第41話 合コン計画
ウタとバッシーが帰った後、俺は部屋に残った真奈美とダラダラ時間を潰していた。
互いの体に触れ合うことはせず、アルコールとニコチンを少しずつ体内に取り込みつつ、今シーズンのハイライトプレーを眺める。
そんな時間には当然飽きがくる。
俺は、さっきバッシーが言い出した馬鹿げた提案について話すことにした。
「なあ、さっきバッシーが合コンの話してたじゃん」
「うん。なに、やりたいの?」
「いや、合コンって体でなくさ、偶然俺らと真奈美のグループが鉢合わせた感じでいけば、カップル成立しなくても俺らはノーダメかなって」
「うーん、それはあるかもだけど……」
渋る真奈美の気持ちもわかるが、大切な友人と恩人の後輩の力になるため、俺は真奈美を説得することにした。
俺に好意を向けてくれた後輩と、俺に尊敬の念を向けてくれている(はずの)後輩をダシにして。
「バッシーはともかくとしてさ、和泉のアシストにならないかな。和泉とウタとバッシー誘ってカラオケ行くから、偶然鉢合わせる感じで」
「なるほどね。じゃあ、歩誘ってみる。文と凛音も誘えば来ると思うし」
凛音とは、真奈美と同じく浪人組の経済学部1回生の、
CROSSOVER所属だが、「体を動かす程度で楽しくやりたい」タイプで、ガチマッチの時間は未経験者組で別コートで遊んでいることが多い。
練習中は自然に経験者組と未経験者組で分かれてしまうので、サークル中に一緒にいる所はあまり見ないが、講義はだいたい一緒に受ける程度の仲らしい。
「あれ、七瀬とは元々だったのは知ってるけど、三尋木とも名前呼びするくらいにはなったのか」
「うん。歩と仲良くなったら、自然にね」
「なるほどね。一応聞くけど、七瀬って和泉狙ってたりすんの?」
「ないと思う。経済の男子に
「なるほどね」
「文のことは聞かないんだ」
「三尋木の好きな男が、和泉じゃないのくらいはわかる」
「確かに」
和泉狙いの女子がいないことを確認した上で、日程調整に入った。
和泉、三尋木。頑張れよ。
次の金曜の午後8時10分。
俺が待ち合わせに10分遅れてカラオケ屋に着く。
「ごめん、遅れた」
「これくらいなら全然待ったうちに入らん。ガソリン入ったか?」
「入った」
「原付にガソリンを入れ忘れていたので遅れる」ということにして、わざと遅れたのだ。
そこに、別の場所で8時に待ち合わせて移動してきた真奈美たちが合流する予定となっている。
手筈通りに4人が道を曲がってカラオケ屋に向かって来たので、俺がなるべくわざとらしくないように真奈美を見つけ、呼ぶ。
「……あれ? おーい、真奈美!」
手を大きく振ると、向こうも振り返してきた。
やや駆け足気味にこちらに寄ってくる真奈美が可愛くて、突進してきたら抱き止めてやろうと決意した。
「慎吾、約束あるって、カラオケだったの?」
「そうそう。真奈美もか?」
「そりゃ、一緒に過ごそうとしたのに先約があるって断られちゃったし? 歌ってストレス発散でもしてやろうかなって」
台本通りのやり取りをして、「それならいっそ8人で大きな部屋を借りよう」という流れに持っていく。
少し料金はかさむが、サークルの打ち上げで使うパーティールームが空いていたので、そこに入ることにした。
流石に8人だとかなり広く、スペースがスカスカになってしまうが、いい感じになった2人が他から距離を取るには都合がいい。
ウタとバッシーには突発的合コンとして部屋のチョイスを納得させ、2回生3人できちんと全額支払った。
ドリンクバーを男性陣で取りに行くと、道中で和泉が囁きかけてきた。
「……櫻木さん、仕組んでくれたんですか」
いまいち俺たち3人組に自分が追加で誘われた上、「きっちりオシャレして来い」と言われて理由に納得がいっていなかった和泉だが、偶然俺とカラオケ屋の前で会った真奈美が広橋を連れていたことで合点がいったようだった。
「ありがとうございます」
「何のことだかわからんから、感謝されてもな。ま、頑張れ」
「はい」
堅苦しい挨拶もなしに、全員分のドリンクが来たところで即乾杯。
ウタとバッシーが「俺と真奈美のデュエットから始めよう」などと言い出すと、他のメンバーがそれに悪ノリで乗っかってきた。
その中に広橋もいたことに安堵を覚え、俺と真奈美はマイクを取る。
「そういや、あの日以来か」
「そうだね。今度は、ふたりきりじゃないけど」
「そうだな。歌うか」
広橋に、寝落ち部屋で宣戦布告を受けた日。
広橋と入れ替わりで入ってきた真奈美と、大学生になって初めてデュエットした日。
今思い返せば、あの日が大学生活で初めて真奈美と2人で一緒に寝た日でもあったっけ。
「多分ウタとバッシーしか知らない曲だけど、いきまーす」
あの日と同じ、MIDORIの曲。
今日は、俺も真奈美も噛まずに歌い切れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます