第53話 インビテーション
試験期間も終わりに近づき、俺の試験も明後日と明明後日に1つずつ。
ちらほらと試験最終日を迎えたメンバーも集まり始めた月曜日の体育館。
「櫻木さん、今日真奈美ちゃん空いてます?」
「俺の家来るくらいしか予定はないと思う」
「お借りしていいですか?」
「いいよ」
「私の許可は?」
「今取れた」
ニカッと笑ってサムズアップする三尋木に文句を言う気力は、今の真奈美にはないようだ。
「今度ご飯奢るから許してよ」
「はいはい、わかりましたよっと。慎吾、私がいなくても勉強頑張ってね」
「むしろ捗る。サンキュー三尋木、愛してるぜ」
「ちょっと、どういうこと!?」
「そりゃ、いっつも邪魔してくるひっつき虫がいなくなるからだろうよ」
「そっちじゃない! 私以外の女に『愛してる』って何!」
「あーはいはいバカップルおつかれさまでーす、真奈美ちゃん、行くよー」
「ちょっと、慎吾! 私の話はまだ終わってなーい!」
三尋木に引きずられていく真奈美を眺めていると、後ろから美濃さんと小刀さんに声を掛けられた。
「お疲れ」
「お疲れ〜」
「お疲れ様です」
「西野、最近友紀に似てきたな」
「ちょっと、どういうことよ」
「あれ、飲み会で俺に引きずられる友紀そっくりだったじゃん」
「ぜんっぜん違う!」
「そうですよ、美濃さん。違います」
「櫻木……!」
まさか俺が美濃さんではなく自分の味方をするとは夢にも思っていなかったのか、小刀さんは目を輝かせて俺を見てきた。
残念ですね、違うのはそっちじゃないんですよ。
「それだと三尋木が真奈美の彼氏になるじゃないですか」
「そっち!?」
「確かに。俺が悪かった。ごめんな、友紀」
「ねえ、それあたしに謝ってないよね? ねえ?」
「じゃ、櫻木、試験お互い頑張ろうな〜」
「はい、終わったらまた打ちましょう」
「ちょっと洋介、あたしは無視?」
小刀さんに引っ張られても、それを軽くあしらう美濃さんを見送る。
さて、俺も帰って勉強しようかとポケットの中で原付の鍵を握ると、今度はバッシーに声を掛けられた。
「サク、ちょっといいか」
「いいよ」
「今晩空いてる?」
「勉強する」
「ならヒマだな」
「そうはならんだろ」
「いいから、いいから」
「仕方ねえな。で、何用よ」
「サクの家で話そう」
「長話?」
「そゆこと」
バッシーが俺に相談事とは、かなり珍しい。
そこまでテスト勉強も切迫詰まっているわけでもないし、明日1日はまるまるフリーなので、バッシーを家にあげることにした。
「なんだかんだで久々だな、サクの家」
「確かにな」
「西野の私物に結構侵食されてるし」
「まあな。隙あらば入り浸ってくるから」
「で、このベッドが愛の巣ってわけか」
「やめなさい」
「すまんすまん。ほい、酒。持ってきたやつ冷蔵庫入れとくぞ」
「助かる」
カシュ、という小気味いい音ふたつと共に、久々の男2人でのサシ飲みがスタートした。
「で?」
「いきなりかよ」
「いきなりだよ」
「……サクって、花火大会どうするんだ」
「皆川の? 真奈美と行くけど」
「誘った? 誘われた?」
「どっちとも言える。普通に『花火大会あるじゃん』『行こう』って感じ」
「やっぱ彼氏彼女じゃハードル低いよなあ」
「そりゃな。……なに、まさか」
「そのまさかで……いや、誘っても誘われてもないんだけどさ」
「ほーーー?」
三尋木がバッシーをデートに連れ出したり、家に上げて料理を振る舞ったことは本人から聞いていた。
「ただの後輩としか見てくれない」と嘆いていたが、どうやらこの1ヶ月半近くのアタックの甲斐あって、かなりいい感じにまでは漕ぎ着けていたようだ。
「どうしよう」
「どうもせんだろ」
「どうかはするだろ」
「それはそうだったわ」
側から見れば意味不明な会話だが、これで通じるから面白い。
そんな、バッシーの相談事とはあさっての方向に思考を巡らせていると、スマホが震えた。
取り上げて見てみると、1件のLINE通知。
【西野真奈美: ミッションを与える。石橋剛の8月17日(金)の予定を早急に聞き出しなさい】
恐らく真奈美は今、三尋木から相談を受けている。
体育館で三尋木が真奈美を引っ張っていったのも、それ関連だろう。
よし、ここは一丁強引に行こう。
俺は、真奈美に電話をかけた。
「もしもーし」
『もしもし? なんで電話?』
「隣の奴に代わるから」
『なるほどね、了解。私も隣に代わるわ』
バッシーにスマホをぽんと渡す。
怪訝な顔をしながらスマホを耳に当てたバッシーは、画面に表示されていた名前と違う人物が電話に出たことに慌てていた。
「うお、びっくりした、西野かと思った。今、西野と一緒なのか」
「そうそう。最近サク、ずっと西野とべったりだからさ」
「なー。三尋木のおかげで、久々に男だけで飲み会できたわ。サンキュ」
「うん、あー、その日……ね。空いてたわ。三尋木も?」
「あー、そうなんだ……あのさ!」
「俺と、皆川の花火大会、行かない?」
「……ありがとう。待ち合わせとかは、後でLINEして決めよう」
「うん。俺も、楽しみにしてる」
「それじゃ。またな」
バッシーが、俺に恭しくスマホを両手で差し出してきた。
「何か言うことは?」
「櫻木慎吾様、一生あなたについていきます」
「うむ、苦しゅうない」
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