第63話 イチャイチャゲーム(えくすとら)

イチャイチャゲームも終わって、そろそろ夜も深くなってきた頃。

酒類やジュースを片付けて、4人を返したら、やっと真奈美と2人きりの時間だ。


「いやー、楽しかったね」

「そうだなあ。面白いもの、いっぱい見られたし」

「文、ずっと真っ赤だったもんね」

「バッシーもよくやるよなあ。ゲームにかこつけて家誘ってたし」

「だね。あの4枚にはあんなセリフなかったし」

「いよいよかね」

「いよいよだろうね」


さて、家に帰ってからバッシーや三尋木がどうベッドに誘うかは気になるところではあるのだが、ここは彼のために余計な想像はしないでおいてやるとしよう。


「あ、そういえば残り、なんて書いてあったんだろ」

「見てみようか」


俺は箱からクジをいくつか掴み、広げる。

「『愛してる』と言って照れた方が負けのゲームをする」は、俺の入れたやつ。

「男子が女子にお姫様だっこ」とな。いい趣味してるな。

「相手のお腹を撫でる」って、これは不健全でアウトじゃないのか?

「相手の首筋にキス」は絶対アウトだろ。っていうかキス命令多すぎ。キス魔でもいるのかよ。


「おー……けっこうヤバいのもあるねえ」

「真奈美は、何書いたんだ?」

「んーとね、愛の言葉を囁くやつと、いま慎吾が引いたお姫様抱っこ。あと、男子が後ろからハグするやつ」

「え、マジで? 俺もそれ書いたんだけど」

「ほんと?」


クジの箱を逆さにして全部出して、中身をチェックする。

すると、俺が入れたものと一言一句同じワードのクジが出てきた。

真奈美の字で書かれているため、三尋木が引いたのは俺のクジだったらしい。


「いやー、文の引いたクジの筆跡まで見てなかったけど、あれ慎吾のだったんだ」

「真奈美が大笑いしてたの、自分が入れたからだったんだな」

「そうそう。あー、そっか。慎吾にお礼言われたのって、私が入れたことにしてあげたと思ったからか。なるほどね」

「ちょっとした謎が解けてスッキリしたわ」

「慎吾は他に何書いたの?」

「和泉が引いた膝枕と、あとは愛してるゲーム。わかる?」

「うん、照れた方が負けってやつだよね。慎吾、それやりたかったの?」

「いや、これはバッシーと三尋木がやったら面白そうだなって」

「へえ。他は?」

「……まあ、想像に任せるけど」

「私は、慎吾にやってもらいたいこと書いたんだけどな」

「……わかったよ。ほら、おいで」

「やった」


俺の前に座り直し、もたれかかってきた真奈美を、後ろからそっと抱きしめる。

真奈美が不満気に「んー」と唸るので、ちょっと腕の力を強めにすると、どうやら満足してくれたのか、さっきの「んー」よりちょっと高めの音階の「んー」が出た。


「ほら、愛の囁き、待ってるぞー」

「マジ? それも?」

「当然でしょ。ほら、はーやーくー」


腕の中でじたばたと動き、愛の言葉を催促する真奈美を、さらに強く抱きしめる。

動けなくなった真奈美の右耳に照準を定めて、俺は囁く。


「愛してるよ」

「知ってる。私も、愛してるよ」

「真奈美の全部が好きだ」

「私も、慎吾の全部が好き」 

「とか言って、耳が真っ赤な真奈美も可愛い」

「う、うるさい」

「一生、離さない」

「……もう、離れないよ。私も」

「ベッド、行こうか」

「……うん」


俺は真奈美をお姫様だっこで抱え上げると、そっとベッドまで運んで、座らせた。


「じゃ、膝枕してくれ」

「……今の流れからそれは、違うと思うなぁ」

「いやー、俺のリクエスト消化がまだだからなー」

「もう、それを言われちゃしょうがないな。はい、おいで」


ぽんぽんと叩かれた真奈美の太ももに、俺は頭を乗せる。

ああ、なんという極楽浄土だろうか。

俺を見下ろす真奈美の目が、母性を感じさせるものに変わった。

和泉の気持ちもわかる。彼女の膝枕は、彼氏をダメにするのだ。

思わず寝そうになると、頭をこつんと叩かれてしまった。


「こら。寝ない」

「ごめん、気持ちよすぎて」

「ダメです。ちゃんと私の隣で寝なさい」

「せっかく牡蠣たくさん入れてもらったんだし、頑張らないとな」

「わかってるなら寝るな、ばーか。また前みたいに襲うぞ」

「それは勘弁してほしいな。よっと」


俺は体を起こして、拗ねる真奈美にキスをする。


「……ん」

「……倒すよ?」

「ん」


さてと、最後のリクエストの消化をしないと。


「愛してるよ、真奈美」

「愛してるよ、慎吾」

「愛してるよ、真奈美」

「愛してるよ、慎吾」





このゲームの決着は、いつまでもつかない。




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