買い物には荷物持ち よろしくね

 翌日は午前中は皆と一緒に下水仕事をして、いつものように最初にある程度纏めて狩ってきてから、お掃除ポイントで昨日から参加しているってお話の新人さん4人のガードをメインに活動していた。


 午後からは明後日からのシリルを迎えに行くための一時帰宅に備えた旅行の準備。基本は馬車を御者さんと世話焼きさんとをセットで雇っているし、その人たちが食事とか野営とか色々やってくれることになっている。


 最初は世話焼きさんって言っても通じなくて焦ったよ。貴族や裕福な商人でもない限り、そんなことは自分でやるもんだとも言われたけれど、従者ポジションの人が一人いて一芝居うってくれれば両親へのインパクトも違うでしょ?


 それに野外で煮炊きするのに必要なスキルを取得するのも、なんかもったいないし。最初の人生では普通にキャンプスキルはあったし、ファイアースターター使って火起こししたりしてたけど、多分今やろうとすると例の状態、さっきまで理解していたのにやり方思い出せないって事になりかねないよね。


 魔法を使えば火起こしだろうが一発だけどね。


 元ボッチキャンパーだった記憶を持つ者としてそれはちょっと寂しいから、それをやってくれる人を雇いたかった。


 ちゃんとそのうち自分でやるから、いいじゃん別に。


 そっちの報酬も諸費用込々、私含めて5人の往復分で銀貨2枚に銀粒4個。約288,000円。高いのか安いのかちょっと私じゃ判断付かなかったんだけど、世話焼き付けて御者付けて、2頭引きの大きい馬車を一台、最大で8日抑えれば、まぁ安い方なのかもしれない。有り難い事にギルドが口を利いてくれたし。


 現代で例えれば、運ちゃんとガイドさん込みで8日間、車を抑えたのとおんなじかな。



 だけど全て世話焼きさんに任せっきりじゃ、何かあった時に困るのは自分だしね。必要だと思うものをある程度買い揃えておかないと不安じゃない。


 最悪の時はストレージに色々備蓄しておけば問題ないし、それでもダメな時はネットワークで必要な物は仕入れてしまえば良いわけだから、どうとでもなるんだけどさ。


 もちろんそれは奥の手だよ?チートは塩加減と一緒さ。使い過ぎると人生の味が不味くなる。いい塩梅ってのを守らないとね。



 だからと言って拘り過ぎて悲劇を見過ごすのも好みじゃないけど、避けえないものはどうしたってあるから、そのへんは仕方ないよね。





 ルツィーさんに色々話を聞いて、必要な物をリストアップしてからギルドを飛び出した。市場を回って思い思い買い物を楽しんでいたら、偶然リロイさん達と出くわした。彼らも明後日からの旅の準備の為に色々買い出しに出ていたみたい。ついでだからと言って一緒に買い物に付き合ってもらった。


 事前の説明でルツィーさんから彼らに、馬車の事も世話焼きさんを雇う事も伝えてあったけどやっぱり私と同じように、万が一を考えて8日間、自分達と依頼主が行動するのに必要な分の物資は確保するつもりだったみたい。


 因みに、御者さんや世話焼きさんの分は考慮外ってきっぱりと言ってた。その辺ドライだけど、その位がこの世界では当然なのかな。


 ま、大丈夫。私が全員分ストレージに入れておくし馬車にも少し積んでおけばいいでしょ。



 水に関しては私もそうだが、彼らも魔法で準備できる。だけど、最悪を考えて1日分の必要な水を革の水筒にいれて持ち運ぶみたい。私もお勧めに従って革の水筒を購入しておく。


 

 「今回リロイが怪我をした一件で身に染みたわ。魔力を使い果たした魔法使いの無力さを。魔法をあてにして準備をしてはダメ。最低限の備えはしておかないと絶対に後悔するわよ。」


  

 リロイさん御一行は実に渋い顔をして話してくれた。


 いつでも魔法が使えるとは考えるなって、魔法使いのシュリーさんの忠告に素直にうなずいておく。



 私が魔法を使える事は、打ち合わせの際にルツィーさんの助言に従って彼らには説明してある。治療魔法に関しては当然秘密にしているけど。魔法を隠して旅をするのは不便だし、状況によっては命にかかわりかねない。


 それに両親からシリルの親権を奪う為に用意した書類が、私が優秀な魔法使いである事を利用する内容になっているからね。なんかその辺は、ルツィーさんとシュリーさんが打ち合わせしていたから、もう全部任せちゃおうかなって考え始めちゃっている。


 今なら、成功報酬たっぷり払えるしね。



 私の年齢で魔法が使えるという事には相応に驚かれたけど、幼いころから才能を見出され訓練を受けた魔法使いもいるから。打ち合わせの際に、目の前で簡単な魔法を幾つか見せたら簡単に納得してくれた。




 

 「ねぇ、もし懐に余裕があるのなら、もう少しいい服を用意した方が良いわよ。それと靴もね。ご両親に会うときはローブもその薄衣もとるんでしょ?


 簡単な貫頭衣と革袋の靴じゃ舐められるわよ。あんたは将来有望で優秀な魔法使いなんでしょ。」



 「あぁ、そうだな。エリーちゃんなら何を着ても似合うだろうし。着飾るとまではいかなくても、少しは取り繕った方が良いかもな。


 俺らを見せ駒として雇ったとしても、襤褸を纏ってちゃ説得力がないし、書類だって疑うかもな。」



 「あの書類は両親を説得するものというより、村長なり、村の有識者を納得させるものです。両親だけで話が済めばいいですけど、状況によっては代官か領主に話をしなくてはなりませんし。


 すでに書類の中で辺境伯の意向が示されていますから、その辺は問題ありませんけど。


 ただ、みっともない姿で地方の有力者の前に出れば侮られるでしょうし、辺境伯の顔に泥を塗る事にもなりかねません。


 もしかしたら、貸にする為それも見越しているのかもしれませんね。


 この機会に良い品をそろえてみるのもいいかもしれませんよ。」



 上記三人共女性の発言であることをここに明記しておきます。俺っ娘って需要在るんかな。順にラウル、ネル、シュリーさんの順番。


 いい服か。これも結構したんだけどね。たしか銅貨45枚の一番いい奴なんだけど。まぁ、確かにちょっとみすぼらしいと言われればみすぼらしいかもしれない。


 かといって今から仕立てるのに時間が足りるはずもない。自作すれば小一時間でそれなりの物を仕立てることも出来るけど、その為には裁縫関係の能力を取り戻さないと話しが始まらない。


 その内自分で作るにしても、今はシナリオ経験値貯めておきたいんだよね。



 「今から仕立てる訳にもいきませんよね。私が知っている古着屋さんは市場にあった屋台売りしかないんですけど、どこか良い所しりませんか?」



 懐には十分余裕がある。ルツィーさんの話では明日の治療院勤務でも私の患者さんが一人いるって話だし。魔法治療は最低でも銀貨10枚は動くから、予算もその位にしてもいいかも。


 駄目だ、どうしても患者さんが銀貨に見える。怪我をしたことは気の毒だとは思うんだけどね。



 「俺達がよく使う古着屋があるよ。古着ではあるけど、貴種や金持ちが仕立てたやつを売り下げられた物を中心に仕入れているから、見栄えは良いし作りもしっかりしている。


 ま、たけぇけどな。仕立てるほどじゃぁねぇし良い品も多い。


 ちょうどいい、俺も一着欲しかったんだ。案内してやるから付き合えよ。」



 こういう時は古今東西、異世界の区別なく男というものは荷物持ちになるか空気になるかなんだね。ハーレムパーティーのリーダーであるはずのリロイさんは、黙って荷物持ちを務めているし、ひきつった笑いを浮かべながら空気にもなっている。病み上がりなのにね。


 早く買い物を切り上げて帰りたいって、その顔が物語っているのが解るけど、私も今は女だからね。


 ごめんねリロイさん。もう少し私達に付き合ってね。頑張れ、荷物持ち。男の子ならだれもが通る道だからさ。リア充の運命なんだよ、諦めてくれ。……ボッチ、非リアの呪いかもね、ケケケ。



 「ありがとうございます、ネルさん。お言葉に甘えて、ご一緒しても良いですか?」



 「私も一着、血で駄目にしちゃったから、そろえておきたかったのよね。今は物入りだけど、みすぼらしい格好して依頼者に恥をかかせるわけにもいかないし。


 良い言い訳よね。」


 笑いながら他の二人も同意してくれた。


 リロイさん?いや、こういう時は男の意見何か誰も聞いてはくれないんだよ。だから彼は最初から空気になって黙っているよ。ケケケ。

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