第92話 目隠し三択当て

「あの、質問よろしいでしょうか」

「どうぞ」

「どうして俺たちは目隠しをされているのでしょうか?」

「それはですね」


広橋の家に晩飯に誘われた俺は、何故かバッシーや和泉と一緒に目隠しをさせられていた。


「第1回! 『彼女の作った料理を当てろ選手権』開催〜!」

「「イェーイ!」」

「「「は???」」」


広橋の音頭に合わせ、真奈美と三尋木が拍手をした。

もちろん俺たちは頭にハテナマークを浮かべるばかりである。


「あの、質問いいでしょうか」

「どうぞ」

「これは、なに?」

「今言ったとおりですよ。私と文ちゃんと真奈美ちゃんがそれぞれ同じメニューを作るので、味で自分の彼女の料理を当ててください」

「えぇ……?」

「当ててもらうのは『餃子』です。大輔は明日バイトなのでニンニク抜きで統一です」

「いや、今から作るの?」

「実は、さっき作っておきました! 文ちゃんと真奈美ちゃんは、それからおふたりを迎えに行ってもらいました。大輔は作り終わるまで来ないようにいいました」

「あの、俺からも質問いい?」

「いいよ」

「もし歩の餃子を三尋木の餃子って言った場合とかってどうなるの?」

「大輔、もしかして自信ないの?」

「もしもの話だよ!」

「わからなかったら……どうしよう?」

「別れるとか?」

「へぁ!?」

「冗談、冗談。私なら慎吾を1日自由にできる権利かな」

「あ、それいいね!」

「剛さん、わかってますよね」


視界が真っ暗な間に、大変なことになっている。

1日自由にできる権利ぃ?

冗談じゃない。

絶対ロクな目に遭わないに決まってる。

なんとしても当てねばならない。


「はい、じゃあ、1個目です。大輔、あ〜んして」

「剛さん、どうぞ」

「慎吾、あ〜ん」


俺は、1個目を口にした。

パリッとした感じの焼き加減、たくさん詰まった餡。なかなか美味い。

だが、真奈美のものではない。


「はい、水」


口内の味をリセットするための水を飲んだ後、2個目を食べる。

1個目よりは小ぶりで、皮も質が違うように思える。

すこし焼き加減が甘めだろうか。

これも真奈美のものではない。


「3個目いくよ〜」


口内を再び水でリセットした後、3個目の餃子を口に入れてもらう。

かなりジューシーな肉汁と、パリッとモチッの間の焼き加減。美味い。

餡も適度な量が入っている

恐らくこれが真奈美のものだろう。


「はい、じゃあ目隠し取っていいよ」


真奈美に目隠しを取ってもらうと、部屋の明かりが一気に目に入ってきた。

瞬きをしてぼやけ修正をすると、目の前には紙とペンが置かれていた。


「順番に言うと後の人が答え変えるので、書いていっせーので発表です。大輔、当ててね」

「……やっべえ、これどっちだ」

「剛さん、外してください」

「え、外してほしいの??」

「慎吾、わかるよね?」

「余裕だって。こんなの――」


――3番目に決まってる。

紙に3を書きかけたところで、ある違和感に気づく。

味が、似ている。

いや、味だけではない。食感もだ。

皮が同じに思える。


「……そういうことか。和泉、バッシー、書けた?」

「はい」

「うぃ」

「じゃあ和泉から発表してって」

「最初のやつ。個人的には最後の方が美味かったんだけど、それは西野かなって」

「同意見。文にはちょくちょく料理してもらってるけど、さすがに西野には敵わないだろうし、1か2に絞れた。で、割と焼き加減がパリパリっていうよりはモッチリって感じだったから、2番目が文かな。サクは?」

「ない」

「は?」

「この中に、真奈美の餃子は、ない」

「え?」

「櫻木さん、だいせいかーーーーい!」

「さっすがぁーーーー!! いやー慎吾、信じてたよぉ!」

「え? え?」

「多分1と3が三尋木と広橋。どっちがどっちかはわからん。で、2は……なんだろこれ。どっかからのテイクアウト? いや、違うな。冷凍餃子か」

「完璧! よくわかったね!?」

「皮が2だけ違った。全部皮変えられてたら危なかった」

「かぁーーーー! 流石慎吾だね! そこも見破ると信じてたよ! 愛してる! ご褒美に私の、あ〜ん」

「やりぃ」


ハイテンションの真奈美から、本当に真奈美が作った餃子を食べさせてもらう。

うむ。やはりこれが真奈美の味だ。

横を向くと、バッシーと和泉が目を見開いたままあんぐりとしていた。


「ということで大輔。明日1日、よろしくね!」

「えへへ、剛さん1日自由権……♪」


広橋、目が据わってるぞ。

あと三尋木、顔がだらしないぞ。

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