雄叫び
いつの間にかレベルが二つも上がっていた。どうもこっちのレベルアップも単純に敵を殺せば上がる、と言う訳じゃないのかな?
いや、それとも気にしていなかっただけで、それなりの量の蟻を始末しているから、順当な物なのかもしれないか。
自分の中を探ると、基礎的な力がかなり底上げされているのが分かる。レベルが高くなっていくたびに一度のレベルアップで上昇する力の幅が大きくなっていくけど、これで良いの?
ここまでしても問題ないくらいこの世界には化け物がひしめき合っている、と。うん、大人になってもエステーザに引きこもっていようかな。
え、エステーザの中にも化け物うじゃうじゃしているから、いずれちゃんと会えるよ?
オーガクラッシャーのおっちゃんもそれなりに化物だけど、あれが小者に見える奴らがゴロゴロと?
いや、普通にこえぇよ?
あんまり派手に活躍した印象の無いおっちゃんだけど、パップスの騒動の際に化け物揃いの混沌勢の部隊を一人で抑え続け、一時的には圧倒すらしていたのは普通にヤバイ。あれが小者に見えるなら、上手の奴らが何処までやれるのか、考えるのも嫌になる。
考えてみれば、ダンジョン攻略組は自分たちの力でこういうトラブルも切り抜けていくんだろうし、そうやって生き残れる奴らが壁内にはうじゃうじゃいるんだろうから、納得は出来るけど。
黒山の壁の外は、少しづつ状況が落ち着いてきている。相変わらず定期的にタナトス奥地からある程度まとまった蟻共が突っ込んでくるけど、
蟻が散らばらないように突っ込んでくる集団を囲むような形で「
ドレインしなければとっくの昔に魔力何か粕も残らない勢いでの魔法の行使だけど、レベルの上昇のお陰か、遠距離でお亡くなりになった蟻さん達も補給ポイントとして利用できるようになったお陰で、何も考えずにバンバン魔法を使い続ける事が出来る。
あぁ、お爺ちゃん魔法使いとコボルドメイジの御顔が引きつっているのが見える。
「どうしたルドルフ爺さん、もうネタ切れか?ぶっ倒れる前に引っ込んで魔力の回復に努めてくれ。」
「なめるな小僧。命の際に追い詰められた訳でもあるまいに、素人の様に後先考えずに魔力を使い切る訳もなかろうよ。
ただ、女神さんの底なしの魔力に呆れて何も言えなくなっただけじゃい。」
「いかに神とは言えどこかに限度はあるだろう。だが女神殿から感じる圧力は、戦いが始まってから一向に変わらない。
それどころか、さらに増している、気がする。俺の様に獣に近い種族であれば、何となく感じる事が出来るのだ。言葉では説明できない、力の圧力と言う物が。
真に女神であるので無ければ説明はつかないし、そうであっても異常に思える。族長の戯言が真実になるかもしれぬな。」
コボルドメイジが野生の本能か、
あ、今もう一つレベル上がった。その瞬間顔が歪むコボルドメイジ。あぁ、本当に私の状態を原理不明な「野生の本能」で把握しているみたいね。
これでレベル13。
これってもしかしてエステーザ近くに
それとも最初に思った通り、レベルアップの条件は単純に殺した敵の数だけでカウントされていないとか。戦いのシチュエーションとかで取得経験値が変わってくる可能性あるかな?
うーん、検証するの面倒だし、多分無理。こっちのレベルアップに必要な経験値や取得した経験値がよくわかっていないから検証のしようもない。
レベル1に戻って何度かシチュエーションを変えて検証するとかなら出来るだろうけど、そんな事冗談でも言ったら
検証する為に今まで積んできた苦労を台無しにする気はない。
うーん、キルスコアを見るに……。さらに単純に、この場で始末した蟻の数がこのペースで行くと後少しで4ケタに届きそうだから、かな?つまり単純に高経験値の敵を大量に始末したから当然の結果としてレベルが上がった、って事。
うん、細かい事を考えるのは止めて、そう言う事にしておこう。
藪をつついて蛇を出すのは楽しいけど、その蛇が私を噛み殺しかねない代物の可能性もあるんだから自重するのが正しいわね。
何時か本当に
「
こんだけ湧いたら、普通の冒険者達なら全滅してもおかしくない。まず生き残れないよね。全滅を避けるには負傷者を見捨てて突破するくらいしか思いつかない。
多分、私がここに居なければ、最終的には彼等もそうしたんだろう。戦団を組んでダンジョンに挑んでも被害が出る時はかなりの数の冒険者が死ぬって言っていたけど、納得できるわ。
現に今も周囲を包囲している先ほどよりも少なくなってきた蟻を排除するのに必死だし、私が援軍に来てから、蟻の4桁キル目前までのそれほど長くない時間の間に包囲された彼らのさらに半数が戦闘不能と困難状態に陥っている。
