おまけその2-2 クリスマスの準備は秘密裏に
「あーやーちゃん」
大学での講義を終えると、後ろから歩ちゃんに肩を叩かれた。
いつもとは違って、少し上機嫌だ。
きっとまた昨日も和泉くんとイチャイチャしていたのだろう。
私の方は、最近剛さんに避けられているというのに。
ドロッとした妬みの感情が、私の胸の奥でうごめいた。
「なに」
思ったより、低い声が出た。
歩ちゃんの口元の緩みが、一瞬だけなくなった。
眉毛をハの字にして、また私に笑いかけてきたけど。
「ごめんね、この後時間いいかな?」
「……いいけど」
キャンパス内のカフェに場を移す。
雰囲気的にはオシャレで、女子大生向けって感じ。
照明も学食より明るめに設定されていて、ちょっと私には入りづらい。
「あのね、文ちゃんって、石橋さんにクリスマスプレゼントどうするかとか考えてる?」
「へ? あー……」
それどころではない。
剛さんと会える時間すら減っているのに、そんなこと考えてもいない。
「文ちゃんもまだなんだ。私も大輔に何あげるか考えてないんだよねー」
「……そう」
「って、そうじゃなかった。一応サークルの1回生女子でもクリパやるからさ、早めに文ちゃんが何欲しいか聞きたいなって」
「なんでもいいよ。また去年みたいにブックカバーとかでいいよ」
「もー、それじゃ味気ないでしょ。せっかく文ちゃんも女子大生になって、その上彼氏も出来たんだからさ。そういえば、剛さんにリクエストとかしたの?」
「してない。そもそも、最近会ってない」
露骨に私がイライラしたのを察したのか、歩ちゃんがオドオドしだした。
歩ちゃんは和泉くんともう今のうちから予定を立てている一方で、剛さんからは何もクリスマスの話なんてない。
「おーす」
ちょうどそこに和泉くんがやってきた。
お互いの誕生日プレゼントに贈りあったネックレスとペンダントが、いつもよりキラキラして見える。
「いいなあ。私もこういうの欲しいなあ」
「へっ?」
しまった、口に出ていたみたいだ。
「こういうのって?」
「……なんでもない」
「いいじゃん。教えてよ」
「……ふたりがしてる、ペンダントとネックレス。ペアっぽくて、羨ましいなって」
「こういうの、欲しいの?」
「まあ、ちょっとは」
「ふぅん。ねえねえ、私たちから石橋さんにこっそり伝えておいてあげよっか?」
「いいよ、そんなの。さっき言ったでしょ、そもそも最近会ってないって。なんか、避けられてるの。ずっとデート誘っても『バイト』って言われてさ。昨日だってバイトの日じゃないのに講義終わった後『ちょっと予定ある』って言われたし。相手聞いてもはぐらかすし」
歩ちゃんと和泉くんが顔を見合わせる。
まずいことになった、という感じの顔をしながら、ひそひそとふたりで相談を始めた。
「ごめん、ちょっと石橋さんについては俺から探り入れてみる。櫻木さんにも協力仰いでみるわ」
「文ちゃん、大丈夫だから。クリスマス、ちゃんと予定空けてもらうように今から言おう?」
「……うん」
私の心が、灰色の雲で覆われていく。
剛さん、本当にクリスマスの予定は私のために空けてくれますか?
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