第39話 鍵交換
「ん……」
目を覚ますと、俺の右腕の中ですやすやと寝息を立てる真奈美が目に入った。
充電コードを手繰り、スマホの画面を見る。
まだ、7時。
金曜は2限からなので、原付を取りに行っても余裕で間に合う時間だった。アラームも普段は9時にかけている。
真奈美も確か金曜は2限からだったはずなので、このまま起こさずにおいてやろう。
とは思ったものの、いい夢でも見ているのか、へらりと笑った真奈美が愛おしくて、彼女の頭を撫でた。
腕枕のせいでぴりぴりと痺れた感覚が手と腕を伝うが、昨晩感じた刺激からしたらなんてことはない。
1分ほど撫でていると、真奈美が薄目を開けた。
「ぁ……」
「ごめん、起こしちゃったか」
「ん……おはよ……」
「おはよう」
まだ寝ぼけているのか、真奈美は俺の首に手を回してきた。
俺たちは、同衾の終わりと、彼氏彼女としての1日の再開を告げるキスをした。
金曜の講義ほど、身に入らないものはない。
特にその日の最終の3限なんかは、月曜1限よりも集中力が落ちる。
翌日からは休日が始まるし、それが小難しい式が次々と並びたてられるだけのものであればなおさらだ。
興味のある分野の難易度の高さを改めて実感しつつ、俺は帰宅の準備を始めた。
真奈美に渡してしまってなくなった俺の分の合鍵を作る必要があるし、何より早く真奈美に会いに戻りたかった。
学部の友人達に別れを告げ、俺の元に帰ってきた原付を法定速度ギリギリで飛ばして自宅へ向かう。
家の近くの鍵屋に寄る、そこには真奈美がいた。
「真奈美?」
「慎吾? どうしたの?」
「昨日原チャパンクしたから、自分の分の合鍵作って帰れなかったんだよ」
「え、じゃあこれ無くしちゃヤバかったじゃん」
「本鍵あるから大丈夫だよ。すみません、これの合鍵ひとつお願いします」
店員に今作製している合鍵の後であると伝えられたので待合用のベンチに座ると、真奈美が俺に昨日渡した合鍵を返してきた。
「え、なんで」
「まあまあ」
店員の「終わりました」との声を受けて、真奈美が今しがた作製された合鍵を俺に渡してきた。
「はい、私の家の合鍵」
「……おう、ありがと」
男性が家の合鍵を渡す光景はよくあるシーンであり、渡すのに特に気恥ずかしさはなかったが、その逆をやられるとかなり小っ恥ずかしい。
しばらくすると、俺の分の作業が終わったようなので、受け取りにいく。
「慎吾、そっちちょうだい?」
「……いらないんじゃなかったのかよ」
「そんなわけないじゃん。慎吾が、私に渡すために作ってくれた方が欲しかったの」
訂正。
やっぱり渡す方も、恥ずかしい。
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