第7話 赤らみの理由

時は少し進み、ゴールデンウィーク。

年度によってだが、1日だけゴールデンウィーク中に存在する平日に講義があり、学生達が所属する大学をボロカスに言うことでおなじみの季節だ。


中岡大学も例に漏れず……というわけではなく、この季節は春の学祭があるため、実はゴールデンウィークはまるまる休みになる。

大学主催のバスケ大会もあり、メンバー登録の時期の都合で新入生は基本的に参加できない。

1サークルからは2チームまでという制限があるが、「私達はCROSSOVERの人間ではなく、自主的に集まったチームです」という体で追加で2チーム参加している。

これはよそのサークルでも行われており、大学側も黙認している状態だ。

サークル公認組はユニフォームの着用ができるが、非公認組は思い思いに持ち寄った服で参戦することとなる。

俺は公認組のAチームの参加で、普段着用している背番号21を背負うことが許されている。

基本的には公認Aが1軍、公認Bが2軍で、非公認組は3軍以下という扱いとなっている。

CROSSOVERはエンジョイ第一を謳ってはいるが、春と秋の学祭だけは実力主義でのチーム編成となり、そこに文句を唱えるメンバーはいない。

また、大会には新入生も多く応援に来ており、真奈美もその中の1人となった。



元経験者の友達同士で集まったようなチームや、よそのサークルの非公認組が相手になるわけもなく順調に勝ち進み、決勝で別のバスケサークルの公認Aチームとぶつかる。

美濃さんによると一昨年もこのチームとの対戦らしく、現在2連敗中とのこと。

去年負けたのは知っていたが、2連敗中とあらば、是非ともリベンジに貢献しなくてはならない。

……ニコチンとタールで汚れた肺が、あと40分持ってくれるかは正直微妙な所ではあるが。



試合は第3Qクォーターまで最大点差が9点しかつかないという白熱した試合となったが、残り3分以降はこちらが常にリードした状態で進めた。

最後はファウルゲームになり俺が狙われたが、実はフリースローは得意なので、全く問題はなかった。Cセンターやってる奴が皆シャックみたいに下手だと思うなよ、バーカ。

8点リードで迎えた残り30秒、最後は美濃さんのスティールから福田さんにボールが渡り、俺へのアリウープで10点差。この日最大の点差がついたところで試合は決し、俺たちCROSSOVERの優勝となった。



その日の夜の打ち上げでは、流石に優勝メンバーということもあってか、普段話さない2・3回生、就活の合間に観戦に来ていたOB、今まであまり絡みのなかった新入生に次々話しかけられた。

流石にこうも話しっぱなしだと息が詰まったので、外の空気とニコチンを吸いに店外に出る。

タバコを取り出して火をつけると、真奈美が店を出てきた。

その左手の中には、先月俺の家から持って帰った1ミリのメンソールがあった。


「お疲れ様。優勝おめでとう」

「サンキュ。火、あるか?」

「ちょうだい」


ライターを差し出すと、真奈美は少し残念そうな顔をして受け取った。


「こないだの逆を期待したんだけど」

「キツいジョークだな」


ふっ、と煙を吐き出して真奈美は目を伏せる。


「本気なんだけどな」


その寂しげな横顔がどうしようもなく愛おしくて、気付けば頭を撫でていた。

けれど、驚いてこちらを見上げる彼女の潤んだ瞳を直視できずに、思わず目を逸らしてしまった。


「まあ、またいつかな」


こくりと手の中で頷いた彼女を横目でちらりと見る。

彼女の頬が赤いのはメイクのせいか、酒のせいか、それとも――


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る