魔法バレは楽だわ 待っててねシリル
ラットの皮が欲しい、と言う理由で結局、治療院へ行くのは後回しにして、皆と一緒に下水仕事をやる事に決めた。とは言っても、私は正式登録をしてしまった為に、掃除組にも護衛組にも参加できない。
前と同じように、駆除で入って皆がいる掃除ポイントを拠点にして狩りをする予定で、塒を出る前からケリー達と打ち合わせをしておいた。
今回はちゃんと松明を借りていくつもりだけど、松明はそんなに長時間は燃えないんだよね。だから、松明の先にちょっと強めの永続光をかける予定。下水路を出る前には解除しておけば松明一本余ったって言えるもんね。獲物袋やその他の用意も万端、まかせて。
でも魔法の灯りって味気ないよね。灯りなら、個人でカンテラ欲しいかな。貸出しているようなぼろいのじゃなくてさ。お洒落な感じで少し凝った造りの、灯りを閉ざしてオンオフ出来るような奴とか。
簡単に大銀貨一枚位は吹っ飛びそうだけど。そのかわり油代は節約して芯に永続光かけるとかして。光の色合いを炎の色に調節してみようかな、LEDライトのようにさ。
なんか、仕事しているうちに色々と欲しいものが出てくるよね。個人のカンテラだけじゃない。皆、維持できないからって装備無しで入るけどさ、腐食に強くなる処理をしてブーツやグローブ、グリーブ位は標準装備したいよね。
魔法付与処理をしてしまうと、魔法の品を下水組の子供が持っているって事が噂になって普通に刃傷沙汰になる。調べても魔力を感知できないように、魔力付与ではなく魔法で処理をするけどあくまでも物理的範囲での防腐処理を施す。
どうやって作っているのか、どうなっているのかは調べてみてもわからないけど、魔力が付与されているわけじゃない、普通の革装備ならそれほど大事にならないんじゃないかな。
ブーツには保温効果は付けたいよね。地味に足元から冷えて腰も冷えるし、おトイレしたくなるんだよね。皆我慢しているみたいだけど。どうしても我慢できなくなったら護衛組から何人かついてきてもらって端っこで、ね。仕方ないんだけどさ、それが恥ずかしくて女子には不評なんだよ。護衛組に女の子が居る時は良いんだけどさ。
当然、そんな浮ついた変態な男共はいないけどね。皆、命がかかっているから、それどころじゃないんだよね。本当なら、恥ずかしいとかそんなもん知るか、と皆に囲まれているその場でしゃがんでやってもらいたい位なんだろうけど。
過去には何人も用を足す為に皆から離れて、そのまま食われた掃除組の子達もいたんだって話も聞いたよ。ただ、女の子達が本当に恥ずかしいのも事実だし、歴代リーダーたちも色々と考えて護衛組が付いていくという方法を取る事にした。
ただ、さっきも言ったけど命懸けだから、女の子が用を足している間、ガードについている人達は耳を澄まし気配を探り、奇襲を受けないように必死だったりする。私が護衛組で働くようになってからは私と、あと数人の掃除組の武器持ちの女の子でガードするようになったから、女の子達は喜んでいたけど。
段々慣れてきて、冒険者になって外働きを始めた女の子達は、そんな事でリスクを取っていたら命がいくらあっても足りないと骨身に理解して、全然気にならなくなるみたいだけど。
かく言う程に、寒さ、おトイレ対策は私達にとって重要なのだ。作るなら長ブーツみたいにしてグリーブと一体式にした方が良いかな。足元が冷えないように、ケリーの様に太腿かまれても大丈夫なように色々と手を加えて。
ラットの革の毛のある方同士を組み合わせて、魔法で結合するのはどうだろう。三枚構造にして内側にも毛皮を貼って、空気の断層で保温効果を持たせる。
噛まれても中に水がしみないように、中空構造になっている部分に幾つか手を加えないとだめだね。戦艦の装甲みたいに、一か所が貫通しても他の部分に浸水しないような構造にするとか。動きにくくなったら意味無いから、その辺も考慮しないとね。
手間はかかるけど、一度技術を確立さえしてしまえば、ストレージで面倒くさい部分は大量生産できる。シナリオ経験値を放棄する事を受け入れられれば、だけどね。ただ、そういうストレージの活用もチートって言えばチートなんだよね。
……ストレージ使って大量生産したら普通に周りから怪しまれるね。そこは止めておこう。
うん、頭がこんがらがってきた。多分、今の状態だとやりたい事は沢山頭に浮かぶけど、実際に作業するとなると、また技術不足で頭が真っ白になりそうだね。
