第95話 身長差を覆すために
ズル休みから復帰してしばらくは、真奈美も声をかけてこなかった。
朝練も開始時間ギリギリに着くようにした。
顧問の先生も病み上がりということで大目に見てくれたのも幸いして、特に問題視されることはなかった。
真奈美は、俺と目を合わせることすらしなくなった。
練習中も、クラスの中でも、そして、帰り道でも。
ああ、完全に嫌われたかな、と思った。
1週間、2週間が過ぎて、インターハイの県大会が終わって、中間試験も終わり、部活が再開してもそのまま。
俺自身も、真奈美のことを意識しなくなっていた頃。
「櫻木くん、勝負して」
俺の目の前に、再び真奈美が立った。
真奈美と朝に練習していた頃は女子の練習を眺めることもあったが、あの日からは特にそういうこともせず、女子の練習中は隅で雑用に没頭するようにしていた。
この1ヶ月間、真奈美が何をしてきたのかは、全く知らなかった。
ただ、真奈美の目には、再び炎が灯っていたように見えた。
翌朝の体育館、俺と真奈美は体育館で向き合っていた。
真奈美にボールを渡して、勝負開始。
フリースローラインで待ち構えていると、真奈美がスリーポイントラインから数歩下がったところで足を止めた。
「櫻木くん、あの日、私に『基礎がなってない』って言ったよね」
「言ったな」
「やってみてわかったんだよ。櫻木くんの言うことが正しかったって」
「だろ」
「でもね、やっぱり体の大きさって大事なんだよ。みんなが3年間で成長できるスピードと、私が3年間で成長できるスピードは違う。その分をやる時間はないかもしれないって思った」
「そうかもな」
「でも、私は勝ちたい」
「……そうか」
「じゃ、いくよ」
次の瞬間、真奈美はその場からシュートを放った。
会話中も警戒を解いていないつもりだったが、俺は全くその動きについていけず、ただただボールを見送った。
リングの奥側に当たり、ボールはネットを揺らした。
「よしっ」
「……考えたんだか、やけっぱちなんだか」
地面に落ちたボールを、真奈美にパスした。
「やけっぱちじゃ、ない!」
真奈美は、さらに2歩下がって、シュートを放った。
そして、そのシュートもゴールに吸い込まれた。
「私は! これで勝負する!」
体育館に、真奈美の声が響き渡った。
俺は、ボールを拾って真奈美に手渡す。
真奈美の目には、涙はなかった。
「まぐれだろ、今の」
「まぐれなんかじゃ――」
「――40%」
「え?」
「他の基礎練習は当然死に物狂いでやれ。その上で、シュート練習しまくれ。で、試合形式の練習中に、40%でスリー決めろ。それが出来たら今のはまぐれじゃないって認めてやる」
「……わかった。やる」
出来っこない。
NBA選手ですら、スリーの成功確率40%以上の選手は一流扱いだ。
それを、真奈美に俺は求めた。
「ま、練習くらいなら付き合ってやるよ。基礎練習はいつでもできるから、朝はシュート練習だな。俺もリバウンド練習できるし、丁度いいや」
俺は、ボールのカゴを倉庫から出す。
全部で24個入っているカゴは、1人で押すぶんにはキャスター付きとはいえ若干重い。
「この中のボール、空になるまでシュート打て。左右のコーナー、左右斜め45度、正面の5箇所からそれぞれやる。カゴに24個、今西野が持ってるのと合わせて25個。20本以上決めるまで同じ所でやり直し」
「……わかった。あと、ロングスリーも練習する」
「じゃ、ロングスリー3箇所合わせて8箇所だな。さっそくやるぞ。まず正面から」
その日から、真奈美と俺の特訓が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます