危ないお兄さん
お仕事を始めてから2週間と3日、一度も休みを取らなかった私は、ケリーやロナ達に心配され、お説教されている。もしかしたら何日かお休みをいただくことになりそうだ。
というか、現在進行形でお昼休みの河原で説得されている。
「不思議とあんだけラットをぶっさしといて殆ど折れてないから、見かけより丈夫なのかもしれないけどよ。それでもいつ折れてもおかしくないし、予備も無いんだろ?
護衛部隊は自分の命だけじゃなくて仲間の命にも責任が出てくるからな。いい加減、時間作って棍棒でもダガーでも良いから新しい得物用意した方がいいぜ。」
「それに根を詰めて働き過ぎよ。お互いこんな身だもの、何か事情があるんでしょうけど焦って身体を壊したら元も子もないと思う。
自分では気が付いてないかもしれないけど、ここの所なんかボーっとしているし、顔色が悪いときもあるよ?
ね?、買い物もしなくちゃいけないなら、悪い事は言わないから少しだけお休みしたほうがいいよ。
お買い物と、お休みと、出来れば3日くらい体を休めてさ。」
「でも、皆が心配だし。そんなに休めないよ。」
「私達が心配なら、お昼時間に河原に来て一緒にお昼ご飯食べましょう?
朝夕の暗い時間帯じゃなければ大通りを通る分には衛兵さんも目を光らせてるから、それほど危なくは無いし、買い物に行くのなら誰かその時にお休みしている男の子が何人かついてきてくれるから。」
「応!無報酬だから気にすんなよ。野郎共にとっちゃ将来女と付き合う為の予行練習みたいなもんだ。俺が休みの時は俺が付いていってやるよ。」
何にも考えていない様な笑顔でケリーがそんなことを言う。ちょいとやめとくれよ。そんなことを言われると少し意識しちゃうかもしれないじゃないのさ。
ほんの少しだけ頬が赤に染まった気がした。
おおぅ!?目の端に捉えたロナの顔が何故か少し怖いよ?
「あ、あと金に余裕があるなら小さい盾もあった方がいいぜ。取り回しが楽だし、利き手が右手だろ?左側に回られた時にラットやローチなら盾で潰せるしな。あ、あと安もんでいいから肩掛けのバッグな。いつまでもパンをローブに包んで、下水路の通路わきに置いておくわけにもいかねぇだろ?」
盾か、今世の戦闘スタイルとしては考えたことは無かったけど、今までやったことが無いわけじゃない。むしろマスタークラスと言っても言い過ぎじゃない。今世では触った事すらないけど。
あと肩掛けのバッグね。うんそれは必要だわ。基本ストレージ使う事を前提で考えていたし、その内ソロで動くつもりだったからその時まで我慢すればいいやなんて思っていたけど。例えソロになったとしてもバック一つ持たずに色々と品物を取り出していたら、そりゃぁ不審に思われるもんね。
ただなぁ、バッグは兎も角盾かぁ。安くないわよね。中古の短剣一つ贖うのに一体銅貨が何枚必要なのか。そこそこいい作りの奴を選ぶつもりだし、多分貯金の半分近くは飛ぶわよね。とりあえず盾の値段を調べておくくらいはしておいてもいいかもしれない。
ノーマル品質の新品の値段なら兎も角、中古品は本当にピンキリだからなぁ。実際に目で見てみないと判らないしねぇ。
うん、いずれは休まなくちゃいけなかったしね。お言葉通り休むか。
とりあえず買い物行って、その後はラットの皮を確保する為にソロ活動っていうのはどうだろう?休みにはならないけど別に心身共に疲れは無いし、この2週間と3日で既にレベルはいくつか上がっている。
RPG的には敵を倒してはいるんだから問題ないけど、TRPG的には1日の終わりをシナリオ達成に見立てるのって、普通にズルじゃないの?端に一日お仕事してお給料もらっただけでシナリオクリア?経験値と成長点とかもらえたりするの?