最初は大人しく簡単なところから始めて、経験を積んでから技術取得し一歩ずつ進めていった方がいいか。
シナリオ経験値の方はここ数日でかなり溜まっているみたい。ここ数日でいったい何があったのか、と気になって
シナリオ名なのかイベント名みたいな記述の後に、獲得経験値らしき数字が記載されている。ここまでやらなくてもいいじゃない。
なにこれ。イベント名「初めてのソロ 仲間の死と魔法バレ」、獲得経験値4,000。これって妥当なの?最初の人生の時にやったTRPGだと、この程度の内容のセッションでこんなにもらえた記憶無いけど。
その次の日とその次、のシナリオ経験値合計で7,000の取得、残りのシナリオ経験値7,500。この調子で経験値が手に入っていたら、あっという間に何でもできるチート野郎になってしまう気もする。
いや、それはないかな。もう一度、取得可能の能力一覧表を見ていると、ある程度高位のものになるとコストがえぐすぎる。作りながら調節しているような感じだよね、これ。よく確認すると一応リストの内容も前に見た時よりも少し増えている。
今は突っ込むのはやめておこう。ゲームの種類が違うんだと考えた方が精神衛生上良いわよね。
とりあえず、この前の失敗に学んで下水路に入る前に「解体技術1」は取得しておいた。4,000の消費也。残り3,500。
「ほれ、松明だせよ。火をつけてやるから。」
ブローが手を出してくるけど、手で振って遠慮する。
「大丈夫だよ。」
残念そうなブローの手が宙を彷徨っている。あぁ、悪かったよ。せっかくの善意に水を差してご免よ。そんな事をやっていたら、ケリーがちょっと目をやってから声を掛けてくる。
「また灯り無しで奥に行くのかよ。暗闇は得意だって言っていたけど、無いよりはあった方が良いんだろ。」
「まぁそうだけどさ。ま、見ててよ。」
そう伝えると、腰に挟んでおいた松明を手に取って、掲げる。
「
火を付けずに力強く青白い光を放ち始める松明に、下水組全員驚きの声をあげる。
「すげぇ、そんな魔法も使えるのかよ。」「すごい眩しいよ!」「魔法かよ、マジかよ、すげぇ。」「俺も使えるようになれるかな。」
「もう魔法を隠すつもりは無いしね。これなら燃えないし熱くないから、腰にさしたままだって持ち運べる。
ここを出る前に解除して返しちゃえば変に思われないでしょ。」
「それって別に松明じゃなくても良かったんじゃないか?」
「今更の話だけどさ、松明持たずにソロに出たら説明面倒じゃない。今は他に適当な物なかったし。」
護衛組の男共が自分たちの持ち物を色々と見まわし始めた。もしかしたら自分達にも永続光を掛けてもらいたいのかな?
「本当に今更な話だけどよ。ま、気をつけてな。
てめぇら、そわそわしてんじゃねぇ、気を引き締めろ。エリーはこれからソロでこの先に潜るんだ。余分な魔法使わせていいはずがねぇだろうが。
おら、さっさと散れ、配置に付きやがれ。ぼやぼやしていたら奴らにはっ倒されるぞ。」
軽く手を挙げて「無事でね」と声を残して、永続光の掛った松明を腰に戻す。本当はラット達に光を見られない方が奇襲をかけやすいし、光が無くても問題なく動けるから、この魔法はあんまり意味がないんだけどね。
誰にも見られないのなら吸血・吸精をオンにして戦えるから、消耗はほとんど考える必要はない。奥まで行って、魔法の矢の着弾音で獲物をおびき寄せて、魔法とスティレットで片っ端からかたずける。ある程度まで片付けたら、ストレージに入れて小分けにしてみんなの所に何度か往復して持っていく。
後はラットの解体とかを皆の居る所でやればいいよね。解体する時間は皆と一緒に居られるから、その間は皆を守れるし。
もう魔法バレしちゃったし正式登録もしちゃったから、100や200獲物を狩ってきても問題ないわよね。
ただ流石に、持ち運びは皆に協力してもらっても難しいかな。泥を運ぶための荷車を一台借りて、途中で何度か管理小屋の方に行く必要があるかも。午後は私用の荷車も借りられたら借りておこう。
目的の為に、ちょっとだけ自重はやめる。私の迎えをシリルが待っているのだから。多分。改めて気を引き締め、最初の獲物をレーダーに捉えると、スティレットを片手に音を立てずに疾走していく。
「シリル、待っていてね。直ぐにおねーちゃんが迎えに行くからね。」
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