらサイズの、何やら球の様なものが握られているけど、武器のようには見えない。
右手の球は鉱石類や金属類というよりも何か植物の実の様に見えるけど、あのサイズの植物の実ってその存在すら聞いたことが無いんだけど。
図体はでかいけど、その体をちゃんと意匠の凝った服が覆っており、まるで上流階級の方達が普段の生活をしている最中に突然この場に現れてしまったかのよう。両足にはちゃんと靴まで履いている。
心なしか、おっちゃんと姐さんの様に、男性体のギガントが女性体のギガントをかばっているようにも見える……わね。
これは……、彼らとは交渉が出来るかもしれない。恐らく、彼ら自身何故ここに自分たちがいるのか理解できていない。何かが起きる前に、彼らと交渉を持つ必要がある。
静まり返ったこの空間で、私の他にも同じように考え付いたものがいただろう。
それは治療院に戻ってきたリーメイトさんだったかもしれない。あるいは職人街の人外冒険者か伝説クラスの魔法使いだったかもしれない。壁の上で指揮を執る大賢者ならば、もう少し時間があればそうしただろう。本当にそんな人達がいるのかどうかは
でも誰かは居た筈だ。
そして、誰も行動には起こせなかった。私すらも。
誰かが何かをするよりも早く、不意を突くように。東門付近のおそらく混沌勢からギガントに対して数発の攻撃魔法が放たれたから。
「あ……。」
誰かの間が抜けた様な声が皆の気持ちを代弁していたかもしれない。
おそらくは「
色々と流派によってはアレンジされやすい攻撃魔法だけど、一般的なのは十センチ前後の火炎の弾を弓矢の速さで打ち出す魔法だ。着弾地点で大爆発を起こし、その熱量や破壊力は何の防御手段も力もないただの人間が直撃なぞしようものなら、爆裂四散してその死体を骨まで焼き尽くす威力がある。
またある程度持続して火力を保つ為、森や街中では瞬間の破壊力だけではなく、延焼を起こして辺り一面を火の海にしてしまう事もある、攻撃側からすれば使い勝手の良い魔法だ。
ただ、魔法抵抗力の高い、目の前の
だが不幸にして、その事実が事態を好転させてくれるわけでもない。被害が無かったから良しとして何事もなく交渉に移れるわけでもない。
私達だって、訳も解らず召喚されて、不意を突かれて攻撃されて、怪我をしなかったから許してあげるなんてことはまずないでしょう。ましてや、彼らは曲がりなりにも誇り高い神の一族なのだから。
「オオオオォォォオォオォォォオオオオー!」
都市が、その大気毎吹き飛ぶんじゃないかと思うくらいの雄叫びに包まれて、一瞬何が起こっているのか理解できず、その場の誰もが前後不覚に陥る。私の側に居る赤い人も、両耳を手で庇い大地に膝をついてしまっている。
なにせここはギガントの足元だからね。胴間声の爆心地だからちょっと洒落になっていない。耳を一切庇っていない私に至っては、あっさりと鼓膜が破れてしまった。ま、どうせ数秒で戻るから関係ないけど。
「
あれ、全部女性体に着弾しちゃったみたいだから、男性体が彼女の恋人かその類だとしたら、その怒りは相当なものの筈。彼の見栄もあるかもしれない。ここは一丁派手に怒り散らして、恋人に良い所を見せようとか、彼女を守らなくてはとか考えていたら、そう簡単にこの場を収める事が出来るかどうか。
そして何よりも問題なのは、彼の未だ続く胴間声に強力な魔力が含まれている事。その影響は計り知れない。多分、私の様に鼓膜を持っていかれた人が彼方此方にいると思う。
でもそれが問題の根本じゃないの。これってどう考えても、単なる雄叫びじゃないよね。何やらオオオって声にメロディーの様な高低と強弱があるし、魔力もただ乗っているだけじゃなくて、そのメロディーに沿って編みこまれているように感じる。
これってギガントの魔法詠唱?
だとしたら反撃って事かな?この規模の魔力の行使で?え……、マジ?
「みんな、伏せて!」
考えが纏まる前に私が叫んだ瞬間、ギガントに魔法攻撃を放った混沌勢辺りを中心に、先程私が放った「
恥ずかしながら、それを最後に
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