第85話 仲直り(?)
歩に、予告もせず電話をかける。
『もしもーし。どしたの真奈美ちゃん?』
「家行っていい?」
『え、さっき別れたばっかじゃん』
「また会いたくなった」
『これから大輔来るから、ごめんね』
「そっちキャンセルで」
『えー……? 何、いきなり』
「いっそ和泉くん同席でもいいや。ちょっとそっちにも用あるから」
『じゃ、ちょっとだけだよー……?』
私は、トランクだけを置いて家を出た。
家の鍵を閉めるとき、ホルダーについている慎吾の家の鍵を見て、涙が出そうになった。
歩の家に上がると、既に和泉くんはいた。
あのゲームを貸した元凶の胸ぐらを掴んでやりたい気持ちもあったが、歩の手前思いとどまった。
「和泉くん、慎吾にゲーム貸したでしょ」
「……はい」
私のただならぬ雰囲気を察したのか、和泉くんは素直に答えた。
ここで嘘をつくようであれば、今しがた思いとどまったのをやめにしていたところだった。
「どういうつもり」
「いや、その、櫻木さんにもどうかなと思って」
「なになに、私置いてけぼりなんだけど、どういうこと?」
「そこの男が、私の彼氏にエッチなゲーム貸しつけたのよ」
「えっ……」
歩が「信じられない」といった表情で和泉くんを見た。
「どれ貸したの?」
「……あの温泉旅館のやつ。西野っぽい女の子いたから、寂しさ紛れるかなって」
「それはダメだよ。私と真奈美ちゃんは違うんだから」
「西野、ごめん! 俺が全部悪い。俺が無理やり押し付けたんだ」
「……でも」
「真奈美ちゃん。今回は私の顔に免じて、櫻木さんと大輔を許してあげてくれないかな。大輔には私からキツく言っておく。だから、真奈美ちゃんは櫻木さんとちゃんと話すべきだと思う。多分、真奈美ちゃんがこのまま離れていっちゃったら、櫻木さんおかしくなっちゃうと思うから」
「……わかった。話、してくる」
「本当に申し訳なかった。ごめん」
「歩もこう言ってるし、今回は許してあげる。次やったら許さないから」
「わかった。二度としない」
私は、慎吾の部屋に戻ることにした。
多分、和泉くんはすっからかんになるまで搾り取られるのだろう。
うらやましいやつめ。
慎吾に合鍵で入ると、部屋の中は真っ暗だった。
パソコンからの光もなく、ただ暗闇があるだけ。
部屋の電気をつけると、ベッドの上で三角座りをしている慎吾がいた。
幽霊みたいで少し声が出そうになったけど、黙って慎吾のそばに座る。
「慎吾」
「まな、み……?」
「あ、よかった。生きてた」
「真奈美……俺……」
「はいストップ。何を言えばいいか、わかる?」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。真奈美のことなんて何も考えずにこんなことしてしまって、ごめんなさい」
「うん、よろしい。私もあんなこと言って、ごめんなさい」
「だって、そもそも真奈美のことなんか考えずに釣りなんか行って」
「それは月島くんの希望でしょ? しょうがないよ」
「でも、真奈美がいなくなって、俺」
「もー、3日くらいで我慢できなくなるんじゃないっての。そんなに私が恋しかったか」
「俺もたかが3日だって軽く考えてた。でも、さっき真奈美に拒絶されて、また去年みたいになるのかって思うと、どうしようって思って、なんで俺こんなことしたんだろうって」
確かに、元凶は慎吾だ。
いくら私に似ているからって、エッチなゲームなんかやって。
抜いてないって言ってたし、嘘もついていないっぽいから、本当なんだろうな。
何ギリギリになって我に返ってんだか。
けれど、慎吾にこんなひどい顔をさせたのは、私だ。
さっき私が「離れて」といった顔は、高校の卒業式の日に私が別れを切り出した時の顔と同じだった。
慎吾は、こんな顔して去年1年間を過ごしていたのか。
私、「もう離れない」って言ったのに。
慎吾にこんな顔させないって誓ったのに。
「……慎吾。たかだか3日我慢できなかったのは、実は私もなんだよ」
「……えっ」
「1時間帰るの早めたって言ったでしょ? 会いたくてしょうがなかったんだもん。慎吾は絵にすら欲情してたし、私は絵にすら嫉妬してるんだと思うと、なんかバカみたいだなって」
「あの、あれを絵って言うのはちょっと……ちゃんとすごいストーリーが練られてるし、それは失礼っていうか……」
「なに、そんなによかったの?」
「号泣しました……」
「うっそお。慎吾が?」
「……一緒にやる?」
「キツい」
「いや、ほんとによかったんだって。まだエンディング見てないけど」
「エンディング、見たいの?」
慎吾は、押し黙った。
多分、私が「二度とプレイするな」と言えば、しないつもりだろう。
けど、本心では最後まで見たいはずだ。
「しょーがないな。いいよ、最後までやって。でもゲームクリアしたら二度とやらないこと」
「……ありがとう。あの子のルート終わったら、二度としない」
「ルート?」
「何人かヒロインがいて、今あの子と付き合うルートやってるんだよ。あと5人いて……」
「5人!? ……ねえ、そのゲームって、今の子含めて6人全員終わらせないとクリアにならないの?」
「はい……」
私は、頭を抱えた。
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