リーメイトさんとお話 私の要望は?
「ケリー、戦争に参加するって?」
既に寝床で横になっていたロナがボソッと話しかけてきた。見てわかるほど顔が硬直している。皆もね。ニカも泣きそうな顔になっている。ここが襲われるかもしれないって聞いて怯えている未登録幼年組も涙を浮かべていた。
私は何も言わないでロナとシリルの間に割り込んでロナを抱っこする。シリルが後ろから優しく手を回してきた。
「みんなを守りたいんだってさ。」
それだけを言って目をつぶる。後ろの方で幼年組が自分のお姉ちゃんに怖いよと言葉を漏らす。私はギルドに参加するとなると壁内に行く事になるだろうけど、院長先生たちはどうなるんだろう。壁外に治療拠点を置いたりはしないのかな。
それなら私もここから通えるし。何かあった時は皆を守れる。わがまま言えば私の家族だけでも壁内に入れてくれるかもしれない。というか、自軍の有力者の身内を敵の手が届くところに置いておく馬鹿はいないだろう。ただ、私の家族だけ壁内に入れるというのも都合が悪い。私の心情はさておいても、多分妹たちも自分達だけ安全な場所に逃げようなんて思っていないだろうし。
もしそうなったら、せっかく友達になったロナ達との仲がぎくしゃくしかねない。皆が苦労して生き残った後、安全な場所でぬくぬくしていた自分たちが合流して、大変だったねって何の嫌味だよ。
参加するときに壁外の治療院勤務を条件にすれば、私の護衛という名目でケリー達を付けてもらえないかな。そうすれば何があっても私がケリー達を守る事が出来る。治療院と塒の距離、そこそこ離れているけど、走って行けばあっという間だし。
きゅっとシリルの両手に力が入る。それがロナに伝わったかの様にぴくっと反応した彼女。
「大丈夫だよね、あいつ。」
「そう信じるよ。必ずここが攻撃されるって決まったわけじゃないし、希望が通るなら私は外街の治療院で働く予定だし。敵が来たら私が全部やっつけてやるかんよ。」
ちょっとだけヤンキーっぽさをだしてお道化て見せたけどロナにはネタが通じない。後ろでシリルがクスッと笑ってくれている。流石わが妹、色々と今まで仕込んだ甲斐があると言うものだ。
お前は自分の妹にいったい何を仕込んでいるんだって、突込みが来そうな気もするけど、赤ちゃんの頃から面倒見ていたんだもん、そりゃ自然にそうなっちゃうよ。
シリルが笑った事で、それが私特有の冗談だと理解してくれたロナも笑ってくれる。その日はそのまま眠ってしまった。
いつものようにボディーガードを買って出てくれた男子組と兄二人、シリルを連れて朝早くからギルドへ顔を出しに行く。今日は本来ソロ狩りで下水仕事に向かう予定なんだけど、うちのグループは誰一人下水仕事に向かっていない。というか町中がそれどころじゃない雰囲気であふれている。
ケリー達は昨日のうちに登録を済ませてしまったようで、今日は昼から壁外のパップスの陣近くに設置されているギルドの部隊運営本部に顔を出しに行くみたい。
外街は更に喧騒を増して、外の陣に参加してる軍勢も6万を軽く超えている。各職場に散って小遣いを稼いでいたパップス達も徐々に帰陣を始めたようだ。南門の方からひっきりなしに荷車が南の急造倉庫街の方へ行き来しているし、時折ギルドで編成されたと思わしき部隊が50~100人単位の部隊毎になって移動している。
壁内から出てきている部隊は、冒険者や個人戦闘者の中でもある程度実力を持ち実戦を潜り抜けてきた人たちなんだろうな。この一戦で命も財も失うかもしれないのに、みんな顔に戦意があふれている。
町の中が活性化しているとも感じるけど、殺気立っているようにも感じる。おそらく、近いうちに事が起きる。
シリルたちを迎えに行くのほんの少し早かったかな。今更だけどさ。ただ、戦争が終わるのを待っていたら、多分間に合わなかったろうし。
