第98話 「大好き」
「俺じゃ、ダメなのか」
その言葉に、しばらく返事はなかった。
さぁっ、と風が木々を揺らし、葉と葉の擦れる音が、妙にうるさく感じた。
「俺、バカだからさ。今、気付いた。西野のこと、好きだって。友達とか妹みたいにしか見てなかったくせに何言ってんだって自分でも思うけど、でも、俺は西野の側を離れたくない。西野は俺以外に好きな男がいるかもしれないけど、俺は、西野じゃなきゃ、嫌だ」
俺は一度立ち上がって真奈美の正面に移動し、跪いて真奈美と目線を合わせた。
「俺、西野のこと、好きだ。だから俺と、付き合ってください」
「……ばか」
「えっ」
「なにそれ。今自覚したって。ふざけないでよ。私の片想いはなんだったっていうの。この関係を壊したくなくて、バスケ部の夏合宿でふたりきりの時も、文化祭のキャンプファイヤーの時も、他にも絶好の告白タイミングいっくらでもあったのにスルーしてきたのに、なにそれ。ばっっっっっっかじゃないの」
「……えっ、と」
「ここまで言ってまだ気付かないの、この鈍感でくのぼう」
「その、えーっと……ごめん、ちょっと待って、嘘だろ」
「嘘なわけないでしょ、ばか。私も、櫻木くんのこと、好き。ううん、大好き」
ぽろり、ぽろりと、真奈美の目から涙が溢れ落ちた。
俺も、つられて泣いてしまった。
「西野のこと、俺も、大好きだ」
「うん、うん……っ!」
「俺を、西野の彼氏にしてほしい」
真奈美が、俺に飛び込んできた。
抱き止めると、胸元から小さく「はい」と聞こえた。
「と、まあこんな感じで最初のお付き合いが始まりまして」
「はー、櫻木さんってクソ鈍感野郎だったんですね。今じゃ想像つきませんよ」
「おい三尋木、クソは余計だろ。だいたいそっちだって『私のこと後輩としか見てくれるないんですぅ』とか愚痴りまくってたじゃねえかよ」
「ちょ、なんで言うんですか! 剛さんは特別です! ていうか、結局付き合えたんだからいいじゃないですか!」
「じゃあ俺らもそうじゃん。なあバッシーよ」
「いや、俺もサクもクソ鈍感野郎でいいんじゃねえかな」
「剛さんは違います! 自信持ってください!」
「そう? 今思えば恥ずかしい限りだけどな」
「じゃあ、その分までいっぱい愛してください」
ぽすん、とバッシーの胸元に飛び込む三尋木を見て、やれやれ、と俺は首を横に振った。
横の真奈美は、楽しそうにくすくすと微笑んでいる。
「でも、不思議ですよねー。真奈美ちゃんがこの流れから2年後に櫻木さんのことフっちゃうんですから」
広橋の一言に、真奈美の表情が一転して真顔になった。
「歩、その話だけは勘弁して。マジで思い出したくないの」
「ま、今はこうやって元サヤなんだからいいんじゃないの? それに、俺と真奈美が別れたのが廻り廻って広橋は和泉と付き合えたとこあるんだしさ」
「そんなこと……あるかもしれないです。大輔の好意に気付いてないかもですし、気付いたとしても今までの男と同じ目で見てたかも」
「その件については大変お世話になりました」
「それに、あのまま付き合ってたらいつか別れてたかもしれないわけだし。一度別れたからこそ、二度と離れないって決意が生まれるわけよ」
「なるほどー。じゃあ大輔、私たちも一度別れて――」
和泉が、広橋を抱きしめた。
傍目から見ても力を入れすぎに思えるほどに、強く。
「絶対、いやだ」
「……ケースバイケース、ってことですね。あはは」
「そういうこっちゃな。和泉、多分広橋痛がってるから緩めてやれ」
「……いやです。痛いのなら、別れるとか冗談でも言った罰です」
「大丈夫ですよ。最近痛いのも気持ちいいって思えるように――」
「ここで下ネタぶっこむんじゃねえよ!!」
結局、解散まで和泉は広橋を抱きしめたまま離さなかった。
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