新しいお家を作ってます。
短い夏はあっという間に過ぎていく。私がこの世界で初めて始めた美容事業も、美白の価値を理解できる人が貴種しかいなかったうえ、施術の料金も魔法を使うのでそれなりの値段になってしまう為に何人かのお試しだけで終わってしまった。
つまり収入無し。
謳ったのは美白だけではなく美肌も、なのだけれど。看板の最初の文字が一番インパクトが強かったのかもね。
夏も過ぎた頃には、日差しを気にする女性たちの声も治まってしまい、私の立てた看板に反応してくれた人はそれほど多くない。ただ、紫外線の被害は一年中油断してはいけないのだけれど。特に冬は紫外線が強いし。
いいよ、後になってこの美肌の価値に気が付いても、その頃にはこのお値段じゃ施術は受けられないからね、その時になって後悔すればいいんだよ。しるもんか。
ルツィーさんが頭を抱えて私のテントに入ってきた時はまたやらかしたかと思ってしまったけど、結局お客さん兼被験者第一号はルツィーさんになった。さらりと酷い事を言っている自覚はあるけど、態々この為に今までためてきたシナリオ経験値を消費してまで、美肌に適した術式を幾つか手に入れていた私に、悪気は全く、全然、欠片も無い事はここに誓っておこう。
また目的の技術や知識を手に入れる為に貯めなおさなければならない。ま、それでも私的には満足だけどね。下手に戦闘用の術を手に入れるよりよっぽど役に立つ代物なんだよ、この術は。女性ならわかってくれると思う。
男共だって、自分の恋しい女が美肌になって自分に抱き着いてきたらって想像してみればいい。その肌触りと気持ち良さ。思わずバキュンがバキュンバキュンして堪らないでしょう?っと乙女にあるまじき事を言ってしまった。
ただ、ルツィーさんを結果的に実験台にしてしまった事は、彼女には黙っておくことにする。結果が良ければ問題ないでしょ?
彼女にとっては私が、今度は何をやらかしたのかが分からなかったのと、危険性が無いかを自分の身で確かめておきたかったのだろうけど、真面目、だよねぇ。
私が何かを間違えて、私の立場が危うくなるのを防ぎたいって意思を感じたよ。
そんなこんなで施術を受けた彼女はまず、多少日焼けしていた自分の肌が奇麗に肌本来の色に戻っていることに驚いて、次に自分の肌の手触りに驚いていた。
私も触らせてもらったけど、赤ちゃんのような肌触りに、施術の成功に確信が持てたね。
あんまりにも手触りの感触が良かったので、延々とルツィーさんが顔を赤らめてやめてくださいと懇願するまで触りまくってしまったよ。
当然、彼女はまだまだお肌の曲がり角には程遠い人だったから、美肌実感としてはまだまだなんだろうけど、その後院長先生の奥さんの一人にもテストケースになってもらって、奥さんも院長先生も大喜びの結果をたたき出してやった。
それが呼び水になって、院長先生の奥さんたちは全員施術を希望されて、今では彼女たちは10代のお肌を取り戻している。
だけどここで終わりだったんだよね。
てっきり、そのまま貴族のお嬢さん方の噂の的になるかなと思ったんだけど、これが治療魔法だと謳ってしまったのが不味かったのか、被施術者たちはそろってどこで誰の施術を受けたという情報を口固くよそに漏らすようなことはしなかった。
特に私が神か邪神の類であると確信してしまった院長先生は、その点について過敏に反応してしまって、奥さんたちに余計な情報を漏らさない事を徹底していたみたい。
奥さんたちが、ご近所さんや上役の奥さんたちにその美肌の秘訣をしつこく聞かれて大変だったって笑顔で話していたもん。周囲の同年代の女性たちの嫉妬心に晒されて、それでも秘密を守らなくてはいけないって事が、かえって奥さんたちの精神的な何かを満たしてしまったようで、楽しそうだった。
歪んでるなぁ。
私も美味しかったから、この点に関してはまぁ、自然になるようになればいいや。
治療魔法行使者の情報を隠蔽、管理しなくてはいけないって事は理解できているけど、私についてはもう今更だし、態々看板を出して宣伝までしてしまっているのだから、噂を拡げてくれた方が私としてはありがたいのだけれども、ね。
余計な事はしないに限るって事なんでしょうね。また夏になったらこの看板を出すつもりだし、多分何年もしないうちに、貴種のお嬢様方にも広がるでしょう。
ん?貴種に関わると色々と面倒くさいのではないかって?
