第50話 Luckiest Unlucky?
和泉大輔は、焦っていた。
2週間ほど前のことである。
同期の女子であり、尊敬する先輩の彼女である西野真奈美に、「広橋の家に行く」と伝えると、「泊まる口実に自転車をパンクさせればいい」と言われた。
和泉は、それを半ば冗談と捉えていた。
しかし、その日から毎日自転車にしっかり空気を詰め込むようになった。
そのような事故を口実に朝帰りなど、自分の価値観ではもってのほかだからだ。
それに、広橋の家に行く日は、彼女の誕生日である。
告白していないとはいえ、流石の和泉自身もお互いいい感じになってきているのはわかっている。
こないだは、手だって繋いだのだ。
たかがその程度で誇るなと言われそうだが、和泉大輔 a.k.a. 男子校出身彼女いない歴19年目突入童貞野郎からすれば、非常に大きなことなのである。
その上で「誕生日に」「2人きりで」「広橋の家で」時間を過ごすとあれば、これはもう、そういうことだ。
とはいえ、実は和泉はその日に告白するつもりはない。
1ヶ月後に、清内キャンパスの最寄りから1駅隣、皆川駅から歩いてすぐの所で、皆川花火大会がある。
そこが、和泉大輔が自身に定めたXデーだ。
さて、当日、広橋歩には自分の誕生日にもらったネックレスに合わせて、色味の似ているペンダントを贈った。
ちょっと予算から足は出たが、これが1番ビビッと来たのだから、仕方がない。
ちょっとペア感を意識したのはやりすぎだったかなと思ったが、広橋には気に入ってもらえたようだ。
ケーキを食べつつしばらく話し、日付が変わる頃。
既に、広橋の誕生日ではなくなった頃。
和泉は名残惜しい気持ちを押し殺して、広橋のアパートの駐輪場に停めた自転車を出し、跨る。
ガクン。
嫌な音と共に、後輪側が沈む感覚がした。
広橋歩は、焦っていた。
2週間ほど前のことである。
元片想い相手であり、同期の女子の彼氏である櫻木慎吾に、「和泉大輔が家に来る」と伝えると、「泊まる口実に自転車をパンクさせればいい」と言われた。
広橋は、それを半ば冗談と捉えていた。
しかし、その日から駐輪場に小石や危険物が落ちていないかをチェックするようになった。
そのような事故を口実に朝帰りしてくれるなら万々歳だが、あくまで「事故」でなければならず、自分が何か仕込むのは間違っていると感じていた。
それに、和泉が家に来る日は、自分の誕生日である。
告白されていないとはいえ、流石の広橋自身もお互いいい感じになってきているのはわかっている。
こないだは、手だって繋いだのだ。
たかがその程度で誇るなと言われそうだが、広橋歩 a.k.a. 高校時代経験人数2桁ビッチからすれば、あの純情異文化育ちの和泉から手を繋いできたことは、彼女にとって大きな一歩なのだ。
その上で「誕生日に」「2人きりで」「広橋の家で」時間を過ごすとあれば、これはもう、そういうことだ。
いっそ、広橋はその日に告白してやろうとすら思っていた。
1ヶ月後に、清内キャンパスの最寄りから1駅隣、皆川駅から歩いてすぐの所で、皆川花火大会がある。
そこに、彼女として、和泉大輔と出かけたいのである。
さて、当日、和泉大輔には彼の誕生日にあげたネックレスに合わせたのだろうか、色味の似ているペンダントを貰った。
これ以上なくビビッと来る発色と造形で、和泉のセンスに感服する。
しっかりペア感も意識されており、広橋はプレゼントをいたく気に入った。
ケーキを食べつつしばらく話し、日付が変わる頃。
既に、広橋の誕生日ではなくなった頃。
広橋は名残惜しい気持ちを押し殺して、和泉がアパートの駐輪場に停めた自転車を出すのを、ただ見送る。
ガクン。
嫌な音と共に、和泉が自転車ごとバランスを崩した。
「……なあ」
「……うん」
「「パンクだ、これ」」
和泉大輔は、
広橋歩は、
焦っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます