第69話 帰省(最終日)
帰宅した父親に挨拶した後、真奈美は実家での夕飯を食べに帰った。
一緒に食べて行ってもらってもよかったのだが、せっかくの短期帰省だし、真奈美にもちゃんと家族と過ごす時間をとってほしい。
翌日の小郷駅での集合時間を決めて、真奈美との時間は終わった。
金曜日の帰宅ラッシュに巻き込まれないよう、正午過ぎに真奈美と小郷駅で合流して、電車に乗る。
こっちに来る時も思ったことだが、ゆっくりと海岸線を走行する普通電車の2人掛けシートで真奈美と寄り添って座っていると、普通なら苦痛に思える移動時間が、まるで極上の時間のように思える。
「真奈美」
「んー?」
「眠い?」
「んー」
「いいよ、寝て」
「ん」
真奈美の頭を俺の方に預けさせて、寝かせる。
そういえば、再会したばかりの頃は、壁にもたれて寝ていた真奈美をこっちに引き寄せたこともあったなあ。
もうそんな必要はないくらい、進んだ関係。
でも、もっと先にだって、俺たちは進める。
何年経っても、何十年経っても、死がふたりを分かつまで、俺たちは一緒に歩んでいきたい。
……重いかな、なんて自分に苦笑しつつ、ふわ、と出た欠伸によって、自分の眠気を自覚する。
俺も、寝てしまおう。
真奈美の頭に自分の頭の重みを預けて、俺は眠りについた。
――次は、
車掌さんのアナウンスで、俺は目を覚ました。
多花原駅まで、あと3駅の白江まで電車は進んでいたらしい。
何時間寝たんだ、俺。
「起きた?」
「うん。ごめん、頭乗っけちゃって」
「私もひとつ前の
「サンキュ。よく寝てたな、俺ら」
「海で散々はしゃいだからね」
「今晩、寝られるかな」
「寝かさないつもりってこと?」
「それもいいかも」
「もう」
真奈美の頭を撫でてやると、満更でもない表情とトーンで体を預けてきた。
本当に今晩は夜更かししてしまいそうだ。
電車を乗り継いで池橋駅に戻ると、改札で手を繋いで歩く見知った顔と鉢合わせた。
「あれ、歩と和泉くんじゃん」
「え、真奈美ちゃん? やっほ〜。実家、どうだった?」
「なんで広橋が知ってんの?」
「だって櫻木さん、急にバイト休んだじゃないすか。花音さんに聞いたら、帰省だって言われました」
「ああ、和泉経由か」
「ていうか、大輔から聞かなくても、普通に真奈美ちゃんとLINEしてましたし。熱かったらしいじゃないですかぁ」
「……まあな」
「で、大輔とも海行きたいなって話してて、水着買ってきたんですよ」
「で、偶然買い物帰りと実家帰りで同じ電車乗ってたのか」
「そういうことです」
「真奈美ちゃん、櫻木さん、今度一緒にどうですか?」
「いいね。慎吾は?」
「俺も全然。海に行く時間ないかもだから、プールとかになるかもだけど」
「プールもありですね! 大輔、どう?」
好感触を得られそうな提案だったが、和泉は腕を組んで唸っている。
ひとしきり首を傾げて悩んだ後、和泉は思いを吐露した。
「あの、ちょっとナシで」
「え、なんで? プール、嫌?」
「プールはいいんだけど、その……4人は、ちょっと」
「どういうこと?」
「だって、歩の水着姿見たら、櫻木さんがコロッと落ちちゃうかもしれないし」
しばしの、静寂。
そして、3人の大爆笑。
「あーーーーーーーーっっはっっはっは!!!! ヤッッッッバイ、和泉くん、最高」
「ひー、大輔、それは、やばいって。ほんと。あー、面白。心配しなくても、私はちゃーんと大輔一筋だから、ね?」
「それは心配してないけど……」
「やー、傑作、傑作。おい和泉、俺がそんな人間に見えるか」
「だって、試着でもうヤバかったんですって」
和泉にそこまで言わせる広橋の水着姿の破壊力、恐るべし。
「大丈夫だよ、みんなで行くときに着けるのは水色の方だから」
「……もう片方は?」
「聞かん方がいいぞ、和泉」
「なんでですか?」
「いいから。先輩の言うことは素直に従っとけ」
「そうだよ和泉くん。慎吾が正しかったって、後でわかるから。今は言うこと聞いといた方がいいよ」
「はあ……」
「ありがとうございます、櫻木さん。真奈美ちゃんも、ありがとね」
「うん。頑張れ」
サムズアップでエール交換をする目の前の女子2人の間に交わされたLINEの履歴の想像がつくのは、多分俺だけだろう。
「和泉、今日の晩飯は?」
「誘って頂いてるならすみません、歩が作ってくれます」
「謝らんでいいよ。そうだと思ってたし」
「……どういうことすか?」
「メニュー、当ててやるわ。牡蠣の炊き込みご飯に、イカと青魚の刺身」
翌日、和泉から「晩飯、当たってました」というLINEが来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます