魔術と魔法、補助具は杖で
思いがけずに新年2日目から色々と予想外な日々を過ごしてしまった。
7日から治療院勤務を再開する
切っ掛けは、呑んで騒いで、だけどね。アルコールの影響で箍が外れて不満が爆発した三人娘をつい調子に乗って焚き付けて遊んでいたら、まぁとんでもない事になってしまったものだ。
だけどまぁ、人様の色恋を肴に、久しぶりに美味しく楽しいお酒を呑めたから、私としては大満足である。
我ながら全く困ったものだけど、本人たちが幸せであるなら、問題ないでしょ。
ただ、朝を迎え酔いが醒めて我に返ったのかそれとも二日酔いだったのか。もしかしたら別の何かだったのかな。ただ愕然としている?もしくは呆然としているリロイさんは哀れに見えた。
リロイさんが三人娘に対して本当はどう思っていたのか、憎からず思っていたのかそれとも男女の情は一切なかったのかは私には分からない。でも私の田舎への旅の間、時折リロイさんがネルさん達に欲情していたのは感知していたし、必死に自制していたのも知っている。
だから、何も思っていなかったってことは無いと思う。
もし今回の件を彼が本気で後悔しているとしたら、考えられるのは彼が女神ベルトゥーラの信者であった可能性だよね。
この世界の価値観にそぐわないから、あんまり表に向かって自分がベルトゥーラの信者だと口に出す人はいない。
全くいないわけじゃなく、むしろそれを表に出して女除けをしている人や、本気で一人に操を立てて公言している人は少なからずいるにはいるけど。
私の知っている限りだとリーメイトさんや武器屋のマルロさんぐらいかな。
まぁ、だとしても3人が真剣に彼にせまったのは事実で、無理強いはしていない筈。
何のかんの言って、あのパーティーで純戦士として前線を支え続けた彼の肉体的ポテンシャルは伊達じゃない。酔っていたしても彼が本気で拒めば、いくらネルさん達が本気で押し倒しても、簡単に跳ね除けられたはず。
しかし実際はそうならず、何が切欠か分からないけどシリル達曰く、凄かったというくらいにリロイさんもはっちゃけてしまったみたいだから、今更でしょう?
しかもしっかり三人とも毒牙に掛けたのだから、言い訳できる状況じゃないわよね。
まぁ、ちょっと哀れではあるけど、あんな美人達が真剣に、人生を掛けて一生懸命自分を想ってくれるのだ。そんな女の子三人に迫られて、結果的には受け入れたのだから、男なら責任取らなくちゃね。
むしろ個人的な意見を言わせてもらうなら、生えていて、使う機会があって、大活躍する事が出来たのだから男として本懐だろうって言いたい。羨ましいからもげて欲しいくらいだよ。
一体何が切欠で、ネルさん達はあの唐変木に惚れたんだろうねぇ。見た目は良い男であることは、まぁ、間違いないけど。中身も、かなり優しいし気を使える男ではあるよね。
まぁ、何が悪いのか、単純に運が悪いのか、実力に稼ぎが伴ってないけど、それもその内解消されるでしょ。多分。
シュリーさんには戦力アップの為に幾つか仕込む予定だしね。
でも念願かなって、こうなったからには、もう何も障害は無いとばかりに、シュリーさんが本格的に私の所に弟子入りするかも。意外と近いうちに結婚式でも挙げて後顧の憂いを無くしてから、さっそうと弟子入りの挨拶に来るかもね。
だとしてもねぇ、折角?こうなったのだから、暫くはリロイさんの側に侍ってとっとと生物としての義務を果たしてしまえと思わなくもない。
魔法の術式を幾つか覚えるだけなら、通いで十分だし。一応、簡単な治療魔法のレクチャーと効果を高める為の知識も伝授する予定。いや、知識関係なく効果を発揮する類の簡易の治療魔法を伝授した方がいいかも?
