第44話 宴の後

「う゛っ」

「な゛に゛、こ゛れ゛ぇ」


喫煙所から帰ってきた俺と真奈美が、ウタと七瀬が作ったスペシャルミックスの犠牲になって全員の爆笑を誘った。


「傑作、傑作。サクだけに」

「おもんねえし、何混ぜたらこんな味になんだよ……」

「全部入れました。一度に味わえてお得ですね」

「凛音ってもしかしてバカなの? バカ瀬凛音?」

「おー? 喧嘩か真奈美?」

「やってやろうじゃん。表出なよ」


お互い口元が半笑いなので、じゃれあいの域だとはわかるが、一応止めなければならない。

主犯はどうせウタなのだろうから。


「まあまあ真奈美、七瀬もウタに命令されただけだろうからさ」

「いえ、私が宇多田さんに提案しました」

「よし真奈美、好きなだけやっちまえ」


「大人気ない……」という声がバッシーの隣から聞こえてきた気もするのだが、耳に入っていないフリをした。


「まあまあ、十分イチャつけたからいいだろ」

「いや、足りんが」

「……サクってそんなキャラだったか?」

「我慢するの、やめただけだよ」

「俺史上最高にサクがキモい」


そんなに変なことを言っているつもりはないのだが、何故かボロカスに言われてしまった。






しばらくカラオケを楽しんでから、日付が変わる前に解散の流れとなった。

元から徹カラ予定ではなかったし、早く帰ってシャワーだけでも浴びたかったので、丁度良かった。

着替えを取りに一旦帰った真奈美が来るまでに、部屋の片付け・ベッドメイク・入浴を済ませる。




ふと、ここで俺の脳内に1つのプランが浮上した。

先に寝ておこう。いや、実際は寝たフリだが。



合鍵を渡しあってからは、事前にLINEするだけで、チャイムを鳴らさずにお互いの家に入るようになった。

今日も真奈美は合鍵で勝手に入ってくるに違いない。

俺の出迎えを期待したら、真っ暗な部屋で先に俺がスヤスヤと寝ているという状態になる。

カラオケ屋の喫煙所での真奈美の意思表示に対し、俺は躱し手で対抗してみることにした。

真奈美の次の手を楽しみに、電気を消してベッドに潜る。



「……あれ? 慎吾、いないのー?」


しばらくすると、玄関の方から真奈美の声がした。


「真っ暗じゃん……あれ、豆電球?」


部屋の電気のスイッチをパチパチやっているようだが、俺が枕の下に隠したリモコンで、スイッチを入れても豆電球にしかならないようにしてある。


「……は? 寝てる……」


俺が寝ていることに気づいたようだ。


「……ふーん……」


真奈美は、俺から掛け布団を引っぺがす。

俺は、寝たフリを続ける。





「よいしょ」






真奈美が、俺のズボンを一気にずり下ろした。


待て、ちょっとこれはまずい。

起きよう。



「んぁ……は!?」

「お、慎吾、起きた?」

「え、これなに、どういう状況?」

「寝たいんでしょ? 寝てていいよ。彼女が泊まりに来るっていうのに、先に寝ちゃう男だもんね。彼女より睡眠が大事な男の睡眠を邪魔することなんてできないよ。おやすみなさい。私は勝手にこっちで楽しんでおくから」


暗がりの中で見えづらいが、確実に目が笑っていないことだけはわかる。

その目で俺を見下ろしつつ、こんな状態でもきっちりピンと張ったテントを指で弾いた。


「っあ」

「ふふっ♪」

「勝手に寝た俺が悪かった! ほんとごめん!」

「寝ててもこっちは関係ないもんねー」


テントへの打撃が加えられるたび、俺は情けなく声を上げる。

そんな俺を見る真奈美の目は、次第に愉悦が混じったものへと変化していった。




翌朝、真奈美に土下座された。

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