元赤を連れてこなくて本当に良かった。「
そうなれば近接戦闘を強いられて、術の処理速度が落ちる。当然今回の様に、砲台に徹して遠距離の蟻を始末する事も出来なかったでしょうね。
その状況で4桁近い蟻に集られたら、救援も失敗して元赤も失うことになりかねなかった。
シュリーさん達が経験した、ダンジョンでの悲劇はもしかしたらこんな感じだったのかもしれない。これだけの事態であってもダンジョンでは時折ある、「普通の事」なのでしょうね。
包囲されたばかりの彼らの表情は、絶望の表情は浮かべていたものの、来るべきものが来た、と言う覚悟を飲み込んだ目をしていたから。
なかなかどうして蟻も馬鹿ではあるけど侮れない。私が黒山の中から安全に魔法を連発している事をどういう理屈か理解したのかもしれない。
私の砲撃を突破して、此方迄迫ってきた黒蟻たちは、そのまま包囲網に参加するでもなく一直線に黒山の中の私を目指し突っ込んできて、そのまま新しい黒山の材料になってしまっている。
私の展開している「
結果、彼らを包囲していた蟻共は着実に数を減らし、討伐ペースが速くなっていき、新たな被害者も出なくなってきた。こうなるともう彼らのペースだ。
疲労の中顔に浮かんでいた諦めと絶望は何処かに消え失せ、疲労を吹き飛ばすようなほとばしる戦意を顔と身体に溢れさせて、蟻に吹き飛ばされても即座に立ち上がってくる。
レーダーを確認すると流石にネタ切れか、奥からのお代わりもかなり数を減らしてきた。まとまらずちょろちょろと思い出したように寄って来るので、範囲攻撃魔法ではなく狙撃用の「
そうこうしている内に、包囲していた蟻共もいつのまにか最後の一匹が首を飛ばされて、蠢いている所を胸と腹の部分の節を吹き飛ばされて流石に動けなくなって息絶えた。
「うぉぉぉぉぉ……うぐぐぅぶふぅ。」
興奮して
「ぞくちょー!だめやって。あんまり声立てるとまた来るよぉ?」
微妙なイントネーション、例えるなら関東の人が真似をする、京都辺りのイントネーションが含まれた似非関西弁の様な話し方で注意している。距離が近くない?何となくお二人が気安い仲に見えるけど、もしかしたらゴブリンとオーガ種女性の異種間カップルだったりするのかな?
うーむ?ゴブリンとオーガ種女性の間で子供って出来るのかな?いや、それだけが恋愛のすべてじゃないし、人の事なんだから余計なお世話だけどさ。
つい知的好奇心に駆られて。
族長さんの口を閉じたオーガ種の女性を見ると、左足の太腿に酷い蟻の齧り後がある。包帯を巻いて止血しようとしているけど、完全には止まっていない。出血量もそれなりにあったのだろう、顔色は青白く、死の色が見え隠れしている。
右足の足首は折れているようで、負傷している筈の左足を軸に何とか立ち上がって、族長さんの口を塞いだから、無理して動いた彼女を見て族長は叫ぶことも忘れて、驚きオロオロしている。
うん、包帯を巻いたはずの左の太腿からの出血が、動いたせいか少し増えてきているし。
そりゃ慌てるよね。
あぁ、なるほどね。そりゃ負傷者を置いてはいけないでしょうね。それでも族長なんて立場にいて、それなりにその立場に相応しい振舞をしているんだから、最後には私情を捨てて恋人でも見捨てる決断をしたかもしれないけど。
そう簡単にそんな決断下せないわよね。
さて、と秩序側の方を見れば、まぁ、似たような状況だったみたいでリーダーの男は負傷者の手当てを指示した後、倒れ込んでいる一人の女性の元に駆け寄っていた。女性は気を失っているようで、リーダーさんの言葉に反応していないけど、まぁ死んではいないみたいって。リーダーさんの名前ってなんだっけ?
お爺ちゃん魔法使いが何か言っていたよね。マイケル?いや違うか。そんないきなり奇声を出して踊り出しそうな名前なら一発で覚えている筈。あ、そっちじゃない方を
私は最近、分霊の共有記憶再生で奇声を上げながら前を向いて後ろに歩く彼の動画にハマっているから、マイケルっていったら彼が頭に浮かぶんだよね。あの滑らかな動き、チートを駆使すればマネできるけど、素の
ま、どうでもいい事なんだけどね。
一旦状況が落ち着いたとはいえ、油断する訳には行かないから、黒山の中に籠りながらチラチラとレーダーを確認しながら名前を思い出せないリーダーさんと、恐らく大怪我をして気を失っている女性を見ていた、けど……。
ん?あれ?
あの女の人どこかで見たような気がするんだけど?
誰だっけ?
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