うん、面倒臭いよ?
ただ、私に関してはそれこそもう今更だよね。身の回りに第4王子が居て、もと貴種であろう支部長さんがいてって事もあるけど、多分辺境伯や王家にも私の事情とやらが伝わってしまっているのだろうし、私自身も周りに力を示した。
この後は、面倒ごとに巻き込まれるにしてもそれなりの対処法を取れるだろうし、力づくが不味ければ元赤や支部長に対処をお願いすればいいだけだし。その為の元赤の”護衛”でしょ?
未だに一人で出歩けないからね。もう、そう割り切る事にしたよ。
以前と違って、20年ほど年金が出る予定だし、額を考えるとあくせく働く必要はもうない。そのうえ、パップスの動乱は4~5年ほどで何度も繰り返す。
最初の月の振込額はまだ口座を確認していないから分からないけど、多分私とシリルと兄達と、下水の仲間達を多少助けながら生きて行くには十分な額は振り込まれるはず。
今後、動乱時の私の契約の形態がどうなるかは分からないけど、私を全く活用しないという事は無いだろうから、もしかしたらその度に年金の支給年度が長く、もしくは支給額が大きくなっていく可能性もある訳で。
後はやりたい事をやっていればいいかなとは思っている。治療院の仕事はするけどね?冒険者の外働きの花形、インスタントダンジョンの攻略も今後の私の行動を考えれば定期的にやりたいし。
でも基本は研究や物作りをしたいんだよね。それが
後はライフワークのロリ婚撲滅。
ケリー達や下水組の仲間達は、今年いっぱいは下水関連の仕事も外回りの仕事もせずに復旧作業に従事する予定だと聞いている。
短い繁忙期の間に一気に仕事を終わらせるためにか、今回の騒ぎで外働きの機会がへった下位の冒険者たちもかき集めて、人海戦術で彼方此方で工事が始まっている。あんな事があった後だというのに外街は以前にもまして活気にあふれ始めている。東地区を除いて、だけど。
理由の一つに、何が原因なのか魔の森が例年の動乱後と比べてもかなり大人しくなっている事もある。その影響で外働きの仕事がかなり減少しているのだ。まったくどこのジャイアントのせいかはわからないけど、冒険者たちにとってはいい迷惑だろうね。
余った人手は人手を必要とする、復旧作業に吸収されるという仕組みだね。実入りは少ないけど背に腹は代えられない。
だけど、あの動乱を生き残った数千のパップス達が、いつもの様に森に移住するのではなくエステーザに住み着いたっていうのもあるかもしれない。
現に今も私の施設を建築してくれている職人さんの指示に従って、何人かのパップス達が右往左往しながら懸命に働いてくれている。
彼らは意外と器用で、粘り強く根気がある。その小柄な体で、人の入り込めない場所に入り込んで修繕などもこなしてしまう為、外街では職人さん達に引っ張りだこになっている。案外、職人に向いているのかもね。
以前と違って、彼らから何となく感じていた不気味さが無くなって、なんか自然な感じだから、私としても彼らを忌避するつもりは無い。あれって何だったんだろう。
そう言えば、彼らってすごい勢いで増えるんだよね?この先エステーザの種族の比率が一変するかもね。
いつかは深刻な問題になりそうだけど、私に責任の無い話だし、私が考える事でもないから。横から口をはさめないし、挟んだとしてもかなり人道に背く意見を出す事になりそうだから、そういう事は偉い人たちに任せておきましょう。
なった事があるからわかるけど、貴族って言うのは自分の良心や感情だけで言葉を発せるモノではないのだよ。少なくとも高位のまともな貴族はそう教育される。ただ、ちゃんと教育されてこなかった者たちが色々やらかすからねぇ。
今日も今日とて、完成間近になった我が家の内装工事の手伝いをしつつ、元気に元赤に突っ込んでいってお水を差しだしているシリルに注意をするうちの女衆を横目でみている。
