シリルの決断2 特別になりたい
ふよふよと光球が浮、辺りを照らす作業部屋の一室で、
「お姉ちゃん。あのね、お願いがあるの。」
可愛い目をシリルなりにキリッと引き締めて、いつもならお願い事をするときは母親譲りの黒髪を遠慮がちにいじりつつ伏し目がちに話をするのに、今はしっかりと私の目を見つめて、普段よりも真面目な声で。
直ぐに分かった。
これは子供が子供なりに必死に考えて悩んで、自分の人生を決めようとしている顔だと。
あぁ、私の可愛いシリルが大人になってしまう。悲しいと感じる部分と、成長していく彼女を誇らしいと感じる部分が、間違いなく私の中に同居していてなんだか
一時的な
だけれども、それを表に出さないようにして、手元に置いておいた端切れ等の裁縫関連の品物を机の端に寄せて、なんとか笑顔を作ってシリルの真剣にちゃんと向き合う。
因みにノックされた段階で、この世界にある筈のない物、テキストやノート、ペンの類は全てストレージに緊急避難させてあるから、机の上に見られて困る様なものは無い。
「どうしたの?改まって真剣な顔しちゃって。何か困った事でも、あったのかな?」
そう答えた私の声はシリルに届いているのか。彼女の視点は先程私が展開した「
「シリル?」
私の再度の呼びかけに不意を突かれたようにビクッと反応した後、漸くこちらに視線を戻すシリル。
「ごめんなさい、おねーちゃん。つい、魔法の光に見惚れちゃってた。」
魔法の光なんか、パップスの騒動が終わってからこっち、一切の遠慮をする必要のなくなった私の乱発のせいで少なくとも私達の塒では珍しいものじゃなくなっている筈なんだけど。
現に、シリルがこの部屋に来るまで通ってきた廊下には手加減なしの「
廊下はつけっぱなしでも問題ないけどさ。基本オンオフ出来ないし光量も調節できないから、小箱から出すか仕舞うかでオンオフ出来るようにね。
手加減なしだから、石ころの質量が全て光に代わるまで延々と光り続ける、わりかしとんでもない代物なのよ、これ。
多分、周りの人にばれると色々とヤバイ様な気がするから、皆には黙っておくように言ってある。つい口を滑らせちゃうかもしれないちびっ子たちには、私が定期的に魔法を掛けなおしているんだよって話してあるから多分、大丈夫。多分。
バレちゃった時には、私の副業に光る石を作るマジックアイテム作成者っていうものが付け足されるだけさね。
ただ石ころにエンチャントするだけのマジックアイテム作成なんて、全然心躍らないし、趣味じゃないけど、今の私の立場から考えて延々と光る石を作り続けさせられるって事は無いでしょうし、最悪バレてもかまわない。
ま、兎も角、我が家では魔法の光なんて珍しいものじゃない。いくら魔法が貴重なこの世界であっても毎日の生活で見続けているものを珍しいと見つめる事はあんまりないでしょう?
だから、シリルは物珍しさで「
「えとね、私ね。ジル様の特別になりたいの。」
うーん、この8歳児から出るセリフじゃ無い感。やばいね。私の可愛いシリルも狼の血を引きしロリだったか。
てか私のライフワーク(笑)であるロリ婚撲滅の一番の問題点が身内に居る件について、だれか私の受けた心理的ダメージを何とかしてほしい。ちょっとショックが果てしない。
いやいや、まてまて。まだ今すぐ結婚したいとか抱かれたいとか言っている訳じゃない。この世界多夫多妻どんとこいな世界だから、誰かに先にとられちゃって失恋ってパターンは少ないわけだし、この先そうなりたいって事だとは思うけど。
私が無反応に見えて不安になったのかシリルが言葉を続ける。
「このままだとね、私。ジル様に、おねーちゃんの妹ってしか思われないと思うの。いきなり好きになってもらいたいなんて、狡い事を考えている訳じゃなくてね。
私自身にジル様が価値を感じてほしい。他の人じゃなく私と一緒に居たいと感じてほしい。だから先ずはジル様と戦友になりたい。
ただのお友達じゃなくて、特別なお友達。」
ん-いやー……どうだろう。私の妹って結構恋愛関係ポンコツだったのかな。狼の血をひいてはいるけど正解の道に辿り着く前に明後日の方向に突っ走っているような印象を受けるんだけど。
恋愛音痴の私が言うのもなんだけど、これってアリなのかな。男心として戦友と呼べる女性と結婚するって、いや、まぁ確かにおっちゃんの所はそんな感じみたいだし、無しって訳じゃないんだろうけど。男としては押し倒すにしても結婚するにしても手弱女の方が良いもんじゃないの?
「戦友ってさ。おねーちゃんはちょっとその方向性は間違っているんじゃないかなって思うのよ。それよりも優しさや弱弱しさとかをチラッと見せつつ、元赤、いやジルの庇護欲を誘った方が正解に近いんじゃないかと思うけど。」
そんな私の、至極当然の言葉にシリルは分かってないなぁという表情で反論する。
「私も最初はそう思っていたけど、なんか違うんだよね、ジル様。ジル様に何があったのかは分からないし、何となくでしかないんだけど。
側に居ようとしても話しかけても、避けられているっていうかあしらわれているって言うのはわかるの。でもそう言う事じゃなくて、うーん。
多分、ジル様、弱い人は守ってくれるけど側に置いてくれない、そんな感じがするの。自分が居なくても一人で立って歩ける人でないとジル様の側に立てない様な、そんな感じがするの。」
あぁ、シリルってば凄いや。本当にこの子8歳かいな。私が育てたんだから恋愛関係は雑魚に育っていてもおかしくないんだけどな。
詳しく知ったわけでもないジルの事情を、恐らく何となく察したって事だね。元赤はいずれ自分が消える事を理解している。
だからって誰かを好きにならないとか決めているのかどうかは分からないけど、自分が消えてしまった事で倒れてしまうような弱い存在を自分の側に置いておくわけにはいかないのかもしれない。
自分に置き換えて考えてみれば、分からないでもない。
置いて行く側の苦悩を見てきたから。
「だから強くなって、まず戦友になるって事?おねーちゃん、それはやっぱりちょっと間違っているような気もするけど、あんたが本気で考えてそうしたいって決めたんなら、それでいいさね。
んで、おねーちゃんはシリルに何をすればいいのかな?」
まずは第一難関を突破、とでもいいたげな笑顔でシリルは頷いてくれた。
「ジル様が教えてくれたの。魔法使いが身内にいる場合、その兄妹にも魔法使いの素質がある可能性が高いんだって。
魔法使いの兄妹や子供が魔法使いになるって話は結構あるみたいなんだ。
だからおねーちゃんの妹である私にも、魔法使いになれる可能性があると思うの。」
目をキラキラと輝かせて私を見つめるシリル。そっかぁ、自分でその可能性に辿り着いたかぁ。後で時期を見てドヤ顔で伝えるつもりだったんだけど、もったいぶっていたら元赤に先を越されたか。
悔しくはあるけど、いいきっかけだと割り切ろう。
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