初めての休日? 4 新人さんと暗い将来
古着だけど新しい服に袖を通し、上からローブを羽織る。これも中古だけど、少し何かのシミが付いたバッグを肩に下げて、腰に抜身のままのスティレットを佩く。腰の後ろには解体用のナイフを落ちないようにひっかけておく。
下水路に入るときはローブとパンは肩掛けのバッグに入れて持ち歩く感じかな。
マルロのお店でついでに銅貨40枚を銀粒1つに交換してもらっておいた。値引きは無理でも、その位はサービスしてくれと交渉したら簡単にOKがもらえたのだ。
嬉しくてウキウキして……、つい。
「
そんなお馬鹿な状態でノリノリな私は、そのままの勢いで、朝出たメンバーを塒からそのまま引き連れてカチカチパンを人数分、おゆはん分のパンも併せて買い込み皆に二つづつ配っていく。男子共は遠慮していたけど。
「もう買っちゃったし、受け取っておいて何言ってるのよ。今更返されても困るし、私達だけじゃ食べきれないから、いらないなら他の人にあげれば?
あぁ~あ~せっかく食べてもらいたくて買ったのに、パンがかわいそうだなぁ。」
と、半笑いで泣き真似しながらチラチラ見ていたら、渋々受け取ってもらえたみたい。ロナとニカは素直に喜んでくれた。
まぁ、これで私の財布の中身は瀕死になってしまったのだけど。ケリーに渡す粒銀を省けば、残り銅貨41枚と鉄貨3枚、約12,360円である。
いつもの河原にお仕事組よりも先に付いた私達は、そのまま思い思いにいつもの「自分の場所」に陣取る。とはいってもみんなそれほど離れていないし、ロナとニカは私がお仕事を始めてからは私と一緒にご飯を食べる事が多い。
ボックやカガンがスティレットをみたがったので、壊さないでよと一言注意したうえで、ほいっと手渡しして皆でわいわいキャーキャーやっていたら、午前の仕事を終えたケリー達が河原にやってきた。
「よぅ、なんだ賑やかだな。エリー、用事は済んだのか?」
見かけない男の子2人を連れて河原にやってきたケリー達に、問題なく必要な物は買ってこれた事を伝え、私のスティレットを振り回していたボックが、私に了解を得たうえでケリーに渡して見せる。
「なかなか品揃えが良いし、物も悪くない。値段も納得できるお店だったわ。盾までは流石に手が出なかったけど、まぁ今ならこれで十分、かもね。
ありがとうね、いいお店教えてくれて。」
少し厳しい目つきでスティレットを見つめ、何度か突き込みと振り下ろしをしてみたケリーはスティレットを私に返してくれる。
「少し歪みがあるな。腰の後ろの奴はサブか?」
「後ろのは解体用よ。ソロで潜る時にね、ラットの皮が欲しくてさ。」
「ラットの皮ぁ。あれって確かギルドでも買取していないし、ただ捨てるのはもったいないって、仮のギルド証のリストバンドを作るのに使うくらいしか使い道がなかったと思ったけど。
それにお前、ソロって。」
「革細工とか経験あるのよ。私は農村出だし、色々と雑用していたからね。ラットの革だって加工次第、って所ね。
装備を整えるお金が溜まるのをのんびり待っていたら、貯まる前にどこぞの変態の妾にされるかもしれない。自分で作れる自信があるなら挑戦するしかないでしょ。
ソロをするのは、護衛しながらだと解体なんてやる余裕ないし、経験しておきたいしね。」
「器用なんだな、お前。まぁ、分かった。お前ならソロでも問題ないだろうしな。
下水内に拠点があれば稼ぎも大きくなるし、獲物がたくさんとれても持ち運びに困らねぇぞ?手の余っている奴らが手伝ってくれるだろうからな。」
「りょーかい。早速午後から頼むわよ。」
「今日から数日休むんじゃなかったのかよ。」
「エリー、無理はしちゃ駄目って言ったじゃない。」
「体は大丈夫だよ、疲れていないから。それに今日買ったばっかりの装備を試してみたいし、護衛の仕事に戻る前にある程度慣らしておきたいのよ。
それに出来るだけ早めに皮集めしたいしね。
……駄目かなぁ?」
「わかったから。そんな目で見つめないでよ。
危ないと思ったらすぐに逃げてきてね。今日はケリーもいるんだから、きっと助けてもらえるし。」
「わかったよ。皆も帰るときは気を付けてね。私はケリー達と時間を合わせて帰るから。」
「勝手に分かり合うなよ。ったく、しゃあねぇな。ソロで動き回んなぁわかったし、休みを取らねぇのもお前の勝手だ。だけど護衛部隊の仕事に戻る前に一日はちゃんと休みを入れろよ?
いつでも可能な限り万全の体制を保って戦場に出る。自分以外の奴の命に責任を持つってのは、そういう事でもあるんだ。俺はそう先輩から教わった。」
そう言って、今日の午後からの私の参戦を、ケリーもお出かけ組の男子たちもあきれ顔だけど、納得してくれたようだ。時間を無駄にしないよう、仕事組は話しながら川に入って手足を洗っていた。
手早く清め終わると皆いつものように自分の場所に腰を掛け、カチカチパンを齧り始める。私達の場所にもいつメンが集まって漸くお昼ご飯が始まる。美味とは言えないけど空腹のこの身体にとっては十分な栄養が詰まったパンをみんなで笑顔になりながらガジガジ始める。
ロナがいつもの通り、椀で川の水を掬ってくれていて、それをみんなで回し飲みをしながらパンをやっつける。
うっかりしていたわ。私も何か器を買おうと思っていたんだけど、服と武器の事で頭が一杯だったしロリコンのお店で衝撃的な事があったせいで忘れてたよ。全部、
おそらく新顔だろう2人も周りを見習って、短い休憩を無駄にせぬようにパンをお腹に詰め込む作業を始める。準備が良いのか自分たちで水を飲むための木でできたコップを用意していたようだ。
普通に考えれば着の身着のまま村を出てきたんでも無い限りある程度は準備してくるだろうし、器も道具も何もなければ、毎日の食事にも困るわけで。持ってきてるのは当たり前とまではいわないけど、普通の話だよね。私が間抜けなだけだって話だよ。
みかけない男の子ふたりの事が気になっていたのか、豪快にパンに噛り付いているケリーにボックが話しかける。
「でよ、ケリー。そこにいる奴らは新顔か?」
「っと、そうだった。応!昨日仮登録した奴らでな。田舎から出てきて、食ってく為に下水屋始めるんだとよ。両方とも同じ村の出で同じ年。確か12歳だったか?最初しばらくは掃除組に入って慣れたら護衛組希望だとよ。
おめぇら、飯食いながらで良いから自己紹介しといたほうが良いぞ。ここにいる奴らがお前の命を助けるかもしれないんだ。」
ケリーの言葉に慌てて口の中のパンを飲み込んだ二人が自己紹介を始める。背が少しだけ高い方がトアニー、低い方がザジと言うらしい。二人ともケリーより少し背が低いかなと言うくらいで、年齢からみたら身長の高い方だと思う。多分、来年には下水屋は続けられないだろうな、と埒も無い事を考えてしまう。
下水屋は命の危険があるだけに、他の仮ギルド員が出来る仕事よりも割が良いし経験も積める。彼らはまだ12歳で来年は13歳。来年の内に成長してしまえば正式登録まであと2年。それまでに正式登録の要件を満たす。私の様なチート無しで。
資格を満たせなければ、後は食べていくのもやっとの仕事を、15歳まで延々と続けていく事になる。そうなるとそれまで装備の為に貯めた貯蓄は、生活に消費されていく。15歳になれば正式登録できるけど、その時にはダガー一つ買うお金も残らないだろうし、結構苦労しそうだよね。
要件を満たせても、その後冒険者の仕事で外に出れば1年以内に半分は死ぬ世界。13歳で?身長が早く伸びるというのも考え物だよ。
本当にこの世界は悪夢のような世界だ。命が軽すぎる。
まぁ、だからこそ
一応、報酬もそれなりに貰えるだろう、北方ならではの冬の名物仕事があるから、そこで稼げば何とか食べていけるのかな。その仕事なら、冬ならほぼ毎日あるだろうし。
きついんだよね。雪かきとか雪下ろし。この地域は豪雪地帯だからなぁ。11月半ばから3月初めまでは雪に閉じ込められるお国柄です。
私の時よりは皆に溶け込むのが早かったようで、二人は休暇組のボックやブロー達と忽ち打ち解け合って、さっさとパンをやっつけてから、わざわざ私から再度スティレットを借りてまであーだこーだと剣術に関しての話に夢中になっていた。
良いんだけどさ、そろそろ切り上げないと午後の部の集合に間に合わないかもよ?
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