最終話 西野のおしまい、櫻木のはじまり
真奈美との再会から、6年。
俺は、いよいよこの瞬間を迎える。
バージンロードの扉が開いて、真奈美がお義父さんにエスコートされ歩いてくる。
ベール越しでも、真奈美は綺麗だった。
指輪の交換の時には、何度も練習したのに緊張で手が震えた。
誓いの言葉の後のキスは、今までしたどんなキスよりも甘かった。
退場後のブーケトスが、ちょうど広橋と三尋木の間に行ったせいで、次の結婚がどっちになるのか友達同士なのに争いが起きかけたのには笑わせてもらった。
披露宴では、友人代表として美濃さんにスピーチをお願いした。
バッシーとウタに話を持っていったが、「俺たちは余興要員だ」と断られてしまった。
実際、俺の1回生時代をご丁寧にパワーポイントを使ってまで、さんっざんにイジってきやがった。
覚えとけよ。特にバッシーは。
三尋木と付き合ってからのだらしない顔との比較スライド作ってやる。
真奈美がお義父さん、お義母さんに感謝を伝えている間、ふたりは号泣していた。
俺のスピーチでは親父も母さんも泣かなかったのに、何が違うのだろうか。
娘を嫁にやるというのは、やはり違うものなのだろうか。
披露宴が終わってホテルに戻ると、どっと疲れが襲ってきた。
結婚初夜とはよく言うものの、俺と真奈美にそんな気力は残されていなかった。
真奈美を抱きしめて寝られるだけで、十分幸せだった。
たっぷりと眠った後は、沖縄への新婚旅行。
日常とは切り離された世界で、真奈美と過ごす特別なひととき。
夕焼けの見えるコテージで、俺と真奈美は改めて将来を誓い合うキスをするのだった。
「って感じかな」
「……ちょっと妄想が具体的すぎて、キモい」
「おかしくない!? 結婚式どんなのがいいかって聞いてきたのは真奈美の方じゃん!」
「そうだね。でも、私は『慎吾があげたい理想の結婚式』を聞いたのであって、『慎吾と私の結婚式の妄想』は聞いてないんだよね。そもそも、慎吾の相手がまだ私だと決まったわけじゃないしー? 現状、事実なのは私たちの再会から6年ってだけだしー?」
「屁理屈こねやがて……なんのために、こんな所連れてきたと思ってんだよ」
「さあ、さっぱりだよ。私には、慎吾のポケットが何故か膨らんでることくらいしか、わかんないな」
「……ったく、はなから全部わかってたくせに。ニヤニヤしやがってさ」
「そりゃ、ニヤけちゃうでしょ。やっとだもん。ふふ、ふふふっ」
「……真奈美」
「……うん」
「俺と、結婚してください」
「はい。よろしくお願いします」
「指輪、つけてくれるか」
「慎吾に、つけてほしいなぁ」
「はいよ。……どう?」
「うん、すっごく綺麗……えへへ、だめだ、ニヤけが止まんないや。嬉しい。本当に、嬉しい」
「ありがとう。あと、誕生日おめでとう」
「あ、えっ、日付変わっちゃった?」
「変わったよ。つーか、そのタイミング待ってプロポーズしたんだから」
「あっはっは、焦らすなぁと思ってたら、そういうことかあ。慎吾も、誕生日おめでとう」
「ありがとう。あと、これ。忘れないうちに。真奈美が記入する所、書き込んでもらっていいかな」
「えー、急に事務的ぃ。もうちょっとだけ、ロマンチックな気分に浸らせてもらいたかったのに」
「結婚記念日は、俺らの誕生日にするって決めたろ。このままボケっとして役所行き忘れたらどうすんだよ」
「そうだけどさぁ」
「……書き終わったら、その、最高にロマンチックな夜にするから」
「ふふっ。顔、赤いぞ」
「うっせ。はよ書け」
「はーい。さてと、西野真奈美は、これでおしまいだね……はい、書けたよ」
「サンキュ。じゃ、起きたら一緒に行こう」
「うん」
「……それじゃ、真奈美」
「うん、いいよ。櫻木真奈美のはじめて、もらってくれる?」
「もちろん」
「これからもよろしくね、あなた♪」
Fin.
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます