第19話 先輩のパス
「……そうか、マジかあ……」
トイレという名目で席を立ち、外で1人タバコに火をつける。
もちろん俺は和泉の恋を応援したいし、それは広橋の想い人が俺でなくなればいいと言う思いからではない。相手が真奈美と彼氏持ち以外だったら誰だって応援する。
けれど、和泉としてはどうだろう。もしかしたら、俺こそが最大の恋敵であり、邪魔者であることを既に知っているかもしれない。
そんな相手に応援されて、果たして嬉しいのか?
人によっては、「俺はいらないから、お前にやるよ」って言われてる気分にならないだろうか。……さすがに捻くれすぎかね。
とにかく、この件については深入りをよしておくべきなのかもしれない。
でも、和泉を応援したいのは本当だからなあ。なんか、何もしなきゃそれはそれで「俺が広橋のこと好きなの知ってるのにキープ扱い続けるのか」的な勘違いされそうだし……流石に自意識過剰か。
「あ〜〜〜、わっかんねえもんだなあ」
喉に何かが絡まったようなガラガラ声が、煙と共に空中に消えていった。
「……で、俺んとこに来たと」
2次会まで参加した後、俺は美濃さんのアパートに来ていた。
「はい。情けないですけど」
「友紀が明日朝からバイトで命拾いしたな」
「間違いないです」
小刀さんが同席していたならば、確実にビンタの1つは貰っていただろう。拳骨3つくらいまである。
「和泉とサシで飲んで話聞いたらいいじゃねえか」
「俺からそれ誘うんですか」
「逆に、あっちから誘えると思うか?」
「そりゃまあ、そうですけど」
「……ったく、しゃーねえな。未来のためだぞ」
「はい?」
美濃さんはスマホを手に取ると、しばらく画面上で探し物をしていた。
探し物が見つかると、画面を複数回タップして、耳に当てる。
「もしもし、和泉? いやー悪いね、急にかけちゃって。おー、そう言ってくれると助かるわ。あー、そうそう。和泉って明日暇? 一日中? マジ? もし和泉がよかったらなんだけどさ、今から俺ん家で飲まない? そそ、遅い時間で悪いね。あーいやいや手土産なんかいらないし、今度なんならお詫びにメシ奢るからさ。いやーありがとう。家の住所と部屋番号送るわ。はい、ありがとねー。じゃ、また後で」
「……来るんすか、和泉」
「いい後輩じゃないの」
「俺もそう思います」
「そう思うなら、ちゃんと話し合えや」
ぐうの音も出ない正論に、俺は返事の代わりとしてグラスの中身を一気に呷った。
美濃さんは、黙って次の一杯を注いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます