高位魔法の反動 ばたんきゅーの後のお話
まだ未熟な状態で高位の治療魔法を無理に行使した代償は軽くない。本来の消費魔力にとどまらず、残存魔力の殆どと生命力の7割を消費してその反動で、
あの後は大変だった。
瀕死の重傷から立ち直ったケリーは、目の前でぶっ倒れた
最初はケリーが一人で騒いでて、監督官は茫然としていて、周りのみんなはケリーに起きた現象についていけなかった。が正解かな。
ケリーの代わりに私が死んじゃったと思って泣いちゃった子もいたみたい。
私を抱きかかえたまま、自分に起きた現象を理解できずに混乱をしていたケリーに変わって、ニクリが私を他の女の子と一緒に抱きかかえて、監督官が常駐するために建てられた管理小屋に私を運んでくれる。
ケリーを落ち着かせるようにシナージが話しかけているけど、シナージ自身も何が起きたのかわかっていないから、訳の分からないことをケリーに話してた。ただ、流石なのは、もう必要なくなった太腿を縛っていた獲物袋でつくった止血帯をさりげなく外してくれた事。
まぁ、締め上げたままにしておくことはないと思うけど、あのままじゃ鬱血して足が壊死しちゃうかもしれないもんね。
「まさか、奇跡だ。エリー、君は一体何者なんだ。君の年齢で魔法を、しかも見るからに高位の治療魔法を行使できるなんて、ありえない。
そんな話、神話でも聞いたことがない。」
そんな、危ないけど悪人じゃないかもしれないおにーさんの呟きに、ようやく落ち着いたケリーが答える。
「治療魔法って、エリー、魔法が使えたのか!?」
「あぁ、君の今の現状がそれを証明しているだろ?」
自分の現状を再度確かめるように、自分の左太腿を手でなぞるケリー。それを見てようやく何が起こったのかを理解したシナージが監督官に話しかける。
ちょうどその頃私は管理小屋のベッドの上に寝かされたわけだけど、
「神様の奇跡って奴じゃないのか?魔法って確か習得するのに時間がかかるし、使える奴もすげぇ少ないって聞いたぜ。
奇跡なら神殿で毎日修行して神様に祈っていれば、使える奴もそこそこいるし、奇跡って治療の効果を持つやつが多いんだろう?」
「いや、さっきのは間違いなく魔法だよ。高位魔法発動の時の特徴がいくつか現れていたしね。明らかに奇跡とは発動の仕方が違った。
それに奇跡は神様の力を体に蓄えて行う御業なんだ。よほど大規模な奇跡を発動しない限り身体に負担はないと聞く。
でも、彼女は治療の反動で気を失ってしまった。多分、まだそんなにうまく使えない高度な治療魔法を強引に発動したせいだと思う。」
監督官の言葉に驚いた顔をするケリー。
「それって、大丈夫なのかよ。反動でぶっ倒れるなんて、やばくないのかよ。」
「大丈夫じゃない。危険だよ。魔法の反動で命を落した魔法使いの話はいくらでもある。
あぁ、僕の愛しのエリー。仲間思いなのは素晴らしい事だけれど、もっと自分を大切にしてほしい。
ケリーを助けてくれたのはうれしい。だけど、それで君が死んでしまったら、僕も、皆も、そしてケリー自身も悲しむんだよ。」
誰がお前のエリーか。お前は確かに悪者じゃないかもしれないけど、それでもロリコン野郎は殲滅対象だ。
「命を落とすって。マジかよ。俺のせいで仲間を死なせちまう所だったのかよ。しかも人類種の貴重な戦力になるかもしれない魔法使いを。
そんな価値、俺にあるわけないのに。」
いや、ちゃんと生き残れる自信があったから魔法を使ったんだよ。直前までお腹いっぱいになるまで力を吸収していたし、器も少しだけど大きくなったから。
魔法行使の反動で死ぬ可能性はほぼゼロだったし、万が一死んでも
「その言葉は、彼女の選択に対しての侮辱になりかねない。彼女が命を懸けて救った君の命を、君は軽んずるべきではないと、僕は思うよ。
僕のエリーにその言葉を伝えてはいけない。」
だから私はお前のものではない。この変態、性癖と思い込みが激しい事以外は結構まともなんだね。だからと言って相手にするつもりは絶対に無いけど。
黙り込んでしまったケリーの代わりにシナージが言葉を続ける。その間に仲間たちの半分は、私が心配みたいで管理小屋に集まってきている。
「おい、
あと迫るのも禁止な。お前にはもうお相手がいるだろ。エリーはそんなお前の態度をすごく嫌がっていたぜ。
一応忠告だ、あんまりしつこいと嫌われると思う。」
え?監督官の名前もケリーっていうの?分かりにくいしややこしいから、今後も本名じゃなくて監督官って呼ぶ事になりそうね。
