第45話 Birthday Booyaka
6月19日。
開店1時間前、俺と和泉は既に『FOREST』に来ていた。
普段はここまで早く来なくてもいいのだが、今日だけは特別。
和泉大輔、19歳の誕生日。
幹生さんと花音さんが、誕生日にバイトという悲しき目に遭っている和泉にケーキを用意してくれて、ささやかながら開店前に誕生日パーティーをすることになった。
「祝ってくださると思いませんでした。誕生日いつかも櫻木さんにすら言ってなかったのに」
「履歴書に書いてたからねー」
「それ、わりかしグレーゾーンの行為ですよ」
「和泉くんがハッピーになれてるのでセーフなのだよ、わかってないなあ櫻木くんは。ね、和泉くん?」
「いやあ、あはは……」
「和泉がこの状況でなんか言えるわけないでしょ。さっさとプレゼント渡しましょうや」
「はいはい、それもそうだね。じゃあまず私達から。共同でごめんだけど、ネクタイ。ちょっと高めだから許してちょうだいな」
「一応制服のはレンタルって形だからね。ちゃんと自分のネクタイ1本は持っておいた方がいいさ」
「ありがとうございます。早速、今日着けさせていただきます」
開店前にもかかわらず律儀にネクタイをきっちり締めていた和泉は、少し手こずりながらもプレゼントのネクタイに結び替える。
「うん、似合ってる」
「いやー、また女の子のお客さん増えちゃうね、こりゃ」
プレゼントが似合って満足したのか、幹生さんと花音さんはウンウンと頷いている。
さて、俺もプレゼントを渡して身につけて貰いたいところではあるのだが、そうはいかない。
「はい、これ俺から。財布だから、後で開けてくれ」
「ありがとうございます。確かに、ポケット入れとくわけにはいかないですね。あがった後にまた見させていただきますね」
プレゼント譲渡が終わり、ケーキもそれぞれが食べ終わったところで、開店準備に入る。
なんだかんだでうだうだと話し込んでしまった結果、もう開店5分前になっていた。
慌てて俺たちが取り掛かろうとすると、既に幹生さんと花音さんが全て終えてくれていたとのこと。
なんだかんだで、従業員への気遣いを忘れない理想の雇用主だと思う。
「さ、じゃあ今日もよろしくね」
「「はい」」
ちょっと特別な時間から切り替えて、普段と変わらない気持ちで臨む。
隣の和泉は開店までちょくちょくネクタイを触っていたが、あまり行儀が良くないと幹生さんにたしなめられてしまった。
ドアが開き、本日1番目のお客様――
「あ、どうも。来ちゃいました」
――そこにいたのは、『FOREST』では約1ヶ月ぶりに見る、広橋歩だった。
「来てくれたんだ」
「和泉くん、誕生日おめでとう」
どうやら、和泉は俺の知らぬ間に広橋を誘っていたらしい。
「はい、プレゼント」
「ありがとう。開けてもいい?」
「うん」
横目で覗き込むと、広橋からのプレゼントはネックレスだった。
「これ、高かったんじゃないの」
「ううん。ワックスの方が高いレベル。安くてごめんね」
「全然。嬉しい」
和泉は幹生さんに許可を取ると、早速そのネックレスをつけた。
俺が言うのもなんだが、似合っている。
「うん、似合ってるよ」
「ありがとう」
「こないだの、またお願いしていい?」
「かしこまりました」
2人の空間を邪魔しても悪いので、俺はバックヤードに下がる。
どうせ、しばらく客は来ない。
「櫻木くん」
「なんですか」
「青春だねえ」
「そうですね。でも、覗き見は趣味悪いですよ」
「それはお互い様じゃないかな」
「花音さんと違って、俺は堂々見てましたから」
「屁理屈っていうんだよ、そういうの」
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