第43話-a 和泉と広橋

「やっほ、隣よろしくねー」


元々端で少し縮こまったように座っていた和泉の横に、広橋が座る。

「おう」と生返事しか返さない和泉のある変化に気付いた広橋は、じろじろと彼を見つめる。

和泉に更に近づき、すんすんと匂いを嗅いだ後、広橋はぱっと顔を明るくさせた。


「和泉くん、あげたやつ使ってくれてるんだ」

「まあ、せっかく貰ったんだし、使ってみようかなって……」

「嬉しいな。バイトでも使ってくれてたりする?」

「もう片方のやつ使ってる。あんまり香り強いとダメだって」

「そうなんだー。今度写真撮って送ってよ!」

「『FOREST』来ればいいじゃん」


その言葉で、顔を綻ばせていた広橋の口角と視線が少し下がった。

またすぐに口角を上げ直してはいるが、空笑いであることは明白だった。


「……あはは、そうだね」

「来づらい?」

「……うん、ちょっとだけ。でも、和泉くんがどうしても来てほしいって言うなら、行こっかな〜」


広橋は、柔らかく微笑んで和泉を見つめる。

その視線に耐え切れず、和泉は顔ごと視線を逸らしてしまった。

けらけらと笑いながら、広橋はジュースに口をつけた。


「なんてね、じょーだん、じょーだん。普通にバイトで疲れてたとかだから、何かあるわけじゃないって」

「……俺が来てほしいって言えば、来てくれるんだよな」

「……へ?」


和泉は、広橋の目を射抜くように見つめて、胸の内をその視線よりも真っ直ぐに伝えた。


「来てよ。俺、再来週の火曜、誕生日なのにバイト入ってんの。祝いに来てくれない?」


その視線は、広橋が返事する前に石橋・三尋木ペアから回されたマイクによって逸らされてしまった。




「待ってるから。よし、何か歌おう」

「……うん」








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