第86話 ナカナオリ

どうして、こうなった。




俺は、真奈美と一緒にPCの画面を眺めている。

その画面には、和泉から借りたエッチなゲームのセンシティブなシーンがフルスクリーンで映っている。

隣人にも配慮して音量は抑えているが、スピーカーで喘ぎ声が再生されているの状態である。


「……あのさ、真奈美。これ、まだ続けるの?」

「続ける」

「拷問だよ、これ……」


和泉は広橋と参考資料として一緒に見てるとか言ってたけど、肝っ玉デカすぎないか?

恥ずかしくて、何も頭に入りやしない。

隣の真奈美は画面を食い入るように見つめているが、恥ずかしがる様子は1ミリもない。


「なるほど……こういうのもあるのか」


どこぞの中年独身サラリーマンの食べ歩きドラマのようなセリフを、顎に手を当てながら真奈美は言う。

ちょっと前の激怒はどこへ行ったのか。


「えっと、怒って、ないの?」

「んー? もう許した」

「えっ……と?」

「さっきの慎吾の顔見たら、本当に反省してるんだなって思って。で、私も慎吾のこと何も考えずに、また暴走して言い過ぎたなって」

「で、なんで一緒にゲームやってるのかな……?」

「慎吾がどういうの好きなのか、ちゃんと知りたいじゃん?」

「それが拷問だって話なんだけどなあ……」


それからは、真奈美のインタビューが始まった。

どのシーンがいいとか、どのセリフがいいとか。

本編のシーンも、エッチのシーンも全部根掘り葉掘り聞かれた。


「おっけ。じゃ、次の子行こうか」

「へっ?」

「え? だって全員のルートやらないとゲームクリアじゃないんでしょ? 私、『ゲームクリアするまではいい』って言っちゃったしね」


嘘だろ。

これ、5人分やるのか。



結局、3日かけて真奈美と一緒に全員のルートを読み切った。

共通ルートからの読み直しもあったので、正直疲れた。

座りっぱなしで腰が痛い。


「んん……」


腰を押さえて立ち上がると、真奈美がベッドを指さした。


「腰痛いの? マッサージしてあげる」

「えっ」

「いいから、ほら」


真奈美に言われるがままにベッドにうつ伏せになると、お尻のあたりに真奈美の体重がかかった感覚がした。


「いッ……」


ぎゅうぅと、親指を押し付けられた。

痛い。

激痛である。


「ごっ、ごめ、大丈夫?」

「もうちょい、優しく」

「わかった」


恐る恐るといった感じで、真奈美が腰を押してきた。

ゆっくり、ゆっくりと力を強くしてきた。


「あ、それくらい」

「ん」


ちょうどいい強さで、止めてもらう。

真奈美はその強さをキープしつつ、じっくりと腰回りをほぐしていく。

少し声が漏れそうになるが、何とか我慢した。

疲れている所が、的確にほぐされていく。


「気持ちいい……」

「そう? よかった」


これは、すごい。

真奈美の才能に、またひとつ気づいてしまった。





「おーい、慎吾ー。終わったぞー」

「うぇ……?」

「おはよ」

「俺、寝てた……?」

「ぐっすりとね」

「ごめん」

「いいよ。私のが気持ちよかったって証拠でしょ」


真奈美は、どさっと俺の横に並んでうつぶせになった。


「はい、交代」

「了解」


やっぱり真奈美も腰が辛いらしく、トントン、と腰のあたりを握りこぶしで叩いた。

俺は真奈美に跨って、なるべく弱めに力を入れる。

真奈美にしてもらったように、少しずつ押す力を強くしていくと、真奈美が「そこ」と言ってきたので、その力をキープしつつ、真奈美の腰をほぐしていく。


「ぁ……んっ」


真奈美から、声が漏れ出始めた。


「痛かった?」

「ん-ん。気持ちいいよ」

「良かった」

「ね、慎吾」

「ん?」

「これ、さっきの3人目の子のやつみたいだね」


確かに言われたおとり、さっきのゲームではお互いマッサージしてから行為に及ぶシーンがあった。

そういうことを言うということは、つまりそういうことなのだろう。


「じゃ、しっかり全身マッサージしてやるよ」

「お願い」


俺たちは、無事をした。

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