あぁ、シリルは可愛いなぁ。でもわかりやすいなぁ。彼女もこの世界のロリ達と変わることなく狼の血を引いていたらしく、深く考えなくてもあれ、元赤狙いだよね。
先日、話し辛そうにシリルに聞かれたことがある。
「お姉ちゃんとジルさん、お付き合いしているの?」
ってね。
焦ることなく、普通に否定しておいたけど、シリルは露骨に胸をなでおろしていた。曰く、お姉ちゃん相手じゃどんなに頑張っても勝てないし、お姉ちゃんが悲しい思いをするの嫌だから、もし付き合っていたのなら諦めるつもりだったってさ。
泣くつもりは無かったんだろうけど、僅かに目が潤んでいて赤みがかっていたからさ。シリルなりに真剣なんだろうけどさ。あなたまだ8歳でしょうに。
うん、8歳。7月に誕生日を迎えたのよ、シリル。それもあって、戦時雇用を切り上げたのもあるんだけどね。
え?元赤がシリルを振る可能性?あり得ねぇな。逆なら兎も角、シリルのどこが不満なんだか理解できないし。年齢?あぁ、たしかにまともな人間なら年齢は気になるかもしれないけど、なに、それなら”待て”くらいは出来るでしょ?犬にも出来るんだから、その位、人間ならなぁ?
あ?年齢差が気になる?その場合は私が何とかしてやるから、心配するな。後でこっそり元赤の肉体年齢を弄ってやるから問題ないよな?ん?
……っと失礼、
とりま、見捨てるつもりは無かったけどさ、元赤。何とかしてやらないと、シリルが結婚早々未亡人になってしまうかもしれない。いや、それどころか結婚前につまみ食いされてそのまま逝かれたら堪らないわ。
そんなことする人じゃないのは解っているけど、可愛い妹を持つ姉の身としてはね、過剰に考えてしまうものなのよ。
工事は順調に進んでいる。私も出来るだけ手伝っているから、時折現場で出てくる確認事項も、それほど時間を取らずにスムーズに処理が出来ている。
この調子でいけば、冬になる前には新しい塒でみんなと生活が出来るわね。
ケリーはごちゃごちゃけじめを付けなきゃとか言って新しくなった塒には入らないかもしれないけど、この塒は私の私物なんだよね。ギルドが決めた決まりとは関係ないから、誰を住まわせるかは私が決める。
もちろん、拒否する自由もケリー達にはあるけど、これだけ大きな施設になれば当然、警備する人も必要だよね?
こんな立派な建物の中に住むのは雇った後家さん達に、女と子供達だけなんだから。
どうせ外から雇わなくちゃいけないなら、お互いによく知っていて実戦経験もあって信頼できる人にお願いしたいじゃない?
本当に嫌だったら諦めるけどさ、こういう風に話を進めて行って、最後に仲間を見捨てるの?とでも言えばケリーも折れるでしょ。卑怯なやり口だけどね。私がわるもんになってケリーが意地を引っ込めるならそれでいいよ。
警備がてら時間をかけて、自分達をじっくり鍛えて行けばいいじゃない。せめてちゃんと戦える準備をしてから、自分の可能性にチャレンジして欲しい。
ま、最低でも素手の私を叩きのめせるくらいになるまではお外には出せないよなぁ。
男共はロリ婚救済の対象外だけどさ、生きて行く為の手助けくらいはさせてほしいよ。
仲間なんだし。
「オーナーさん、お食事の準備が出来ましたよ。皆さんの所にいらしてくださいな。」
職人さんや下水組の皆の世話焼きの為に雇ったアリヤさんが声を掛けてくれた。あの里帰りの時に世話係をしてくれた彼女だ。
そう言えば作業に集中していて時間を忘れていたわね。
「ありがとう、アリヤさん。切りのいいところまで終わらせたら、直ぐにいくわよ。」
たいして材料費の掛ったモノではないし、豪勢な料理でもないけど、ちゃんと三食食べてそれにスープも着ける。少しづつ出来る事から目的に近づいて行かなくちゃね。
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