第59話 暑い日こそ
8月中旬から下旬にかけて。
1年で最も暑い季節。
とにかく、暑い以外の言葉が出てこない。
冷房の効いた部屋にいればそれも耐え凌げるが、生活のためには外に出なければならない。
俺や真奈美がお互いの部屋を行き来するのもそうだし、食料品の買い出し、アルバイト、サークル。
特にサークル。
体育館の中はとにかく暑い。
日焼けをする心配がないのは女子にとってまだありがたいのかもしれないが、屋根のせいで逆に湿気がこもる。
「あつい」
「我慢しなさい、帰ったらクーラーつけてやるから」
「ありがとう、愛してる」
「愛の基準が随分低くなったもんだな」
「私は慎吾の一挙手一投足を愛してるからね」
「……このクソ暑い時にそんなセリフやめてくれ」
「ふふん、参ったか」
「そもそも勝負なんかしてねえよ」
わしゃわしゃと頭を乱暴に撫でてやると、運動後の熱が髪の中から伝わってきた。
真奈美は嫌がっているが、俺の体温を上げた罰をしっかり受けるがいい。
「もー、今日の晩ご飯作ってあげないから」
「すいませんでした」
それを言われちゃおしまいだ。
さっと手を引き、乱れた髪を整えてやる。
「荷物持ち、させていただきますので」
「とーぜんでしょ。じゃ、着替え待ってて」
「あいよ」
更衣室に入る真奈美を見送ると、その後を追いかけるように広橋と三尋木が入っていき、その2人の彼氏たちが俺の元へ来る。
「お疲れ」
「お疲れ様です」
付き合いたてホヤホヤの同回生と、付き合ってちょうど1ヶ月の後輩。
汗を吸った上着や短パンを脱ぎ、制汗スプレーを吹きつけ、普段着のTシャツとズボンに着替える。
ふと見えた和泉の上半身には、いくつか跡がついていた。
「お〜」
「これは」
「えっ……うわ」
俺とバッシーの視線で、和泉もその存在に気づいたようだ。
生暖かい目線を送る俺とは対照的に、バッシーはしげしげとそれを見つめる。
「なんですか」
「いや……すげえなって」
「なにがですか」
「なあ和泉、どうやって誘ってるんだ」
「……その、基本、向こうからなんで」
「ひょえー。で、これ?」
「……まあ、はい」
「サクは?」
「なんで俺なんだよ」
「見ての通り、和泉が参考にならんかった」
「6:4か7:3ってとこ」
「6か7が?」
「あっち」
「……すげえな」
その割合になる原因は、間違いなく俺らの性格だと思う。
一度始まれば己の欲を出すことに支障はないが、始めることができないタイプ。
俺は最近誘い方を覚えたけど、和泉は……まあ、相手が広橋なのもあるし、そうなるのは致し方ない。
「まあ、流れよ、流れ」
「そうですよ。三尋木から来るかもしれないじゃないですか」
「それは男としてダメな気がするんだよな」
「なんだ、俺らがダメって言いたいのか」
「そうは……言ってるわ」
「実際、なにも言い返せないですからね」
「確かにな」
「あ〜〜〜〜、美濃さんとかなら教えてくれるかなあ」
付き合って即事に及んだ俺らとは違って、バッシーはまだらしい。
またアシストしようかと思ったが、情事までお膳立てされたくはないだろうし、静観がベストだろう。
更衣室を出ると、女子組は意外にも早く帰宅の支度を済ませていた。
「慎吾、やっぱ今日私の家でいい?」
「いいけど、なんで?」
「鍋パしよう」
「このクソ暑い日にか?」
「暑い日こそ、辛い鍋で汗をかくんだよ」
「えぇ……」
「仕方ない、嫌なら慎吾抜きで5人だね」
「は?」
「歩と文は来るよ?」
「じゃあ3人じゃん」
「大輔、来るよね?」
「剛さん、来てくれますよね?」
3人の圧力に、俺たちは屈した。
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