第43話-d 宇多田と七瀬

「……イチャついてんなあ」

「そうですね」


どう考えても不正抽選により隣同士になった上に、後輩や同期を置き去りに恋人繋ぎで部屋を出ていった櫻木慎吾と西野真奈美を見送り、宇多田翔吾と七瀬凛音はため息をつく。

残った面々も、隣同士でいい感じに会話している様子であり、もしかして自分たち以外も不正抽選によって仕組まれて隣同士になっているのではないかと疑うほどだ。


「七瀬、思ったんだけどさ」

「はい、なんでしょう」

「俺ら、余り物じゃね?」

「奇遇ですね。私も同じこと考えてました」

「このノリだと、サクと西野って俺らのことまでくっつけようとしてない?」

「それはないと思います。真奈美は、私が堀のこと好きなの知ってますし。あ、堀っていうのは別サークルの経済の1回です」

「サクも、俺がバイト先の先輩といい感じなの前に言ったの忘れてないはずなんだよな……」

「じゃあ、やっぱり余り物じゃないですか、私たち」

「ふざけてんな」


ぐいとドリンクを飲み干した宇多田翔吾は、自分を余り物にした友人への仕返しを企むのであった。

一方で七瀬凛音は、別に余り物同士でもいいと思っていた。

隣の先輩は自分と同じ経済学部だから最低限の話題はあるし、元々の女子4人の予定でも、自分が最後に誘われたであろうことはなんとなく察していた。

だからといって自分を数合わせ扱いした西野真奈美のことが嫌いになるかというとそうではなく、むしろ「真奈美のためなら、そういう役割は引き受けていい」と思える程度の信頼感を、七瀬凛音は西野真奈美に対して持っていた。

立場が逆なら、自分も彼女を数合わせ要員として召喚していたと思う。とはいえ、何か一言欲しかったとも思う。

――ちょっとくらいのイタズラくらい、してやってもバチは当たらないか。


「宇多田さん、ドリンクバー行くならご一緒しますよ」

「いいよ、こういうのは先輩に任せとけって」

「いえ、ついでに真奈美と櫻木さんのドリンクにちょっと仕込んでやろうかと思いまして」

「それは天才。そういやそろそろ中間あるよな。過去問やるわ。西野には絶対にやらねえ」

「いいですね。今度こっそりお願いします」



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