「彼女が僕を倦厭しているのは、別に他の女性と付き合っている事が原因じゃないよ。ここ数週間様子を見ていたけど、おそらく彼女は、自分と同じくらいの年齢の女性が男性と関係を持つことを嫌悪しているように見える。
原因は、彼女の受付を担当したルツィーの見立てだと、性奉仕の指名依頼が怪しいみたいだね。だけど決して婚姻の神ベルトゥーラ様の熱心な信者と言う訳じゃないと思うよ。」
う、このロリコン、意外と観察しているじゃない。色ボケしているのかとも思っていたけど、馬鹿にしたもんじゃないわね。あとおねーさんの名前ルツィーっていうんだ。覚えとこっと。
「え、そんなこと言ったら男の人なんか結婚なんてできないじゃない。」
監督官の言葉にシナージの側に居た女の子が驚いて言葉を漏らす。
「そんな事あるのか?エリーって11才だろ。女は冒険者にでもなるんじゃなければ大体成人前には子供1~2人産むのが普通じゃねぇのか?その冒険者だって成人前に一人くらいは産んでおこうって考える奴、結構多いって先輩から聞いた覚えがあるぞ。
それに男が結婚できるようになるのが、稼ぎが安定する20歳半ばから30歳以上だろ?同じくらいの年の女なんかもうみんな結婚してるか何回か再婚してるまであるぜ。未婚の女なんか10~3歳位の子しかいないじゃないか。成人するのを待っていたら、他の男に先にとられて一生一人もんになっちまう。
男が惚れた女をモノにしようと思ったら成人なんか待っちゃいられない。」
「あぁ、冒険者は戦闘力が高い若いうちに鍛えて稼いで、まだ余力のあるうちにリタイヤして結婚するってパターンが理想形だからね。
たしかに死ぬ可能性も高いから、血を残したくて財産持ちの余裕のある男性と、成人前に関係を持って産んだ子供を男に託して正式登録する女性もそれなりにいる。
ただ、中央部の安全圏内で暮らす国の人たちや、壁内で暮らす女性たちは大体成人してから結婚するのが一般的だし、それで十分血を残せるからね。僕らの様な外暮らしの野蛮人とは違うのさ。
エリーもそういう考え方なのかもしれないよ。」
それは知らなかった。て事はこれから出会うだろう先輩女性冒険者って経産婦がいてもおかしくないかもしれないわね。ってか私は外暮らしとたいして変わらない状況だったけど?11歳で妾に出されそうになってたし。だから反発したのもあるんだけど。
「あぁ?それが解っていて何で無理目に迫るんだよ。」
「君が言ったろ。男が惚れた女をモノにしようと思ったら、待っていてはダメなんだよ。僕は稼げるだけ稼いで、沢山のお嫁さんをもらって大家族を作るのが夢なんだ。
と、もう話はここまでにしようか。
ケリー、君はエリーと一緒に管理小屋で身体を休めておくんだ。
おそらくエリーが使った魔法はかなり高位の治療魔法だろうから、行動するのに支障は無いだろうけど、推測で無理をして状況を悪化させたら命を懸けて助けてくれたエリーに申し訳ないだろう?
少なくとも魔法を使ったエリーか治療魔法に詳しいものの許可が出るまでは安静にしていてくれ。
後、シナージ、悪いけど南支部に行って支部長と他に数人、人手を呼んでもらってもいいかい?重要な案件でケリーが呼んでいると伝えてくれ。あぁ、監督官のケリーが、ね。僕は気を失ったエリーをこの場において動くわけにはいかない。
若い女の子の、優秀な魔法使いが無防備に気を失ったまま、周りに守れるものが誰も居ないというのは好ましい状況じゃないからね。
それにケリーがいれば彼女を僕から守れるだろう?」
流石に腐っても監督官なんだね。
そっか。世の中にロリコンが多いのは、世の中の事情ってわけかい。そりゃぁ皆行き急ぐかのように、15歳までに結婚したり子供産んでりゃ、結婚適齢期の男性が結婚できる相手はその位の年齢になっちゃうかな。
前線都市壁外で暮らすものが壁内の女性や中央の女性と結婚できるなんて話は、劇場で上演されるラブストーリー並みに現実性の無いお話だしね。
ん~……私が撲滅すべきロリコンは、この人類社会の現状を打破しない限り延々と湧き出てくるって事なのね。社会状況がそれを求めるのなら、それは少なくともコンプレックスじゃないわけで、ロリコンじゃないって事なんだろうけど。
やっぱり私には受け入れられんわ。
決めた。今世の私の目標はこの状況を打破し、人類種にゆとりをもたらす。そして社会を成熟させて、少なくとも男女ともに人生の選択肢を増やせるようにしよう。せめて私の目の届く範囲は、ね。
魂よりも脳の影響を強く受けてしまう
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