第70話 夏合宿(1日目-1)
9月一発目のバイトを終えた、翌朝。
俺は1ヶ月ぶりに清キャンの中に足を踏み入れていた。
講義があるわけでも、大学に用事があるわけでもない。
では、なぜ俺が大学構内にいるかというと。
「いやー、合宿だよ、合宿。楽しみだね」
夏合宿のバスに乗るための集合場所が、ここなのだ。
2台のバスが到着し、配布された座席表に従ってバスに乗っていく。
俺と真奈美は2号車の、後ろから4列目、左側。
6割程度の席が埋まり、バスが発車する。
満席にしないのかと疑問に思われそうだが、そもそも合宿参加メンバーが全員乗車していない。
墨キャン近くに住んでいたり、墨キャンに通う実家生のために、これからそっちへ向かうのだ。
真後ろの広橋の隣が空いているのは、そのためだ。
基本的にサークル内で付き合っている男女が隣同士になるよう、最上回生が配慮してくれる。
ただ、サークル長と女子部長、副長同士は別れる。(実際去年はそうだった)
と思いきや、美濃さんと小刀さんが職権濫用したのか、1号車に長同士、2号車に副長同士で乗車している。
ちゃんと仕事してくださいよ、美濃さん。
墨キャンにバスが着き、ぞろぞろと理系メンバーが乗ってくる。
キャンパス内の食堂で会えば挨拶をする程度のサークルメンバーに続いて、和泉が乗車してきた。
それを見つけた広橋がぶんぶんと手を振っているのが音だけでもわかる。
「おはよう」
「おはよ〜」
「おはようございます」
「おはよ、大輔」
「おはよう、歩」
バッシー三尋木ペアやウタが1号車なのは残念だが、楽しい旅路になりそうだ。
途中でSAでの休憩や昼食を挟みつつ、
ちょっと歩けば海が見え、なおかつ隣に公園がある最高のロケーション。
初日は練習をせず、その公園でBBQをすることになっている。
まずは、部屋割り。
基本的には1回生、2回生、3回生が1人ずつの3人部屋になり、男子が1階、女子が2階となる。
「ほい、じゃあ2回生、クジ引いてけ」
折り畳まれた紙を開くと、「2」と書いてあった。
つまり、102号室が俺の部屋になる。
荷物を持って部屋に向かうと、既にクジで102号室に割り当てられた1回生の
よく話す方ではないが、まだ新歓の時にチームを組んだ相手で助かった。
「櫻木さん、ここなんですね。よろしくお願いします」
「よろしく。夜イビキうるさかったら遠慮なく言ってくれ。耳栓あげるから」
「わかりました。そういうの、想定してなかったっすわ」
「去年酷い目にあったんだよ。2コ上だから今年はいないけど」
「マジですか。それはヤバいですね」
部屋のドアが開き、誰かが入ってくる。
「お、櫻木と月島かあ。仲良い後輩がいて助かった」
「美濃さん、ここなんですか」
「福田が101で俺が102なのは元から決まってたんだよ。長と副長が1と2にいるってわかってりゃ、色々あった時に部屋割り確認しなくていいから」
「なるほど。合理的ですね」
「月島、窓側と廊下側どっちがいいとかある?」
「いえ、特には」
「櫻木は廊下側だろ」
「そりゃもちろん」
「なんでですか?」
俺は、エアタバコを吸う。
そう、この部屋、出てすぐのところに喫煙ルームがあるのだ。
「なるほど」
「とりあえず5時までは自由時間だし、好きにやってていいぞー。この後色々段取り確認で役職持ちで101に集まることになってんだけど、そっちの奴一旦こっち来させてもいいな?」
「もちろんです」
「うい、じゃ頼むわ」
美濃さんが出ていってから少しすると、「お邪魔します」と声が聞こえた。
それに続いて、「すまん! トイレ貸して!」という叫び声が聞こえた。
「お、月島じゃん」
「よ。和泉、101?」
「うん。櫻木さんも、102なんですね」
「そう。さっきの、モッチ?」
「はい。
モッチこと、
俺と同じ2回生で、工学部所属。
俺と学科は違うので、墨キャンで会うのは食堂とか生協コンビニで偶然、という場合がほとんどだ。
「いや、すまんすまん。マジで漏れそうやった」
「セーフ?」
「ばっちり」
「ならよかった」
「102、サクと月島なんやな。多分これからも何回か追い出されるからよろしく頼むわ」
「全然オッケー。クジ運だし、しょうがないわな」
「BBQまでどうするよ」
「特にやることもねえんよな。海で釣りでもするか?」
「釣り、できるんですか?」
「フロントで金払えば釣竿借りられるみたいだけど」
「すいません、行ってきます」
「釣り」というワードでテンションが上がった月島が、脱兎の如く駆け出していく。
あいつ、そんな釣り好きだったのか。
「月島、ここでまで釣りするんか。ほんま釣り好きやな」
「船の運転免許的なもの、こないだ取ったらしいっすよ」
「ほんまに言うてる?」
月島の話題で盛り上がる和泉とモッチ。
自分が、いつぞやのカラオケメンバー以外の後輩と全然交流がないことを実感する。
俺も、フロントで竿借りて釣りしてみようかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます