第5話 See You
飲み会も終わって、それぞれが帰途につく。
3回生は実家住みの新入生達を駅まで送って初めて解散となるが、2回生は会計を済ませたら帰っていいことになっている。
が、下宿組の新入生もいるので、そっちを帰り道が同じ2回生が送ることになる。
かくいう俺も、ウタやバッシーと一緒に去年は美濃さんと小刀さんに送られて帰宅した。
小刀さんを送り届けた美濃さんの第一声は「お前ら、麻雀できるか」だったことを今でもよく覚えている。
で、今年は俺達3人が新入生を送る番なのだが――
「こっち方向、真奈美だけかよ」
「みたいだね」
なぜか、ウタとバッシーはその任務を放棄している。あの野郎ども、狙ってる新入生女子の方行ったかなんかしたな。絶対に先輩にチクってやる。
しかも、新入生で俺の家と同じ方向に住んでいるのは真奈美だけという始末。
前回の土下座謝罪事件の帰りに送って行ったから場所は知っているし、今日送る羽目になるのは承知していたが、他にも新入生はいるし、上回生にはウタやバッシーがいるから大丈夫だろうと呑気に構えていた。
「帰ろっか」
「そうだな」
2人、アパート街を並んで歩く。
あの頃と同じように、俺が車道側に立つ。
あの頃と違って、2人の間には拳2個分の空間がある。
「ねえ」
「なに」
「家、行っていい?」
「もう遅いから、駄目」
じきに日付が変わってしまう時間帯。
そうなったら、泊まる流れになってしまうかもしれない。
大学生以上の男子が女子を家に泊めるというのは、そういう行為に及ぶのを暗に求めていると俺は考えている。相手が彼氏持ちだったり、自分が彼女持ちなら、そういう行為はすべきではない。
確かに俺には彼女がいないし、真奈美としたい気持ちがないわけではない。が、あんなことを言った以上、アタックをかけられて早々に陥落したというのでは格好がつかない。
ちっぽけな男のプライドが、本能を必死に押さえつけていた。
「じゃあ、明日の練習の後は」
明日ぁ!?
ま、まあ、明日は飲み会もないから遅くもならないし、俺も練習後は暇だから、大丈夫か。大丈夫だよな?
「……まあ、それなら」
「やった」
ぱっと咲いた笑顔と、ぴょんっと跳ねる仕草に、心臓がうるさくなる。
……俺って、もしかしてチョロい?
ていうか、明日の練習に来るってことは――
「……CROSSOVER、入るの?」
「うん」
「そっか。今日、楽しかった?」
「うん。小刀さん、すごくいい人だった。チーム組ませてもらった先輩も、めちゃくちゃ盛り上げてくれたし」
「なら、良かった」
俺がいるから入るとかそういう理由で入ってほしくなかったので、それならよかった。
「ひとつ気になってたんだけどさ」
「ん?」
「サークル名、なんでCROSSOVERなの?」
「創設者がアレン・アイバーソンの大ファンだったから」
「なるほどね」
「アイバーソンのこと説明しなくていい女子、なかなかレアだぞ。」
「え、そうなの?」
少し意外という表情で真奈美は俺を見上げる。俺達の高校の部活で異常にNBA人気が高かっただけで、世間ではバスケをやっている人間でもレブロンやコービー以外は知らないという人間も多い。かくいう俺も去年ショックを受けた側の人間だったので、気持ちはわかる。
「女子で詳しいの、小刀さんくらいだな。ちなみにあの人の前でレイカーズ煽るとマジでキレるから気をつけなよ」
「へえ、小刀さんもNBA好きなんだ。ていうか、慎吾なんでそんな小刀さんに詳しいの」
後半部分の声のトーンが1段階低い。
他の女の話すると不機嫌になるのは、昔から変わっていない。
「美濃さんに雀卓で惚気も愚痴も散々聞いたからな」
「……なんか、ごめん」
もう1段階トーンが下がった。
こういう時は、本気で申し訳ないと思っている時だ。
「ほら、着いたぞ」
「ありがと。また、明日ね」
「そうだな、また、明日」
髪型やメイク、服装は昔から少し変わっていたが、声のトーンにそのまま感情が乗っているのは全く変わりなかった。
「また、明日か」
なんだか、
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