第43話-b 石橋と三尋木
和泉と広橋のデュエット曲を流し聴きしながら、三尋木は先程の石橋とのデュエットの感想会をスタートさせていた。
「石橋さん、普通の歌あんまり得意じゃないんですね」
「そりゃ、この声じゃなー。普段もHook部分はサクとウタに任せっきりだし。ごめんな、さっき三尋木の歌台無しにして」
「いえいえ、私は石橋さんの声好きですよ。助けてくれた時も、その声だったからナンパ野郎は逃げていったわけじゃないですか」
「使用用途、それぐらいしかないからなあ。逆にナンパする時とかこの声じゃ即逃げられて終わりよ?」
「あはは、確かにそうかもしれませんね」
その後の、「今の私ならその声でナンパされてもOKしちゃいますけど」という呟きは、和泉と広橋の熱唱によってかき消されてしまった。
「なあ、三尋木」
「はい」
「広橋ってさ、立ち直れてんの?」
逆隣の広橋に聞こえないように、石橋は三尋木に尋ねた。
三尋木は、少し返答に詰まる。
「俺のダチがフった子だからさ。俺がサクの味方なのは変わらないけど、それでもサークルの先輩としては、後輩が失恋のショックで立ち直れなくてサークル来なくなるとか、辞めるとかは嫌なわけよ」
「……前を向く努力は、してると思います。私に見えない所で、歩ちゃんがどうしてるかまでは、ちょっとわからないですけど」
「そっか。先輩じゃフォローできない所色々あると思うから、同回の三尋木には色々迷惑かけるかもしれない。その時は、頼むよ」
「……あの、石橋さん」
「ん?」
「私が『辞めたい』って言ったら……引き留めてくれますか?」
「当たり前だろ。三尋木だって、大切な後輩なんだから」
「ありがとうございます。石橋先輩」
石橋剛にとって、自分は広橋歩、和泉大輔と同格の、ただのサークルの後輩。
わかってはいたが、改めてその事実を突きつけられると少し胸にくるものがある。
この人の、特別になりたい。
そんな思いをこの場で吐き出すこともできず、三尋木は無理矢理ドリンクと一緒に胃の中に押し込んだ。
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