世の中、何もかもうまくいくなんて中々ないよねぇ。思わず内心頭を抱えてしまう。
ギルドでは護衛役の子達には妹たちの側に居てもらって、休憩用の広間で飲み物を頼んで待っててもらう。ここでは軽食も出してくれるので、店員さんに銀貨1枚手渡して、みんなに好きな物を頼むように言っておく。
店員さんは慣れているのか、銀貨を手渡されても落ち着いてにっこりと笑って後はお任せくださいと言ってくれた。お釣りは全部店員さんのチップかな。足りなかったら笑う。
ルツィーさんは私の姿を見ると、何も言わずに2階の支部長さんの所へ通してくれた。多分色々と私が条件を付ける事を察してくれたんだと思う。
リーメイト支部長さんが勧めてくれたソファーに腰を下ろし、ルツィーさんの淹れてくれたお茶を啜って一息つけると、支部長さんから話を振ってくれた。
「さて、いよいよ外街もパップス達の陣も騒がしくなってきたな。どうかね、腹は決まったかい。」
不本意な言われようだよね。私はとうに腹は括っている。ただ出来れば前線送りにされたかっただけなんだけど。ま、シリルたちを置いてはいけないけどさ。
「えぇ、参加自体はお話をいただいた時から決めていましたけど、問題はこの前連れてきた兄妹のことなんです。」
そう言うと、支部長さんはにっこりと笑ってそこは問題ないと言ってくれる。
「あぁ話は聞いているよ。私達としても、君の身内を危険な場所に放置する事は愚策だと理解している。勝手ながら、既にギルドの方で壁内に安全な場所を確保してある。
事が起きても同じ場所で寝起きが出来るように、配慮もしてある。」
やはり、ギルドはその位の事は考慮済みの様で、でもだからこそ今から言う事がちょっと言い出しづらい。
「その、私が配属される予定の後方部隊は壁内ってお話でしたけど、壁外には治療部隊は配置しないのですか。」
それだけで私が何を言いたいのかを理解したリーメイトさんが苦い顔をして顔を左右に振る。
「あぁ、貴方は本当に仲間想いな方だ。」
そう短く言うと、お茶を一口飲んで顔に浮かんだ苦みを流してしまうと、少しの間考え込む。頭良い人って話が早いからいいよね。時に早合点してしまう人もいるだろうけど、この考えるって一つの間で私の表情も観察しているし、言いたい事をちゃんととらえる事が出来ているかも確認している。
この人は本当に頭が良い人だ。少なくとも最初の人生の時の私よりは確実に。
「正直申し上げると、私どもとしては貴女や貴女の家族を危険にさらすつもりは無い。極端な事を言えば、今回の作戦に関わらせずに後方に下げてしまう案もギルドの上層部や辺境伯側から出ていたのですよ。」
そう言うと、少し言いづらそうに話を続ける。
「貴女がどう思っているかは分からんが、我々はこの定期的なパップスの魔の森への攻撃は我々の制御下にはないうえに、無計画で無謀ですらあると考えている。」
「言葉は悪いですけど、増えすぎた自分たちの数を減らすための、いわば自殺行為、ですよね。」
そういう私の言葉を受けて、無言で頷く支部長さん。
「やるのならば、もっと計画的に進めるべきなのだがな。それが彼らの性質だというのであればやめさせることも出来んし、かと言って何も協力せずに見殺しにも出来ない。
そんな暴挙に滅多に現れることの無い神の加護を受けし高位の魔法使い。しかも高位治療魔法を行使できる魔法使いを巻き込んで万が一にも失われる事態は避けなくてはならない、とね。
私も殆ど同意見だがね。ただ、私の場合、君を直接この目で見ている。ルツィーからも色々と報告を受けている。」
「では私は何を望んでいると思われますか。」
少し挑発的な表情を作って支部長さんに投げてみる。支部長さんは少し楽しそうに、先程と同じようにお茶を口にして少し考える。
「ふむ……。」
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