【本編完結済】高校時代付き合っていた同級生の元カノが、浪人して大学の後輩になりました

二条

本編

第1話 再会

「お久しぶりです、♪」


どうして、こうなった――







時は遡ること、1時間半前。

新歓にうってつけの場所である、図書館横広場の場所取りの徹夜組からバトンを引き継いでから、はや5時間。

既に正午になっており、新歓BBQまであと1時間。

ちらほらとサークルの主要メンバーである3回生の先輩方が見え始めたところで、許可をもらい同回生の友人2人とキャンパス内の喫煙所に向かった。


「で、サク。どうよ墨キャンは」

「マジでなんもねえ。最初からあっち住めばよかった説」

「そうなるとこっち来るの面倒よな」

「そうなんよ、工学部辞めときゃよかったわマジで。ウタとバッシーが羨ましいわ」


「サク」と呼ばれた俺――櫻木さくらぎ慎吾しんごは、ここ中岡大学の2回生である。

中岡大学は理系の名門大であり、理学部・工学部・薬学部・医学部は、2回生から墨田すみだキャンパス――通称・すみキャン――にて専門の講義を受ける。

とはいえ、大学の本部やサークルの活動拠点は基本的に俺たちが今立っている清内きようちキャンパス――通称・きよキャン――にあり、特に深く考えずに清キャンから徒歩10分の家を借りた俺は、酷く後悔をしている次第である。

俺が「ウタ」と「バッシー」と呼んだ2人、宇多田うただ翔吾しょうご石橋いしばしつよしは、卒業まで清内で過ごすことのできる文系組だ。


「まあ、あっち住んでたら休みに遊ぶ所すらないだろうし、いいんじゃないの」

「一回あっちの周り回ったけど、パチ屋と雀荘しかねえわ」

「こっちにもあるもんな、それくらい。再履バス使ってんの?」

「いや、原チャ」


清内キャンパスと墨田キャンパスは、30分ごとに大学側が無償で載せてくれるキャンパス間移動バスにて行き来できる。

だいたい15分程度で往復するのだが、これがめちゃくちゃ混む。奴隷船という蔑称がつけられるほどだ。

また、1回生の頃に清キャンで単位を落とした理系組がこちらに単位を回収するために使われることも多いため、「再履バス」という通称が使われている。

先程述べた通り、再履バスは激混みのため、燃料代や維持費はかかるが、原付を購入して墨田まで通うことにしている。


「まあ、新入生に愚痴らんようにな」

「わーってるよ。もう一本吸っていいか」

「俺も吸うわ。しっかし、二十歳になってすぐからこんなヘビースモーカーなってて大丈夫かね」

「去年から副流煙吸い込みまくってたしもうどうしようもねえだろ」


バスケサークルで知り合った俺達3人は、誕生日が4月第1週目にあることで意気投合。

「え、それくらいで?」と思うかもしれないが、新しく友達が出来て、「そういえば誕生日っていつなの?」というくだりで、「もう過ぎてたんだ、ごめんね」となるあの感じを分かち合えるというのは、それだけで嬉しいものなのだ。

趣味も近く、一緒に麻雀をやるようになってからは近くの雀荘に入り浸り、2回生になってすぐに3人とも酒と煙草をやり始める始末。

サークル仲間からは、「いい奴だけど、クズの3人組」という評価を受けている。


「よし、そろそろ戻るか」


最後まで吸っていたバッシーが灰皿に吸い殻を落としたところで、ウタが声をかける。

喫煙所の外に出ると、ウタはショルダーバッグから消臭スプレーを取り出して、俺達にかける。それが終わると、ウタからスプレーを受け取り、かけ返す。


「うい、サンキュー」

「新歓でヤニの匂いは色々まずいもんな」

「つってもニオうことはニオいそうだけどな」

「最初は肉焼き係して、煙浴びまくれば上書きされんじゃね?」

「アリ。それだわ」


よく考えれば、余計に臭くなるのではないだろうか。とはいえ、春休みで生活リズムが狂いきった中で早起きした俺達に、そんなことを考える頭はもう無かった。まあ、いざとなりゃこの上着脱げばいいだろ。



新歓が始まると、肉配給係として俺達3人はひたすら肉を焼き続けた。

この係の良いところは、こっそり自分達用に多めに肉を確保できることであるが、同回生や先輩が不正をしないようちょくちょく見回りにくる。

「そんなに俺達の信用はないのか」と聞くと、「あると思う?」と返されてしまった。ちくしょう。講義はサボるけど、練習も試合も合宿も皆勤だぞ俺は。

……確かに、去年の夏のBBQで俺達3人が肉焼き係でちょっと値段の張る肉をちょろまかしたのは事実なんだけど。


30分ほどして、「そろそろ交代するよ」と先輩方が肉焼き係交代を申し出た。「別に代わらなくてもいい」とは言ったが、「お前らも新入生と喋れコミュ障ども」と一喝されてしまった。

仕方なく先輩方の座っていたテーブルに付き、新入生に挨拶する。

互いに自己紹介を済ませて、「じゃあ改めて乾杯」とジュースやビールの缶を合わせた時、隣のテーブルからチューハイを持った手が伸びてきた。

先輩かと思ったが、見慣れない人物だった。風が吹いて髪が顔を覆ってしまいよく見えないが、恐らく新入生の女子だ。


新入生なのに酒とはけしからん。流石に注意しないと――そう思った時、向こうから声をかけられた。

髪のカーテンが開けた先に見えた顔は、忘れたくても忘れられない顔だった。


「お久しぶりです、♪」


高校時代に別れた、同級生の元カノ――西野にしの真奈美まなみだった。

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