第3話 BANG!
翌日。
近場の体育館を借りて行う、新歓レクの日。
大学内の体育館は、体育会の大学公式の運動部が予約しているため、清キャンの少し南にある清内体育館で新歓レクは行われる。
普段の活動も基本的にはここで毎週月曜と木曜に行う。
上回生はCROSSOVER公式ユニフォーム着用で、新入生は動きやすい服装での集合となる。
「はい、新入生のみんな、今日は集まってくれてありがとう。昨日のBBQ来れてなかったよって人も、今日は楽しんでいってください。
サークル長の福田さんを筆頭に、女子部長の
一通り上回生の自己紹介が終わると、次は新入生の番。ポジションは自分が中学高校でやっていたポジションでもいいし、新たに初めてみたいポジションでも良いことになっている。ちなみに、俺は中学からずっと
「文学部1回生の、西野真奈美です。ポジションは
真奈美も、高校時代と変わらないポジションで行くらしい。
花形ポジションである
新歓期間は上回生が自分のポジションを新入生に譲って多くプレーさせてあげるのだが、普段は完全に平等にローテーションする。
ちなみに不人気ポジションのCはむしろ人手不足なので、
まあ、おかげで大学間のサークル交流戦になると沢山試合出られて楽しいんだけど。
自己紹介タイムが終わると、アップとストレッチ。その後、軽い練習をして、サークル内でチームに別れての試合。
基本的には新入生4人、上回生4人の8人チームを組んでる、試合の中で上回生の指示のもとローテーションする。
俺はいつものメンバーであるウタとバッシーの3人組、そして3回生の
新入生の4人、
うん、知ってた。誰もC希望いないから、俺の出場時間ちょっと長めなんだろうなとは覚悟してたよ。
そんなこんなで試合が始まったが、新歓で真面目にディフェンスをしたり、派手なプレーで新入生を潰しにかかるような上回生はいない。あくまで新入生歓迎レクリエーション会なのだから、新入生になるべく多くのパスを回して、プレーさせる。
まあリバウンド取るのは上回生の仕事なんですけどね。ごめんよ新入生。そっちで魅せたいタイプの人間がいるなら譲るんだけどね。
まあ、こういう地味な仕事をせっせとやる人間がタイプの女子だっているんだよ。
……真奈美とか。
ふと女子コートの方を見ると、女子の試合の向こう側にこちらを見ている真奈美の姿が目に入った。
いや、昨日は吹っ切れたとは言いましたけど、こんな遠くから一目で分かっちゃうくらいには未練タラタラだったりするんですねこれが。
でも、あのまま俺が「よりを戻そう」なんて言っても、それは正しい関係に戻ったとは言えないだろうし、きちんとアタックしてもらって、きちんと俺が惚れなおすのが1番だと思っている。
まあ、俺より良い人が見つかったらそっちに行けばいいわけだし。本音を言うと嫌だけど。
新入生入りのチーム戦が終わると、ここからは有志によるガチめの試合がスタートする。コートも片面のみの使用にして、もう片方は1on1やシュート練習をしたい物が好き勝手に使う。
男女どちらが先に使うかは、基本的にジャンケンになる。勝った方が先に使う、というルールで固定されており、今日は根来さんが福田さんに勝ったので、女子が先となる。
もちろん新入生がこの試合に参加しても良く、根来さんが「誰かやりたい人いない?」と新入生に声をかけるが、上回生に混じってプレーしようという人間はいない。
「はい、やりたいです」
ただ1人、真奈美を除いて。
女子に上回生に挑む骨のある奴がいると、普段この時間に別面で遊んでいるタイプの人間も観戦に加わった。
10分ハーフと短い時間ではあるが、それゆえに全力を出しやすい。
ティップオフの後、ボールを持ったのは根来さんだった。
相手コートに進むと、すぐさまハーフラインを跨いだばかりの真奈美にパス。
実力を見てやろう、ということか。
その意図を察したのか、真奈美のマッチアップには小刀さんがつく。
副長VS新入生、全観客の視線が真奈美にあつまる。
真奈美は1度ドリブルをついて――1度だけドリブルをついて、すぐさまシュートを放った。
もちろん距離を取って出方を伺っていた小刀さんのブロックが間に合うはずもなく、真奈美の長ロングレンジスリーポイントは見事に成功した。
ボールがゴールに吸い込まれた瞬間、観客席がざわめく。
「なあ、サクの元カノ、やばくね?」
「『サクの元カノ』って呼ぶな。西野真奈美って名前がちゃんとあるだろ」
「悪い。西野さん、やばくね?」
「スリーポイントだけは死ぬほど練習してたんだよ、ディフェンスとかドライブめちゃくちゃ下手だけどな」
「あんなとこから打つ練習もしてたのか?」
「してた」
「マジ!?」
「今はどうか知らないけど、カリーとかリラードのスリーの動画とかめっちゃ漁ってたからな」
スリー狂い。
高校時代、真奈美がよく言われた言葉だ。
ドリブルも下手、ディフェンスも下手、サイズもそんなにあるわけではない真奈美が、スタメンの座を掴むために死に物狂いで続けたシュートの練習。
その練習に付き合ううちに、リバウンドがどんどん得意になっていった。
真奈美は、このスリーポイントを「2人の努力の結晶」と言っていた。
俺の努力がどこに入っているかは不明だが、真奈美曰く「慎吾が付き合ってくれなかったらあんなに練習できなかった」とのことなので、そういうことにしておいた。
そして、真奈美はスリーが決まると、決まって人差し指と中指を立てて俺に向けていた。
これはピースサインでもVサインでもない。ただ、「2人」の意味で、数字の2を指で表しているだけだ。
その「2」は、あれから1年以上が経った今日も、俺に向けられていた。
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