第78話 夏合宿(4日目-1)
4日目、最後の練習。
明日は観光地を軽く巡り、そのまま帰る。
俺の出番は、今日はない。
ウタやバッシー、ヒガシとフジもないので、この5人は確定だろう。
和泉と真奈美は最後のテストをされるようだ。
昨日の最後と同様に、バッシーが相手でなければ普通にシュートを決めていった真奈美は、前半でお役御免。
後半にボールがよく回ってきた和泉も、申し分ない活躍をしていた。
順当に行けば、A内定だろう。
真奈美と和泉は、手応えアリの顔をしていた。
練習後の入浴を済ませ、宴会場へ向かう。
今日は夕食が宴会場でコースとして出てきて、そこで3回生卒業式が行われる。
追いコンは来年2月に改めて行うのだが、実質的な追いコンは今日だ。
福田さんの乾杯の音頭と共に、宴が始まる。
30分程度の歓談の後、新幹部の発表となる。
サークル長、加東啓介。
女子部長、加藤莉子。
サークル副長、石橋剛。
女子部副長、
新歓担当、持田幸太郎・
合宿担当、
サークルの運営に関しては俺はあまり関わってこなかったので、実はバッシーが副長に決まっていたとは知らなかった。
美濃さんからの担当引き継ぎの杯を飲み干すバッシーの目は、今までより大人びて見えた。
後でバッシーに聞くと、「俺も話を貰ったのは合宿1週間前だった」とのこと。
本人にすらサプライズはまずくないですかね、美濃さん。
新サークル長のヒガシの音頭で再度乾杯し、自由歓談となる。
ここの宴会場の片付けが2回生の最上回生としての最初の仕事なので、最後まで残っていなければならない。
真奈美は小刀さんにべったりだし、美濃さんは後で部屋でじっくり話すし、さっきの30分で美濃さんほどではないがお世話になった方々への挨拶は済ませたので、一旦喫煙に抜け出す。
「おっ」
「よっ」
既に喫煙所にはウタがいた。
ウタの向かい側のベンチに腰掛けて、火をつける。
「バッシーが副長とはなあ」
「あれ、ウタも知らなかったんだ?」
「三尋木ですら知らなかったっぽいぞ」
「そりゃ誰も知らんわけだ」
「ちょっと怒ってたけどな、三尋木。そしたら『サプライズ』とか返してやがったわ。イチャつきよってからに」
「はは、羨ましい」
「サクも大概だからな」
「すまん、すまん」
「悪いと思ってねえな、こいつ」
若干の苛立ちを込めて、ウタは煙を吐き出した。
勢いよく立ち上った煙が、天井の換気扇に吸い込まれていく。
「で、ウタこそどうなのよ」
「どうって、何が」
「とぼけても無駄だぞ」
以前に話していた、バイト先の先輩。
あれから進展があったのかどうか、ウタは全く話さない。
「彼氏、できたってさ」
「……そうか」
その「彼氏」とは、ウタのことではないだろう。
恋に破れたウタにかける言葉が、俺には見つからなかった。
「バイト、どうするんだ」
「続けるよ。別にそういうのは分けて考えられるし」
「そうか。ならいいや」
「ま、いつか同僚の女教師でもひっかけにいくよ。今は試験勉強に集中するわ」
「まだ2回だろ? まだ1年半以上あるんだしさ」
「倍率知ってる? 田舎でもなけりゃ5倍以上は平気でいくぞ?」
「……すまん」
「サークルはちゃんと続けるから、安心しろって」
「麻雀は辞めんの?」
「なわけねえだろ。麻雀の予定は何より優先されるもんだ」
「じゃ、教員採用試験の前日に誘うわ」
「殺すぞ」
「大学生のうちに死にたくはないな。ま、今度慰め会でも開いてやるよ」
「女子禁制で頼むわ」
「当たり前よ」
ウタと俺は同時に灰皿にタバコを放り込み、喫煙所を出る。
宴会場に戻ると、真奈美が俺を手招きした。
「タバコ?」
「うん」
「誘えや」
「小刀さんに抱きついてたから遠慮した」
「むぅ……私は小刀さんより慎吾のが優先順位高いのに」
「ちゃんと卒業する先輩との時間を大事にしなさい」
「その時間にタバコ吸いに行った慎吾に、何言われても響かないなあ」
「それもそうか」
「それもそうだよ。慎吾は、先輩のとこ行かないの?」
「先輩より真奈美の方が優先順位高いからな」
「ばかじゃないの」
酒で赤くなった真奈美の顔が、さらに赤くなった。
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