男共と角突き合わせて話し合い6 焦ったし喉乾いたよ

 「ご遠慮申し上げます。返品します。いりません。どうして私が元赤を預からないといけないの。その上、友人としてなら兎も角、こき使えとか、面倒見るのとたいして変わらない精神的苦痛に思わず謝罪と賠償を求めてしまう私は間違っていないはず。


 ってか、何で笑ってるんだ、おまいら!」



 私の反射的な返答に、分かってた、想像通りだと言わんばかりに青年1人とおじさん2人が各々顔を向き合ってから噴き出して笑っている。


 まぁ、こいつらともここ数週間、テント暮らしで1日中角突き合わせてかなり地を出して付き合ってきたからなぁ。ちゃんとした場面なら兎も角、こういう空気になると、ついついなれ合いの延長線で地金が出てしまう。


 あぁ、そう言えばここ数週間、院長先生にも支部長さんにもちょこちょこネタを仕込んでいたりしてたわ、私。



 それはさておきさ、これってそもそも辺境伯爵の依頼を受けてほしいって話に、それなりの報酬をいただけたら受けますよってお話だったはずなのに、報酬繋がりで何で元赤を私がこき使う話になっているのかがわかるけどわかりたくない。


 って事は、辺境伯のご依頼も分割なのか後払いで一つよろしくって事なのかしら?ま、それならそれでもいいけどさ、元赤の面倒を見るつもりは無いんですけど。


 ん?いや、確かに話し相手としては面白いし、ツレとしてなら申し分ないけどさ、これって要するにどこまで考えているかはわからないけど、コネクションづくりの一環でもありそうでしょ。



 将来有望な魔法使いに今のうちに唾を付けといて出来れば王家に取り込みたいとか、邪推しちゃうんだけど間違ってるかな分霊わたし



 「あーいやさ、どうしてそうなるのかが分からないんですけど。」



 「今更取り繕う必要はないよ。何だったか草が生えるんだったかな。貴女達、独特の表現で笑ってしまうとかいう意味であっていたかな。後はロルだったっけか。


 どうにもその言い回しがまだ理解できないが、何も本当にジルを四六時中預かる必要は無いんだよ。


 何事も、体裁って言うものがあるからね。昔話や神話にもこの手の王族が神族や大魔法使いの質になるって話がある程度には、一応は由緒正しいやり方ではあるんだけどね。」



 「くっくっく、あはは……。あぁ、ま、そう言う事だ。第一、どういう理由があるにせよ異性の身の回りに強引に侍るのは問題があるのは理解している。


 たとえ、エリーが私など歯牙にもかけない尊き存在であったとしても、見た目は年端もゆかん女性だからな。君の名誉にもかかわる問題になりかねない。


 ま、今までと同じような距離感で構わないから、なにか用事があるのならそれが使い走りだとしても遠慮なく使ってくれっていう話だよ。」



 「報酬の支払いが終わるまで?それなら報酬は減額してくれてもいいし、辺境伯様のご依頼も報酬は後でゆっくりでも構わない。」


 2~300年位ならゆっくり待つし。」っとまた失言するところだった。



 一時期は分霊わたし個体わたしの分離が大きくなっていたけど、戦後処置の間、また以前の様に距離感が無くなって重なりつつあるせいか、こういううっかりがついつい出そうになる。感覚が狂うのだ。


 いまも分霊わたしが干渉して止めてくれなかったら間違いなくポロリといっていた。



 「そういう訳にもいかん。辺境伯の依頼の方はおそらくだが、別会計でどうにかこうにか報酬を出すだろうさ。公人としての資産と私人としての資産は別になっているから安心して欲しい。だが今回の招集についての報酬はな。


 なにか代償なり取引なりがあったのなら兎も角、事はエリー、君だけではなく、君の後に続くかもしれない他の偉大なる魔法使い様達にも関わってくる問題だからね。


 それに代償なり取引なりがあったとしても、全てがそれで相殺される程度の額でもないからな。どのみち私は君の質にならざるを得んのだよ。


 ま、迷惑なら名目上だけでも構わないさ。」



 私に対する体裁と言うよりも、私に対して報酬を即座に支払えない体制側に、魔法使いたちがどう感じるかの方がメインという事ね。


 代償か取引か。何気に元赤って偉大なる魔法使いって言い方が皮肉っぽいよね。私に対しての皮肉って言うより魔法使い全般に対して何かあるのかもしれない。


 そう言えば私が魔法を連発していた時に元赤が何か言っていたっけ。槍使いの身がどうとかこうとか。


 その辺には触れないでおいてあげよう。色々と面倒くさそうだし、縁が切れると思っていた元赤との縁はまだ当分切れそうにないから、あんまり彼の深い所に入っていくのは止めておきたい。