どうせ魔法を発動させる際に、ある程度の術の難度に関わらず無駄に魔力を消費してしまうのだから効果に理解が必要な術式じゃなく、望む結果をもたらす形式の術式の方なら一定の効果を担保できるし。
ま、これも世界が違えばって奴でさ、魔法と魔術。本来なら同じものなんだけど、世界によっては魔法は○○で魔術は△△、って決まっていたり、別の世界だとまったく逆だったりして、面倒臭いものの代表なんだよね。
個人的には
どっちがどうかは置いとくとして、魔法ってさ、何故そうなるのかをちゃんと理解して、その過程を解き明かし、術式に当てはめて望む結果を出す方法と、あらゆる過程をぶっ飛ばして望む結果を顕現させる方法と大きく分けて2種類あるんだよね。前者を魔術と呼ぶ事が多いし、後者を魔法って呼ぶ事が多いんだけど、世界によって逆になったりするし、面倒なんだ。
でも一応、ここでは先程の通り前者を魔術、後者を魔法と定義しておくね。
あ、ここでだけね。だって基本は区別するの面倒だから、
んで、これは魔道具を作る際にも当てはまったりする。
これについてまた色々と説明を始めると、本気で難しくてしかもグダグダと時間のかかる説明が必要になるから、簡単に私がよく使っている治療魔法に関してだけ言うと、この世界、そして
だから、医療の知識が無い状態で治療魔術を使っても、なかなか有効な結果がでない。
そしてこの世界にはもう一つ怪我や病気を治す奇跡がある。この奇跡を先程の定義に当てはめると後者の治療魔法に該当する事になる訳。
まぁ、後者は更に神に力を借りる形式の魔法だから、これもまた世界によっては色々と区分けされたりするんだろうけど、それは置いておいて。
これを神様の力を借りずに治療魔法として、複雑な治療の過程をすっ飛ばして治療の結果だけを発揮させる術式って奴も作れるし、言ってしまえば
多分、この世界も昔は治療魔術でも問題は無かったのかもね。消費する魔力も魔術の方が少ないから節約できるし。
ただ、何が切欠か分からないけど、段々と治療魔術に関しての知識やら訓練法やらが失伝していったとかかな?
もしかしたらその過程で魔力のコントロールの必要性やらが理解されなくなってきて、段々と術式に無駄が必要になって。
完全に想像だけど、魔法の現状って、そうやってこんなふうに歪になっていったのかもね。
シュリーさんに治療魔法を伝授する場合、術式を自分なりに解析する様になったら、いつかはもっと高位の治療魔法を開発するかもしれない。
その魔法が広まる事になったら、魔力量と制御力がある程度成長した魔法使いなら、だれでも高位の治療魔法を使えるようになるかもしれないわね。それは確かに危険な事だけど。
シュリーさんに才能があるとは言っても、誰の助言も得ずに独力でそこまで到達するには生半可な事では無理だろうし、それでもそれを成し遂げる事が出来たとしたら、もうその後のリスク位は飲み込むべきなのかもしれないわね。
それにシュリーさんが治療魔法と治療魔術の違いに気が付くとも限らないし、気が付いたとしても興味を持って研究を始めるとも限らないから、心配する必要は無いんじゃないかな。
本当にさ、億が一そうなったとしたら
あぁ責任かぁ。リロイさん……。
あ、というかこの世界にまともな避妊法なんて無いだろうし、産めや増やせや滅ばぬ為に、の精神が主流の世界観なのだから、妊娠を避けるって考えすらないだろう。当然昨日ので当たってしまえばおめでとうって事になる訳よね。
話を聞いた限り、彼女たちはまだそれほど蓄えも出来ていないだろうに、いまお子様が出来たらあの人たちどうするつもりなんだろう。
リア充が充実した結果なんだから私が心配してやる必要は無いはずだけど。
……まぁ、仮にせよ正式にせよ弟子を見捨てるのはちょっとねぇ。
仕方ないか。困ったら頼りになる師匠に相談なりなんなりしてくれれば、見捨てるつもりは無いからって、後でそれとなく声を掛けておかなくてはね。
あぁ、いやいや。実際にそうなってからじゃないと、ちょっと話を聞くのも恥ずかしいや。後で考えよう。
熱を帯びたほっぺを手団扇で冷ましてから、作業の続きをする。折角とった作業の時間を丸一日飲んで騒いでしまったのは痛かったけど、まぁ、時間のかかる作業を魔法処理で時短してしまえば、まだまだ時間に余裕はある。
本当なら、去年の年末までには終わらせておこうと思っていた補助具作成の下準備を、少し遅くはなったけど、この4日間で終わらせるべく、朝から作業に集中していたはずなんだけど。
さっき塒を出て行った男女4人組の事が頭から離れなくて、作業が滞って仕方ない。
夜に寝床から抜け出した悪い子達は夜半には真っ赤な顔をして戻ってきて、ベットの中で言葉少なに凄かったとかあんな風になるなんて、とか話し始めたと思ったら、そのまま覗きに行った子達だけでベットの隅によって、毛布にくるまって何やらコソコソやっていた。
あーうん。まぁ、女の子同士だし?こんな世界だからあんまりうるさく言うつもりは無いけど、あんた達程々にね。
彼女たちの名誉の為にも、そこで何が行われていたのかは墓場まで持っていくつもりである。
因みに私も誘われたけど、眠いからといって遠慮させてもらった。
そのせいか、ロナもニカ達も物凄く眠たげだし、シリルに至ってはお昼前迄起きてこなかった。私も正直寝不足気味だし、作業に今一集中できてない自覚はある。
あれから色々考えたけど、補助具に封入する魔術式は、「魔法の灯り」と「
そして迷っていた最後の一つは、私の感覚的にこれぞ魔法使いでしょう?って思えて、魔力のコントロールや魔力量の増加の訓練、術式の制御の訓練にもなる魔法。
「
この魔法なら、発動している間は術を制御し続ける必要があるし、その割にはそれほど難易度は高くない。対象物を細かく制御しようとすればそれなりに難しいけどさ。
そんでさ、立ち上がって物を取るのが面倒だからって感じなムーブで、魔法を使ってドヤれるところもポイント高いじゃん?
そういうイメージから入った方が皆をその気にさせられるだろうし、普段使いできる魔法の方が一人で修行するにも安全に修業できるだろうから。
「
んで、私の魔法使い的ムーブ用品として、ちょっと大き目なクッションを用意する予定だったりするのよ。後で元赤と会えたら、そんなクッションがおいていそうなお店を紹介してもらうつもり。
あー、でも男共に聞くよりも、ルツィーさんや新たな弟子であるシュリーさんに聞いた方がこの手の物に関しては間違いが無いかもしれない。
んで、そのクッションに浮遊の魔法を掛けてその上に座って移動するってどうよ?いかにも魔法使いって感じがするじゃない?
うん、
うんうん、やる気が戻ってきた。集中力が増してきたよ。頭の中からリロイさん達を八割がた追い出せたかな。
補助具の形は、前から考えていた通り、杖の形態で決定。材質は木材を魔法使いの杖らしい見た目に合わせてグネグネボコボコに変形させる。
んで術式はこの前買ってきた宝石を魔宝石化して術式を封入する予定。本当はさ、術式だけを後から交換できるカートリッジ式な魔法の杖を考えてみたのよ。最初の
だから最初はスタッフではなくロッドに近いものになる予定だったんだ。
んで、大体今の手持ちの知識技術でも何とかなりそうだったから、挑戦してみようかなって思っていたけど、予定していたよりも作業時間が確保できなくなっちゃったからさ。
ま、東門の工事はそれだけ緊急性が高いのは理解しているさ。だから文句はないよ。
ちょっとばかり愚痴は出るけどね。
こんなこともあろうかと、杖を作る想定をした時に素材を色々試してみようと考えて、金属も何種類か用意したけど、材木もダンジョンでとれるような霊木やら魔法植物の材木やら色々と注文しておいたのさ。
うん、よくあるトレントとかそういう類のモンスターからとれる素材とかもね。
あと変わった物になると生物の骨を杖にする方法もあるから、それに向きそうな骨をニューラさんに相談して何種類か取り寄せてもらった。
ニューラさんには品物の代金はもちろんの事、協力してくれたお礼として私が作った品物を幾つかお店に卸す約束をしている。
だから、仕入れた素材は結局は全部試してみる予定なんだけどね。弟子共に渡すのは一番、はずれが無い上に扱いやすいであろう、木の杖を最初に渡すんだ。
皆、木で出来た杖を見てがっかりするかな?それとも魔法使いっぽいって喜んでくれるかな?
初めて魔法を自分で使ってみて、どんな感じで喜んでくれるだろう。
うんうん、どんどん作業に集中出来てきている。もうリロイさん達の事を9割心から追い出せている!と思い込めている。
そんなこんなを頭の中でグルグルさせながら、その日予定していた作業を何とか時間までには終わらせる事が出来たよ。
途中、シリルやロナがご飯だよって連れ出してくれなかったら、もう少し作業が進んだかもしれないけど、まだ顔が赤かったりドギマギしているシリル達を見ていると何だか笑えてきたから、もういいや。
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