第14話 空回り

連れられて来た洋食屋で、俺はハンバーグセット、広橋はオムライスセットを注文した。

途中でハンバーグを掠め取られたり、お返しにとオムライスをあーんしようとして来たり、食事中に色々騒がしいのは正直居心地が悪かった。


「ご馳走様です。オムライス、絶品でしたね。半熟とろとろで、また来たときも頼もうかな」


ちなみに、俺は「オムライスの卵は中までしっかり火が通っていてほしい派」なので、正直次に来てもオムライスは頼まないと思う。


「えっと……次どこ行きましょう。バルク6近いですし、映画見ましょうか」


バルク6で最近公開された「感動すること間違いなし」的なポスターが貼ってある恋愛映画を観たのだが、正直あまり面白いとは思えなかった。

ほら、「ここで泣けよ」みたいなポイントが透けると冷めるやつ。


「あの、櫻木さん。映画、面白くなかったですか」


露骨に「つまらなかった」という態度は出さないようにしていたが、流石に悟られてしまったかもしれない。

俺を楽しませようとしてくれるのは嬉しいが、広橋の想いに応える気は俺にはない。

いっそ「つまらなかった。二度と誘うな」とバッサリ切り捨てることもできる。

けれど、それで本当にいいのだろうか。

なんとなくギクシャクしたまま今日を過ごして、お互いがモヤモヤを抱えたまま別れて、それが正しい終わり方なのか。


「なあ、広橋」

「はい?」

「ちょっと行きたいとこあるんだけど、いいか?」

「……はい」

「じゃ、戻るぞ」

「えっ?」


広橋を連れて、数時間前に乗った路線の逆方向行きに乗る。

降りた先は、俺たちが最もよく知る駅だ。


「えっと、確認していいですか」

「なに?」

「ここ、池橋いけばしですよね」

「そうだけど」


清内キャンパスの最寄駅、池橋。

同時に、俺と広橋の自宅の最寄駅でもある。


「あの、まさか帰るとか言い出しませんよね。はっ、これは『俺の家、来ない?』ってお誘いですか。その、ちゃんと可愛い下着着けてきましたけど、さすがに心の準備が」

「バカ言ってんじゃないよ、家には上げねえからな」

「……あの、やっぱり今日は」

「いいから、黙ってついてこい」


向かう先は、『FORESTフォレスト』。俺の行きつけのバーで、バイト先でもあった。

大して人も来ないため、サボりながら給料をもらうことができる絶好の職場だ。

中に入ると、ちょうど店長のもり幹生みきおさんがグラスを拭いている所だった。


「あれ、櫻木くん? 今日シフトじゃないよね?」

「お疲れ様です。今日の俺は客ですよ」

「そっか、いらっしゃい。で、そっちの女の子は?」

「櫻木さんの彼女です!」


おい、広橋。調子に乗るな。


「後輩ですよ、サークルの。彼女じゃないです」

彼女じゃないだけです」

「幹生さん、マジで違いますし、これからも違うんで」

「わかってる、わかってるよ櫻木くん」


そう言って棚の後ろからひょいと顔を出してきたのは、幹生さんの奥さんの花音かのんさん。

真奈美についてちょくちょく相談相手になってもらっていたし、俺の本命が真奈美であることは承知しているはず。

俺がここで働いていることを教えた後、真奈美はシフト外の日に来たらしく、「花音さんにめちゃくちゃ根掘り葉掘り聞かれちゃった」と苦笑していた。

ここは花音さんに助け船を出してもらおう。





「キープの子だよね?」

「花音さん!?」






ふざけるなよこの合法ロリババア。









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