第79話 夏合宿(4日目-2)
3回生が全員帰ったのを確認して、宴会場の片付けに入る。
真奈美や月島など、一部の1回生が片付けの手伝いをしてくれたので、作業は思ったよりスムーズに進んだ。
102号室に月島と戻ると、美濃さんが酒を用意していた。
「よ。飲むぞ」
「そうなると思ってましたけど。月島、眠くないか?」
「お付き合いしますよ。昨日もこうやって飲んだ仲じゃないっすか。流石にストロング系はもうキツいっすけど」
月島のことも考慮して度数低めの甘めのチューハイで、俺たち3人は乾杯した。
「で、あれから例の小橋さんとは連絡とったか?」
「はい。なんか、元気でやってるらしいです」
「どこの大学とか、聞いた?」
「なんか、辞めたらしいです」
「え? マジで?」
「肌に合わなかったらしくて。で、もう1回受験勉強してるとか」
「へえ。こりゃ、来年が楽しみだな」
「いや、朝陽がウチの大学来るとは限らないじゃないですか」
「わからんぞ? 新歓でバッタリ会って『お久しぶりです、先輩♪』って言われるかもよ?」
「それ、俺じゃないですか」
「そうだよ?」
「勘弁してくださいよ、俺が2人になって何が面白いんですか」
「いや、面白いだろ」
「当事者は面白くないですよ」
「実際月島からしたら、そんなんでもいいからうウチに来てほしいんじゃないの?」
「……まあ、そうですけど……」
「なんなら、『中岡大学受けないか』とか言ってみなよ」
「いやいやいやいや、それはキツいですって!」
来年の春に、また嵐が来る予感がした。
月島が寝た後も、俺と美濃さんは話を続ける。
酒はもう十分飲んだし、部屋の中だと月島を起こすかもしれないので、喫煙ルームに移動することにした。
美濃さんは吸いはしないが、普段から雀荘で副流煙を浴び続けているので抵抗はない。
「ほい、水」
「ありがとうございます」
美濃さんに渡された水を飲むと、アルコールに浸食された各所の細胞が生き返る感じがした。
どうやら、知らない間に結構な量を摂取していたらしい。
「1本、貰えるか」
「いいですよ。雀荘でも吸わなかったのに、急にどうしたんすか」
「今日だけはちょっと特別だからな」
「小刀さんに怒られません?」
「かもな。ま、なんとかなるさ」
美濃さんが咥えたタバコに、火をつける。
先輩のタバコにこうやって火をつける行為を一度はやってみたかったので、相手が美濃さんであることにちょっとした喜びを感じた。
「うわ、すっご」
「スーッとして、よくないですか?」
「初心者にはキツい」
「俺、メンソ入ってないと吸った気になれなくなっちゃって」
「あー、なんとなーくだけど、わかる気がする」
「ヤニカスの素質ありますね」
「やめろや」
美濃さんは、少し吸って、少量の煙を吐くのを繰り返した。
「これで、最後なんだな」
「んなこと言わずに、また来てくださいよ」
「暇だったらな。友紀の都合もあるし」
「友紀さんと喧嘩した時とか、ストレス発散にも使えますよ」
「残念、喧嘩してもその日には仲直りするから問題ない」
「ナカナオリですか」
「含蓄のある言い方に聞こえたけど?」
「含蓄のある言い方しましたから」
「ったく、数ヶ月前の情けない櫻木はどこ行ったんだか」
「あの頃は、本当にお世話になりました」
「櫻木といい、和泉といい、心配かけやがって。今じゃCROSSOVER3大バカップルときた」
「あと1組、誰ですか?」
「俺と友紀に決まってんだろ」
「自分で言ってりゃ世話ないっすわ」
「3大の中じゃ一番下だけどな」
「え、嘘だ」
「どこがだよ」
「バスの組分けでズルしたじゃないですか」
「そっちの分も忖度してやったんだから、おあいこだろ。帰り別々にすんぞ」
「すいません、ありがとうございました」
「わかってるなら、いい」
美濃さんが灰皿にタバコを放り込む。
「寝るか」
「そうですね」
特にありがたい話などをされるわけでもなく、お互いがお互いをいじりあう、そんな会話。
サークルメンバー同士としての最後の時間は、いつも通りの会話で幕を下ろした。
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