 ただ、いくらになるのかはわからないけど、報酬を額面通り全額いただくのは、やっぱりちょっと気が進まない。高額になればなるほど、元赤を拘束する事になるしね。


 さっきの話の通りなら、彼に残された時間はそれほど多くないのだろうから、私に縛られたせいで人生に悔いを残されてもいい気分はしない。


 万が一、私が彼を助ける事が出来たとしても、どうせ恩を着せるならもっとスマートに着せたいからね。


 取引、か。



 「ねぇ、外街の土地ってあれは住民が勝手に家を建てて住み着いて権利を主張しているだけなのかしら?」



 意表を突かれたような表情で三人さんが言葉に詰まる。



 「あぁ、概ね貴方の言う通りだよ。エステーザは壁外の街に対して保護責任を負わない代わりに、管理も統治もしていない。一部、外街にあるギルド支部や治療院、ギルドが所有を主張している土地は別だけどね。もちろん、貴女が住処にしている旧孤児院も一応はギルドの所有物件だよ。」



 「その周辺の土地は、勝手に私有しているだけ、と。」



 「まぁね?ただ、個人で私有を宣言している土地に対してエステーザは強権を発動することは出来ない。建前上はね。」



 「それでもいいわ。そのあたりの面倒ごとを平和裏に解決してもらう事が代償、という事でさ。」



 要領を得ないまま顔を見合わせる男共にニッコリと笑顔をやりつつ、私は以前から考えていた件を伝える。



 「私達の塒、旧孤児院の周辺の土地を報酬額で許す限りの範囲で確保して欲しいのよね。今回のジャイアントが暴れた一件で、潰れてしまった建物や持ち主が亡くなった家もあると思うし、元々孤児院の周辺は空き家が多かったから何とかならないかな。


 外街の東はこれから復旧するのだろうし、東の壁と門を直す為にもあの辺り一帯はしばらく手を付けられないだろうから、そっちの方の土地だと困るのよね。


 所属も南支部から東支部になっちゃうのかな?せっかく慣れたばっかりなのに職場が変わって人間関係始めから作り直すのも面倒くさいし、私の勝手で塒の皆を東支部に連れて行く訳にもいかないだろうからさ。


 ね、どうかな?」



 一息に、っという訳では無いけれど一気に話した。私の勢いに呑まれたのか言葉を詰まらせたままの男共。



 「報酬の許す限りとはいうが、君は一体どれほどの土地が欲しいんだい?仮に外街で土地を所有するのに金銭を支払う場合、家一軒を立てる広さでもそれほど金額はかからないだろうね。


 元々持ち主がいないのだから。ただ、ある程度まとまった土地の所有を宣言し、建物を建てて人に貸している者たちもいるにはいる。宿を勝手に建てている者たちもな。


 それほど多くないが。君の得られるであろう報酬で許される限りなどと言う話になったら、外街に城が立つぞ?」



 城は流石に笑うわ。いったいいくらぐらい貰える予定なんだろう。そう言えば、私がした処置を一々同僚たちが記録していたけど、もしかして処置の種類毎にディスカウントされた報酬が支払われるのかな。それだと結構真面目にとんでもない額になっていそうなんだけど。


 致命傷の救命って確か元々の単価がべらぼうに高かったわよね?あれをディスカウントしても確かに負担額って桁違いになりそう。



 「さすがにそこまでは要らんわ。ま、元赤には前にも話したことがあるでしょう?孤児院周辺の土地を買い上げて、あの子達にもう少し真っ当な生活をさせてあげたいんだって。


 個室とかは流石に要らないだろうけど、寂しいから。


 ただ、雨風が防げるだけじゃなく、隙間風にも悩まされないで冬の間も温かく過ごせるようにしてあげたいのよ。


 私も妹達もすごす場所だからさ。」



 元赤があぁ、確かにといった風に頷く。あ、そう言えばこれ、院長先生が側に居た時に話したんだっけか、院長先生も頷いている。一人取り残された支部長さんもさもありなんという風に納得してくれている様子だ。



 「それに、報酬に関しても、都市防衛戦に参戦するのはある意味生き残るための義務みたいなもんでしょう。この一件で相応の骨を折ってもらったって事で、例年の治療魔法士が平均でもらえる程度の額で十分よ。


 体裁が取り繕われていればいいんでしょう?報酬の額が公表されている訳じゃあるまいし、それなりの額が支払われたらしいって思われれば問題ないわよ。


 矜持だか何だか知らないけど、私が良いって言っているんだから誤魔化せるところは誤魔化しゃいいのよ。


 そんなどうでも良い事に力を取られて、復興事業が頓挫しても困るしね。本気で報酬に関してはちょっと相談する必要があると思うんだけど。」



 私の勢いに呑まれてくれるかなと期待したけど、支部長さんはやっぱり冷静だった。



 「どうでも良い事ではないのだがな。だが貴女の意向も意見も伺った。再度確認だが、ジルを貴女の側に置く件は上の方にも色々と思惑があるのだろうが、名目だけでも構わないだろう。


 報酬に関しても、もう一度相談させてもらう事にする。ただ、有耶無耶にするにもやはり限度があるだろうから、全て貴女の言う通りと言う訳にはいかないだろうけどね。


 だが、土地に関する希望と提案に関しては可能な限り前向きに検討しよう。おそらく問題なく通るだろうね。


 これも確認だが、旧孤児院の土地の所有を求めている訳ではないのだろう?」



 「えぇ、あの場所を個人が保有する事の不都合は理解しているわ。前に話した通り修繕したり、場合によっては立て直すかもしれないけどね。」



 「なら、問題ないさ。」



 あぁ、本気で喉乾いたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る