第36話 告白(後編)

真奈美が選んだのは、俺ではなかった。

それに気付くまでは、数秒を要した。

――どうして。

そんな言葉すら、出ない。

喉が渇き、唇は張り付いて取れない。


「平石くん」

「西野」


自分でもまさか選ばれると思っていなかったのだろうか。

平石は、一瞬困惑の表情を浮かべたが、すぐに安心したような笑顔を浮かべた。


その笑顔は、すぐに崩れた。


「ごめんなさい」


真奈美が放った言葉は、平石が期待したものではなかった。


「私、平石くんとは付き合えない」

「「……えっ?」」


俺と平石が、同時に言葉を発した。


「私、慎吾が好きだから」


真奈美は、俺の方に向き直り、さっき振り解いた俺の手を握り直す。


「ごめんね、平石くん。ここからは、ふたりっきりにしてくれるかな」


平石は何も言わず、引き下がっていった。

その目には、涙が浮かんでいたように思う。







平石がコートに戻るであろう時間まで、俺たちは沈黙を続けた。


「――私ね」


その沈黙を破ったのは、真奈美だった。


「慎吾が知らない所で、結構平石くんにアタック受けてたんだよ。告白は、さっきが初めてだったけど」

「そう、だったのか」

「こないだは怒っちゃったけどさ、頭冷やして考えたら、慎吾の言い分もわかるなって。私も、しっかりと断ってからにしようって思った。ごめんね、さっきの時点では、まだケリがついてなかったから」


俺の右手を握る真奈美の両手に、俺はそっと左手を添えた。

震えや、温度、汗、握る強さ。

お互いの手を通じて、沢山の感情が流れ出して、流れ込む。


俺は、もう1度、真奈美の両手を強く握った。


真奈美も、強く握り返してくれた。


「真奈美」


真奈美の目を、しっかりと見て、俺は告げた。


「俺と、付き合ってください」


俺の目を、しっかりと見て、真奈美は告げた。


「はい。よろしくお願いします」








告白に成功したはいいものの、なんとなく気恥ずかしくなって、ぱっと手を離してしまった。

残念そうに手を見つめる真奈美が、離したことへの罪悪感と後悔を一気に増大させた。

そんな真奈美の手ではなく、真奈美自身を、俺は抱きしめた。

黙って、真奈美は俺の背中に手を回してきた。



体育館から聞こえるバッシュと床の摩擦音、そして時々鳴るホイッスルの音だけが、俺の耳に届いていた。



「……サークルの後、時間あるか」

「……ある」

「……泊まってけよ」

「……うん。一旦、帰っていい?」

「もちろん」

「じゃ、戻ろっか」

「そうだな」



丁度、男子側のガチマッチ終了を告げるブザーが鳴った。

それを合図に、俺たちも抱擁を解いた。



「ごめん、急がなきゃだ」

「そうだな」

「んっ!?」


俺は、少し屈んで、真奈美の唇にエールを送った。



「頑張ってこいよ」



「……テクニカルファウル」








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