第77話 夏合宿(3日目-4)

酒とジュースを購買で買い、部屋に戻る。

既に平石は102に来ており、101から追い出された和泉もそこに加わっていた。


「モッチは?」

「104行きました」

「おけ」


買ってきたジュースと酒をそれぞれに配り、乾杯する。

月島は普通にストロング系の酒を選んでおり、洗いざらい吐く覚悟は既にできているようだ。


「櫻木さん、俺の話するのはいいんですけど、やっぱ公平にしましょうよ」

「というと?」

「『すべらない話』方式で、サイコロで話す人決めましょう」

「しゃあねえな。で、サイコロは?」

「アプリです。ルーレットのやつあるんで」

「了解」


月島が画面をタップすると、ルーレットが回る。

5回転ほどした円盤の上で矢印が止まった先には、「平石蓮」と書かれていた。


「よし、平石。話せ」

「えー、なんで俺なんすか」

「公平な抽選の結果だ」

「……んー……いや、マジでなんもないんすよね。中高男子校だったんで」

「じゃあ、小学生以前か大学入ってからか。バイト何してんだっけ?」

「家庭教師何件かかけ持ちですね」

「ほー。なんか可愛い教え子とかいないの」

「そういうの幻想ですよ、幻想」

「え、でもこないだ蓮がLINEしてたのって教え子じゃないの?」

「いや、そうだけど。普通に質問答えてただけ」

「本当かあ?」

「本当だよ」

「LINE見せろ」

「嫌だよ」

「ほお、やましい所があると」

「ないっすよ」

「櫻木さん、嘘ですよそれ。めっちゃ親しげに『寧々ねねちゃん』って呼んでただろ、こないだ」

「はあ!? おい大輔、おい。いつ聞いた」

「1回生の飲み会抜け出して電話してたの、トイレ行った時聞いたんですよ」

「ほー、ほほー」

「やってますねこれは」

「やってんなこれは」

「大輔、やってくれたなお前」

「さんざん俺と歩のこといじってきた仕返しだ」

「で? 寧々ちゃんってのは、今何年生だ?」

「……高2っす」

「「「おお」」」

「なんすか、もういいでしょ。ただの教師と生徒ですよ」

「しょうがねえなあ。じゃあまた蓮が出たら続きってことで」

「マジかよ……」


月島が、再びルーレットを回す。

矢印が示しているのは、「月島智樹」だ。


「おーし、話せ智樹」

「はいはい、元からそのつもりだっつの」


月島が、ぐいっと酒を呷る。


「同級生にいたんですよ。片想い相手が」

「ほう」

「どっちかっていうと物静かな感じでしたね。吹部で、サックス吹いてました」

「写真、ある?」

「はい。中央のこいつです」


月島が見せた画面には、クラス写真が出されていた。

拡大された写真の中央に、ピースをする黒髪の女の子がいる。


「へえ、可愛いな。なんて名前?」

小橋こばし朝陽あさひ。で、そいつは別のクラスの奴に片想いしてたって感じで」

「あー、そういうアレかあ」

「頑張ってたのを、友人ポジションから応援するだけみたいな感じでしたね。結局フラれたって報告だけ卒業式の日にされました。で、俺はそのまま告れずじまいで。今頃笠田かせだ大学で楽しくやってんじゃないすか」

「なるほどねえ。同窓会とか、まだないよな」

「ないですね。成人式の時はあるかもですけど」

「よし、じゃあ今のうちに連絡とっておけ」

「え?」

「もう新しい男見つけてるかもしれんが、何もしないよりマシだろ」

「いや、だって……」

「餌は投げないと魚は釣れんぞ」

「なんすか、うまいこと言ったつもりっすか」

「てか、櫻木さんが言いますか、それ」

「あんだと、和泉」

「だって、俺に言われてやっと――」

「おーしそこまでだ和泉。表出ろ」

「なんすか、自分だけ暴露させない気っすか。ちょ、痛いですって。智樹、蓮、助けて」

「さっきの仕返しだ。シメられてこーい」

「俺、櫻木さんに『連絡取ってみろ』って言われちゃったからなー。今忙しいんだよなー」

「おい、ふざけ、すいません櫻木さん、ほんとすいませんって!!」


男子だけの夜は、まだまだ長い。





結局、帰ってきた美濃さんを巻き込む形で暴露大会は続き、午前2時に隣から福田さんが「うるせえボケナスども!!!!」とブチ切れて突入してくる羽目になった。



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