弟子取りに思う

 この世界で魔法使いが貴重なのは、魔法を使う才能が無い人が多いから。そして魔法を使う為に必要な物は魔力そのものと魔力をコントロールする、つまり使えるようになる事。あとは術を処理するためのおつむの出来とか色々あるけどさ、最低限、魔力が発動に必要な規定以上あれば、他はやり様によっては何とか出来るのよ。


 魔力のコントロールや術の処理何かは魔道具で代用しようと思えば出来るし、自前の頭で処理する情報量を極端に減らせれば、曲がりなりにも魔法が使えるものはぐっと増える。ここに発動に必要な魔力迄他から持ってくるとなると完全に魔道具を使っているだけになるわね。


 ま、魔道具って言っても世界間で色々な定義があるし、この世界だけに限っても色々面倒くさい定義があったり、私の常識と違っていたり、そもそも魔道具を作るのに特殊な才能が必要って時点で、色々と疑問符がつくのだけれども、ま、世界毎の常識、価値観があるからその点には触れないでおく。



 個人的に、端末わたしが大好きだった作品のように魔力と気が反発する世界が、ほとんど存在しないって事がすごくショックだった辺りから、その辺に文句をつける事をやめたって記録が分霊わたしの頭の片隅にあるけど。




 ただ、問題点はこの世界の魔法の術式にもある。魔法、魔術を発動させるために必要な最低限の魔力量が一々大きすぎるのだ。


 だからこの世界で作られた術式を使って魔法を使うのであれば、必要最低限の魔力を確保できる者=才能の有る者という図式が成り立つ。



 もちろん、その者の成長に伴って魔力量も成長するのだけれども、魔力を全く使わなければ、成長もほとんどしなくなる。そもそも魔法を使う以外の魔力の育成方法がこの世界には無い、みたいなのだ。そしてこの世界の魔道具はほぼ全て、使用者の魔力の有無に殆ど関係なく発動する、魔力タンク付きの物が主流である。


 中には、使用者が日々発散する魔力を吸収して、魔石などに貯蔵し、発動時にその魔力を使用するってタイプもあるみたいだけど、その場合はいくら使用しても魔力が鍛えられることはほとんどない。




 つまり、この世界で魔法使いになりたければ、生まれつきの素の才能で最低限、魔法を一回発動させることのできる魔力量を持っている者でなければならない。そんなにハードルが高くなれば当然、魔法使いの数なんて増える訳無いんだよね。



 さて、ここまで長い前置きをしたからには、多分察しが付くとは思うけど……。


 一応、アリヤさんや後家さんご家族を含めた塒組の面々で、素で魔法使いの才能を持っていた人員は、シリル、ルーイ、イリエの我が兄妹を除けば、3人もいた。この数だけでも驚きなんだけどね。100人に満たない人の集まりの中で、私の兄妹を除いて三人も魔法使いの卵が居た事に、何やら運命らしきものを感じるよ。


 ただ、一人は……ちょっと今からじゃ大成するのは難しいと思うけどさ。本人の希望があるから仕方ないよね。




 けどさ、この世界の常識では無い、私が引く最低限のラインに達している魔法使い候補者の数はそれの比じゃない。なんと驚く事に、ほぼ全員が合格ラインに達していたのである。ま、例え魔力量が0で、他の才能も全くない者にだって、私がその気になれば魔法使いに出来なくもないのだけれども。


 人体も、魂も、以前の分霊わたしなら改造は得意だったんだよ?



 ま、それを言ってしまったら元も子もないから、それは置いておいても、全く本当に、悩ましい事態だよね。




 シリルが一歩を踏み出した翌日、本来なら予定していた職人仕事の日を丸々使って、塒組の才能チェックと、必要な物の買い出しをしていたんだけど、どこまで魔法を教えるかですごく悩んだ。



 別にケチだったり面倒くさいからって理由で、全員に教えるという選択肢を捨てたわけじゃないんだよね。私が教える魔法の術式、っていうか方式が世間に広まれば、確かに魔法使いの数は増えるけどさ、それは秩序側だけじゃなく、そう遠くない将来混沌側にも漏れるんだよね。



 そうなると両陣営が今まで以上に激しい激突を繰り広げる事になる。端末・分霊・個体こじん的には、そうなれば美味しいしお腹いっぱいになるしで、嬉しくはあるんだけど、私の身の回りの人達がそのせいで不幸になるのはハーフハーフだ。つまり半分美味しくて、半分悲しい。多分、自分の中で混乱して絶望しちゃうかもしれない。


