第90話 染み付いたクセ
AチームやBチームが発表されたからといって、特に普段の練習に変化はない。
一応秋の学祭の大会前に1度だけガチマッチをAチーム対Bチームにはするが、基本的にチームキャプテンが呼びかけてサークル外で自主練を行うのが基本だ。
もちろんAのキャプテンはサークル長のヒガシなので、日程等はヒガシに任せることになる。
一応俺も去年からAでやっているので、ヒガシには「何か困ったら去年の知識で協力する」とは伝えた。
その結果、俺たちは『FOREST』に来ることになった。
「まさかこんな形で手伝って貰うことになるとはなあ」
「良かったな、俺と和泉のコネがあって」
なぜこうなったかというと、10月一発目の練習を終えたヒガシの元に、4日後の金曜日にAチーム結団式として予約していた居酒屋から、手違いによるダブルブッキングが発生した旨の電話があったためだ。
こちらの方が後に予約していたものらしく、さらに不幸なことに時間をずらしたりもできないとのこと。
起きてしまったものは仕方ないので、他の店を当たってみたのだが、10人で予約できる店がなかなかない。
ダメ元で幹生さんと花音さんに当たってみたところ、「あまり騒がしくしないならテーブル席の配置を変えて10人席にして予約してやってもいい」とのことだったので、お言葉に甘えることにした。
「バーに来るの初めてでビビってたけど、こういうのもいいな。料理もバーっぽくないし」
「元々居酒屋予定だったって伝えたらそれっぽいフードにしてくれたんだよ。会計の時にでも花音さんにお礼言っといて」
「了解。今度は普通に来てみたいな」
「俺が働いてる日じゃなきゃいいぞ」
「よしわかった。火曜か水曜だな」
「ボケがよ」
ヒガシと軽口を叩き合っていると、幹生さんに手招きをされた。
「ちょっと呼ばれたわ」
「ほいよ」
指で「和泉も呼べ」と言われたので、2人でカウンターに向かう。
「はい、これとこれ。運んどいて」
「客ですよ、俺たち」
「君たちはいつだって『FOREST』のファミリーだからさ」
「いいこと言ってる風にしないでくださいよ」
「まあまあ、いいじゃないの。安くしてあげてるんだから」
「そっちについては感謝してますよ。んじゃ和泉、そっちよろしく」
「はい」
無賃労働だが、幹生さんと花音さんへの恩義を考えればこれくらいはして当然なので、素直に従うことにした。
もうクセなのか、俺も和泉も「お待たせいたしました」と言ってテーブルに料理を置いてしまい、笑いが起きた。
「慎吾、ドンマイドンマイ」
真奈美に肩をポンポンと叩かれ、慰められた。
「そのうちお客さん来たら『いらっしゃいませ』って言いそうだね」
「それを言われた後じゃ言わねえよ」
「確かに」
ちょうど、入り口のドアが開く音がした。
「いらっしゃいませ」
今入ってきたお客さんも、幹生さん、花音さんも、俺たち全員も、同じ方向を向いた。
「……あ」
全員の目線の焦点には、和泉がいた。
「……ああぁぁ……」
和泉は、顔を覆って俯いた。
周りの人間が、笑いながら和泉をバシバシと叩いている。
「私が言わなきゃ、慎吾もああなっちゃってたかもよ?」
「……否定はしない。サンキュー」
「うむ。では、その唐揚げをあーんで食べさせてくれたまえ」
「調子のんな」
軽くチョップをすると、真奈美は「きゅぅ」と声を出して首を引っ込めた。
結団飲みは、終始和泉がイジられ続けて終わった。
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