エステーザ防衛戦3 エリー、窮地に立つ
この南支部の治療院がある通りのそれほど広くない広場に、エステーザ側、混沌勢の戦力が続々と集まりつつある。既に私がぶっ放した「
おおぉぅ、凄い数のオーガやオーク共が集まってきているね。それについていく形でゴブやコボたちもうじゃうじゃ集まってきているけど、そっちの方は定期的に放たれている私の「
すでに混沌勢の合流ルートには彼らの死体が彼方此方に横たわっていて、進軍してくるのにも邪魔になってきている様子だ。
ゲームと違って、死体が勝手に消えることは無いし、当たり判定が無くなるわけでもないから、まぁ邪魔なんだよね。踏めばぐにゃッとして体勢を崩すし、転ぶ。戦闘中に片付ける訳にもいかない。さっきも勢いよく駆け込んできた雄のオーガが、ゴブリンの死体に足を取られて顔面から勢いよく地面にダイブをかましていた。
彼は哀れ、ナギハと呼ばれるオーガ娘と対峙していた赤い人の槍の一閃で私の補給ポイントに昇格する事になった。
今気が付いたけど、他の人達が始末した敵、味方双方の経験値が私の成果としてカウントされているような気がする。
誤解のないように説明しておくと、魂の収奪と経験値の加算は直接の関係は無いからね。経験値はあくまで
だから直接の戦闘が無くても、プールしておいた力から
戦闘関係の経験値とシナリオ経験値の二つがあるから、ややこしくてわかりにくいよね。自慢じゃないけど私はいまだに混同しそうになる。
「シーラ!そいつを抑えな!好き放題させるんじゃないよ!」
「解っている!でもこいつ、呪文を唱えずに術を連発してくる。あり得ない!厄介なのよ!」
「見たから知ってる!あと少しなんだ、踏ん張んなぁ!命懸けで抑え込むんだよ。あたしら力ある古き血の末裔が、情けない事ほざくんじゃぁない!」
「はんっ!あんたに言われたか無いねぇ、ナギハ!」
私と対峙していたオーガ娘がギラついた笑みを浮かべて、呪文を呟きながら私に突っ込んでくる。そっかぁ、お姉さんはシーラさんって言うんだ。オーガ三人娘にダークエルフも美人さんだから、名前なんてすぐに覚えちゃうよね。
あっちのダークエルフ娘の名前は何て言うんだろう、そんな緊張感の欠ける事を考えながらシーラさんを迎え撃つ。
「やらせるな!魔法の矢を奴に叩きつけろ。」
この混戦で剣戟の音が響く戦場で、蚊の羽音の様に小さく呟く呪文にどうやって気が付けたのか、赤い人から声が飛ぶ。
確かに、どんな魔法を使うのかは分からないけど、このまま好きにさせる訳にはいかない、けど。さっきナギハはなんつった。後少し?
こいつら闇雲に攻めてきている訳じゃないって事かな。でも一体どんな作戦があるのか。敵の動きを探る為にレーダーを確認したいけど、正直このお姉さんを前にしてそんな余裕はない。分霊や個体を大量に運用している
考えつつも「
さすが熟練の術者だけあって、バックステップで私から距離を取り瞬時にロングスタッフに魔力を通して光球を打ち砕く。だけど高速で襲い掛かる光球の全てを打ち落とせるわけもなく、4発が彼女の背や左足、右腕、腹に着弾した。
「がぁぁあ、うぐぅ!くはっ……。」
戦場にオーガっ娘の苦痛の叫びが響く。さっきまで使っていた様なただの「
当然、私がこの隙を逃すわけがない。彼女のバックステップに追いすがるように距離を詰めスティレットの距離まで一瞬で詰める。
シーラさん美人さんだけどさ、敵だから、さ。ごめんね。
心の中で呟いて致命的な一撃を振るう寸前、背筋に悪寒がはしる。素直に直感に従ってバックステップでその場から逃れた直後、私の目の前を強力な炎の槍が凄まじい速度で通り過ぎた。
「シーラ!」
「応!」
狙っていた!?後ろに下がったはずのロンデから魔法の支援が飛んだと理解した時には、間合いにシーラが入っていた。眼前に迫るロングスタッフ。さっきのよろけはフリだったのか!?いや、あの間で立ち直った?
駄目だ、私の体勢が悪い。躱せない。
咄嗟に目の前に「
渾身の「
「エリー!」「嬢ちゃん!」
赤い人とおっちゃんが私の状況に気が付いて声を上げる。応えたいけど、今はちょっと無理かな。私の魔法に吹き飛ばされたシーラさんとは距離がとれたけど、おそらくは「
高熱の爆発に吹き飛ばされたはずのシーラさんも、無傷では無いものの戦闘可能のようで、体勢を立て直しつつある。
これはちょっとヤバいかな~……。
肩から流れ出した血が、足元に小さな血溜まりを作るのを意識外に追い出して考える。
今の私じゃ、決定力にかけるし手数が足りないかもしれない。っていうかタイマンじゃないのは百も承知していたはずなのに、退場したと思い込んでオーガ娘を一人警戒から外していたのは我ながらいただけないわね。
二人を警戒しつつ赤い人とおっちゃん達夫婦を確認すると、彼らも此方をフォローできるような状態ではなさそうだ。
赤い人はナギハだけではなく、後から後から集まってきているオーガ達をあしらいながら状況を維持するのに一杯になっている。よくこんな状況でシーラの呪文に気が付いて私に声を掛ける余裕があったな。
おっちゃん達の方は、集まりつつある戦力を確実に削り続けているけど、本命のダークエルフとオーク2匹には決定打を打ち込めないでいる。私の性癖のせいか、どうしてもダークエルフに注目してしまうけど、中々どうしてあのオーク2匹もただものじゃない。
あの状況でどっちか一人が抜けてこっちをフォローしにくれば、あっという間に残った方が潰される。集結しつつあるエステーザ側の戦力も、私の方に来れるような状況に無い。
なんせ、自分から敵中に突っ込んだからねぇ。自業自得だけどさ、一番の問題は私に流れ込む力が私から冷静な判断を奪いつつある事と、既に肩の傷がふさがりかけている事なんだよね。まだ、この高揚感にこの
この戦いが終わったら、なんか嫌な二つ名がつくかもしれないよね。不死身とか不死者とか混沌勢力と勘違いされそうなヤツとかさ、血まみれとか皆殺しとか乙女にふさわしからぬヤツとか。
正直、無いよね~。
怪我だけ治さないなんて細かい調整なんかこの乱戦の最中出来ないし、ドレイン関連の術を止めると混沌勢の勢いに飲み込まれかねない。怪我に関しては自分で治療したとか言って誤魔化すことも出来るかもしれないけど、血に酔ったら自分でも何をやらかすか分かったもんじゃない。
下水道の時の様に自分の体の損壊を省みず、敵の攻撃を無視して致命傷や四肢の欠損を受けてもその場で心臓を再生し、手足を生やしながら「
戦後、英雄クラスや神様クラスの冒険者に囲まれて、抹殺されるか幽閉される将来しか見えてこないです。
今の自分に出来る事は?
自分を律する事。周りを巻き込まない事。出来ればダメージを負わない事。
総じてやり過ぎない事、かな。
差し当たっては少しずつ距離を取りたいんだけど、ナギハさんの「あと少し」が気になるんだよね……。
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