第52話 モチベーション

大学の期末試験。

人によっては、40代や50代になっても、進級がかかった試験に落ちる夢を見るほどらしい。

試験期間はエナドリの類が飛ぶように売れるし、図書館の24時間コーナーは大盛況を見せる。

普通に講義を入れて、普通に単位を取れば、進級が危うくなることはまずない。

下手に遊びたいからとギリギリまで講義を削ると、憂き目にあう。

ただ、とりあえず入れるだけ入れるというのもお勧めしない。

なぜなら、入れた分だけ試験勉強の量は増えるからだ。

そして、とりあえず講義を入れに入れた学生がここにもひとり。


「あー……しんどいぃ……」


文系育ちに経済学の数学は難しいらしく、目の前の真奈美はウンウン頭を唸らせている。


「なんで文系選んだのに数学やらなきゃいけないのぉ」

「経済学とはそういうもんだ。海外じゃ理系らしいぞ」

「ふざけるなー、詐欺だー」

「適当に学部選んだ方が悪い」

「くぅ」


この大学に受かるくらいだから地頭は悪くないのだが、いかんせん苦手分野というものはある。

専門的なところはわからないが、微積の基礎についてくらいなら教えられる。

というか、ウタが経済なのだから、ウタに教えて貰えばいいと思うのだが。

一緒に勉強するなら、七瀬だっているわけだし。

それを伝えると、「試験勉強に集中できなくなるからやだ」と言われてしまった。

今だって集中できてないと思うのだが。

俺はというと、PCに入れたLINEでもって、学科の友人たちと情報共有をしつつ、過去問を解き進めていた。

過去問がそのまま出ることはないかもしれないが、勉強に最適なのはやっぱり過去問だと思う。


「ねえ」

「ん?」

「試験終わったら、花火大会あるじゃん」

「あるね。一緒に行こうか」

「うん!」

「じゃ、花火大会楽しみに勉強頑張ろうな」

「えー! 違うじゃん、そこは一緒に浴衣選ぼうとか、あるじゃん!」

「知らん。広橋とか三尋木とか七瀬とかとでも行ってきなさい」

「なんでよー」

「……その、楽しみにしたいから。当日まで、見ないでおきたい的な」


真奈美が、ふてくされた顔から一転、ニヤニヤ顔に変わった。

すっと立ち上がり、「そーか、そーかあ」と、俺の後ろから抱きついてきた。


「それじゃあ、しょうがないなあ。とびっきり可愛いの、着てかないとね。当日、楽しみにしててね」


しばらく俺の感触を堪能した真奈美は、勉強に戻ると、鼻歌を歌いながらカリカリとペンを走らせていた。




まあ、それもそんなに長くは続かず、気がつけば広橋と三尋木と七瀬とのグループ通話を開始し、さっそく浴衣を買いに出掛けていたのだが。



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