 自分の邪悪な部分に。



 明らかにこの世界での魔法の才能が無い人間まで、私の元で魔法使いになれば、確実に注目されるし、弟子に外部への術式漏洩を厳しく戒めたところで、国や秩序側の神が動けば、何処までも秘匿できるはずもない。


 一度外に漏れてしまえば、後は際限なく広まってこの世界の魔法の主流は私がもたらす術式一色になってしまうだろう。



 結局、私の兄妹三人分と素で才能があったロナ、今年の夏からの新人さん、ザジ、そして遅れて咲く大輪のバラ、と言って良いのかまさかのアリヤさん。この6人とギリギリ才能ありと誤魔化しが効くかもしれないケリーの7人分の用具を用意する事にした。


 ケリーさ、一応リーダーさんだったから、今まで頑張った分のご褒美があっても良いでしょう?


 後の子達はもう少し様子見かな。今はダメでも成長したら将来、魔法使いになれるかもしれないから頑張って、とは伝えてある。


 一応、嘘じゃないよ。私の作る予定の魔道具で魔力を使い続ければ、何人かはそれほど時間を掛けなくても、この世界基準での魔法使いの卵ぐらいならなれそうな子もいるから。



 たださ、何処まで教えるか、なんだよね。前にも似たような事で悩んだけど、たった一人でも教えてしまえば、後は漏れる事を覚悟すべきだし。


 前に悩んだ時は、教えるのではなく術式をブラックボックス化して魂に焼き付ける方法を取るべきかなって結論が出たんだっけか。



 弟子内定者の7人には、教える内容も色々と決めて行かなきゃいけないからしばらく時間が欲しいと伝えてあるけど、出来ればこの冬ごもりの間にある程度は仕上げてあげたい。精神的に追い詰めて成長を促すタイプの師匠じゃないからね、私は。


 魔法使いになれたんだ!って思える達成イベントを用意してあげたいんだよね。最初の一歩は成功体験を用意してあげる。


 2歩目、3歩目から少しづつ厳しくなっていって、最終的には自分の足で山を登れるように誘導してあげる方がかけた苦労も無駄にならないし、良いと思うんだけど、甘すぎるかな?



 甘えん坊を作るだけになる?そんなんじゃ真のツワモノは生まれない?そうは言うけどさ、別にそんなツワモノを求めている訳じゃないし、言ってみれば私の役目は間口を広くとった初心者の門みたいなものだと思ってくれれば、ね。


 そこから先、自分が本当にツワモノになりたいのであれば、英雄に成りたいのであれば、自分でその道を探して選び、進んでいけばいいんだから。



 んで、個体わたしは永遠の師匠兼ライバルとして、皆の前に君臨するって良くない?ってそんなシチュ萌えを語っていたら時間がいくらあっても足りないわね。




 幾ら冬が長いとはいえ、流石に半年は無いわけで。と、なると、全部自前で魔法を使えるようになるにはちょっと時間が足りない。自転車の補助輪と同じような魔道具を作ってあげるべきかな。




 患者さんの治療を午前中に終えて、元赤と一緒にお茶とお茶菓子をいただきながら思案に明け暮れる。



 「今日は、ずっと考え事をしているのだな。何かあったのかな。」



 ほとんど毎日顔を合わせている元赤とは言え、この前の弟子入り騒動に関しては、原因が原因なだけに誰も情報を漏らしていないはずだ。


 気軽に機密を漏らしてしまう、ちょっとお馬鹿な塒組の子供達でも、いくら何でも自分たちにとってのリアルである仲間の色恋沙汰に関しては、けっこう口が堅い。仲間内ではそれを肴に、皆とワイワイお喋りするのだろうけど、流石に色恋のお相手に無分別に情報を漏らすような事は無い様だ。


 自分の話も仲間内に漏れているのだから、自分が漏らせば当然報復されるしね。何て美しい友情なんだろう。まるで平成・令和時代の相互確証破壊をおもわせてくれる。人間は、何時の時代、どの世界でも似たり寄ったりという良い見本である。



 「ん、ちょっとね。」



 心配げな顔で珍しくローブを脱いで、晒しっぱなしになっている私の表情を見つめる元赤に、適当な返事を返して、一口お茶を飲み込んだ。

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