実際にどんなルールなのか細かくは教えてくれなかったから
いや、力の無駄が多いからやらないけどさ。遠距離攻撃が必要なら素直に魔法使います。
後、まだ吸血鬼的な成長は皆の手前、出来ないでいるけど。それが無くてもこの調子なら化け物レベル程度まではあっという間に成長出来るらしいので、今から楽しみである。
「解った、明日から何日か休みを取るよ。やりたい事もあるしね。あぁ、それとさケリー、少し相談があるんだけど。」
「応、なんだ?」
短く明朗に、笑顔で返事を返してくれるケリー。益々顔が怖くなってくるロナ。と言うか顔が強張っている感じかな?何かに葛藤しているような。直で見ていないからよくわからないけど。もちろん、首を振って直接見る勇気は無い。
私は鈍くないからね、分かるよロナ。でもね安心してほしい。私はロナとの友情の方が大事だし、男と恋愛するつもりは無いんだよ。確かに……ケリーは良い奴だけどさ。
第一、既に寿命も不慮の死も無くなってしまった私と定命の彼では、先には不幸しか待ってないだろうし。この先、万が一があったとしても彼を不老に加工するつもりはない。やったことがあるのは
懲りない
「このローブ、譲ってほしいのよ。なんか気に入っちゃったし、着替えを買っても上から羽織っておけば顔も隠せるしさ。」
「本当に女仕事すんの嫌なんだな。あぁ、わりぃ、女仕事って言っちゃ駄目なんだっけ。意味わかんねぇけど。」
「今更いいわよ。ワザとじゃなければ。まぁ、仕事している女の子を否定するつもりは無いけどさ。顔を会わせたこともない男に身を任せるのは怖いし第一、気持ち悪いのよ。」
「まぁ、良いと思うぜ。人それぞれだし、エリーはあれだけ戦えるんだから、孕んじまって後ろに引っ込むのはもったいないしな。
ただ、こんな生活から抜け出したいって必死で命がけの下水屋やって、その合間に早く孕んで良い男捕まえたいって夢を見て、指名依頼受けている娘もこのグループには何人かいるからな。
そういう奴もいるって事は覚えておいてくれ。」
話を聞いているとこの性奉仕の指名依頼って単純な性売買とかじゃなくて、売春の形を取ったお見合いみたいだよね。プロの街娼や娼館で働いている娼婦の人たちと根本的に違うのかもしれない。
子供が出来たらご結婚っていうのも、繁殖優先の社会状況を反映しているかも。子供を作れるし産めるカップルである事が証明された時点で、「励め増やせ滅ばぬ為に」って感じかな。
単純に非難できるような事じゃないのかもしれないけど、私の価値観にはどうやっても合わない。男に生まれてきたとしても多分、受け入れらんなかったと思う。
「私には依頼が出たことは無いわよ。出ても受けるつもりは無いけどね。」
ちらりとケリーを見ながらロナが続ける。ケリーの服を掴もうとして躊躇ってその宙を彷徨う右手が尊い。ケリーは気が付いているのかいないのか。
因みにロナは私の目から見ても可愛いんだけどね。ロリコンの多いこの世界の男性たちの毒牙にかかっていないのは奇跡じゃなかろうか。それとも単純にまだ年齢が幼過ぎて流石に食指が動かないのかもしれない。
詳しく年齢を聞いたわけじゃないけど、多分彼女、10歳未満だよね。態度は大分大人びているけど、こんな状況で、それでも生きていくしかない子供たちがいつまでも幼稚でいられる訳はないもんね。ニカは多分7歳くらい?端に栄養が足りなくて年より幼く見えているだけかもしれないけどさ。
「でもさ下水屋のギルド監督官、エリーの顔をみて見惚れていたよね。エリーを護衛部隊のメンバーに皆で推薦していた時。エリーに見とれて私達の話、耳に入っていなかったみたいだし、あの人22歳で独身だよね。あれ、大丈夫かな。」
いきなりとんでもない情報が私の耳と心を撃つ。ヤバイ、2日目の躍進は罠だったのか。でも今の所、指名依頼は出ていない。と言う事はおねーさんが頑張って止めてくれているのかもしれない。
「あぁ?あいつ、確か他の下水屋グループの掃除の女の子に手を出してなかったっけ。ちゃんと指名依頼出してるから問題にはなってねぇけど、20代のギルド職員の稼ぎで女二人養うのは無理だろ。
同時に二人に依頼を出す時は、確か稼ぎを調べられると思ったから、多分大丈夫だろ。」
「そのおにーさんが他の人に話さないとも限らないじゃない。」
「自分が気に入った女を他の奴に漏らすか?そいつに盗られるかもしれねぇのに。でもまぁ、わからねぇか。やけ酒でもしてぽろっと漏らさねぇとも限らねぇ。
まぁ、ローブの件は了解だよ。物は悪くないし相場は粒3つって所だろうけど、この先入り様だろうしな。粒一つでいいよ。そんかわし、ちゃんと装備を整えてくれよ。
エリーの装備が整えば俺らも死ななくて済むかもしれないしな。」
ニカッと笑うケリーが憎らしい。
ともあれ監督官のおにーさんは私的にはアウトだという事は判明した。
下水屋で働く人たちは身長の短い種族の人たちか子供達だ。そして他の稼ぎのネタがある大人たちは、余程食い詰めてでもいなければ下水屋なぞやりはしない。
つまり殆ど7~8歳から14~5歳までの子供達が主力なのだ。そして掃除組で働いているのは10歳未満の女の子かもう少し年若い男の子が多い。つまり、おにーさんが性奉仕の指名依頼を出しているのは10歳前後の女の子である可能性が大いに高いのだ。このペド野郎め。
私も11歳の身で妾に出される寸前だったし、本当にこんな世界滅びればいいのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます