おまけその2-3 クリスマスの準備をする前に

『浮気ぃ!?』


石橋さんが、電話の向こうで素っ頓狂な声を上げた。


「はい。最近バイトばっかりで三尋木のことかまってやれてないらしいじゃないですか。それに、こないだのファミレス集会も、三尋木の誘い断って来たそうですね?」

『そうだけど……いや、そうか……うーん……』


石橋さんの声色は、ひどく重い。

一応、歩が三尋木を連れ出して西野と一緒に三尋木の気を紛らわせる女子会を開いてくれているので、こうやって俺は石橋さんと話せている。


「一応俺と歩が二重スパイやってますけど、石橋さんも放っておくだけじゃダメですよ。落としてから上げようとしても、落とす限度ってのがあるんですから」

『すまん、余計な役目まで背負わせて。ちゃんと謝ってくる』

「そうしてください。あと、三尋木は石橋さんとのペアアクセ欲しいみたいですよ」

『なにからなにまで申し訳ない。今度好きなもん奢るわ』

「そんな金あったら三尋木に使ってください。失礼します」

『こりゃ手痛いご指摘で。それじゃ』


さてと、俺もちょっと先回りさせてもらうか。





「あ、ごめんね。大輔からなんだけど、出ていい?」

「うん」

「いいよ〜」


歩ちゃんが、和泉くんからの電話で席を立つ。

2〜3分で戻ってきたので、解散予定時刻の連絡だろうか。

最近、剛さんの家に行っていないのもあって、ああいった連絡はしていない。

また、私の心が濁る。


「お待たせ」

「なんだったの?」

「おわるのいつ頃になるかとか、そんな感じ。真奈美ちゃんは連絡しなくていいの?」

「前もって予定は言ってあるから、過ぎそうになったらその時に言うつもり」

「そうなんだ。今何時だっけ」

「自分で見なよ……7時半」

「文ちゃんは大丈夫?」

「うん……」

「あれ、そういえば、文ちゃんって時計してないよね。欲しいとか思わない?」

「欲しいとは思うけど……スマホで確認できるから、いいかなって」

「なるほどねー。実際そんなに要らないもんね。真奈美ちゃんは逆にいつもしてるよね」

「私はいちいちスマホ出すのめんどいから、腕時計着けてたい派かな。昔親に買ってもらったやつずっと使ってる」

「おー、長持ちだ。なんか腕時計の扱い方と恋人の扱い方って似るらしいし、真奈美ちゃんはそんな感じだね」

「それだと文が恋人いらないみたいじゃん」


腕時計と、恋人。

そんな話はどこかで聞いたことがある。

もしかしたら、剛さんが私を避けているのは、私の態度が悪いから?

私に愛想を尽かして……?


「そんなことない、そんなことないから! ごめん文ちゃん! 泣かないで!」

「……まだ、泣いてない」

「いっそ石橋さんに買ってもらえば?」

「でも、クリスマス、私と過ごしてくれるかどうか……」


ヴー、ヴー。

私の携帯が震えた。


「……剛さん」

「出ないの?」

「……」


出る踏ん切りがつかないまま、着信は途切れて。

歩ちゃんは自分のスマホを操作すると、こっちに投げてよこした。


「はい、ちゃんと出る!」


スマホを耳に当てると、剛さんの声がする。


『もしもーし。広橋ー? どうしたー?』

「……もしもし」

『うぉ、文か。広橋の電話だからびっくりしたんだけど、何かあったのか?』

「なんでもないです。ちょっと私のスマホの充電ヤバかったので、代わりにかけてもらったんです。剛さんこそ、どうかされましたか?」

『あー、いや、その……今日、ウチ来ないか?』

「どうしたんですか、突然」

『最近バイトばっかりで、文と全然過ごせてなくてさ……文には悪いと思ってたんだけど、その……色々あって』

「色々って、なんですか」

『ちょっと金欠……ってわけじゃないんだけど、なんつーか、稼いでおかないといけなくなって』

「……私をほっといて、ですか」

『ごめん。本当にごめん。ちゃんと、そのことで文と話したい』

「……わかりました」

『ありがとう。迎えに行くよ。いつ終わる?』

「9時です」

『ん。広橋の家だったよな?』

「はい。じゃあ――」


電話を切ろうとした寸前、歩ちゃんからスマホを奪い返された。


「今解散したので、すぐに迎えに来てください! じゃ!」


それだけ言い残して、歩ちゃんは通話を切った。


「私たちなんかと遊んでないで、ちゃんと話し合うこと。いいね?」

「……うん」


それから10分もしないうちに、剛さんは迎えに来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る